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米沢上杉あやかしうさぎ茶房  作者: 沖田弥子
第一章 俺様うさぎと美貌の若様
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ふたつの勾玉

 直江兼続の娘だったなお姫は歴史に残されていない。それを因幡が知っているということは、彼の話には信憑性があった。

 南朋は冷や汗を滲ませつつ、目の端で謙介を見た。

 上杉景勝の子孫である謙介は当然、大妖怪が封印された顛末を存じているわけである。そして、南朋が直江兼続の末裔であり、因幡の目的の嫁であることもわかっているはずだ。

 だが彼は涼しい顔をして因幡を支持する。

「僕は因幡の話を聞いて共感したよ。哀しい恋を諦めるのはつらいよね。だから、とりあえずうちのカフェで働きながら、お嫁さんを探せばいいんじゃないかなと提案したんだ。因幡には不思議な魅力があるから、うさぎたちも素直に言うことを聞いてくれるし、お客さんも喜んでくれるしで、大助かりだよ」

「おう。なんたって俺は、うさぎの頭領だからな。眷属をまとめたほうが、人捜しもしやすい。上杉家には恩義を感じるぜ」

「どういたしまして。直江兼続は上杉景勝、つまり僕の遠いご先祖様の部下だったからね。責任を感じるのは当然だよ」

 爽やかな笑みで応援する謙介は、どうやら確信犯のようである。

 因幡を壺に封印した悪者は直江兼続であり、上杉の殿様はかかわっていません、というスタンスのようだ。歴史的事実がどうかはともかく、謙介がそういった角度で因幡を説得しているのは間違いない。そして現在の直江家についても、知っている情報は何も晒していないようだ。

 これは……正体がバレたら、大変なことになるわよね。

 南朋がこのカフェを訪れさえしなければ、平和な時が流れたのではあるまいか。今すぐに席を立って店をあとにしたほうがよいだろう。

 しかし謙介と因幡に挟まれているので、どうにも帰りづらい。ふたりとも仕事に戻ってくれないだろうか。

 タイミングをうかがいつつ、南朋も謙介に同調した。

「私も応援してるよ。お嫁さん、見つかるといいわね。ほら、うさぎは多産だっていうものね」

「なお姫は人間だぞ」

「あっ、そ、そっか。でも因幡はうさぎの大妖怪なんでしょ? すっごく強そう。圧が」

 動揺のあまり、何を言っているのかわからなくなる。

 謙介が暴露しない限り、南朋が直江家の者だとはバレないはずだが。

 因幡はふと自らの胸元を探り、着物の袷から鈍色に輝くものを取り出した。

「まあな。四百年も眠ってたから妖力は鈍ってるが、この勾玉がある」

 南朋は目を瞠る。

 革紐に吊り下げられたその勾玉は、南朋の持つものとそっくりだったからだ。

 ただし上下は逆である。くっつけると、ひとつの円になりそうな形状だ。

「えっ……その勾玉、ふたつあったの?」

 その疑問に、因幡は白い眉を跳ね上げる。

「なんで勾玉がふたつあると知ってるんだ?」

「えっ⁉ ほら、合体するとひとつになるとか、そういうアクセサリーでしょ? 恋人同士でひとつずつ持つのよね」

 声が上擦っているが、咄嗟の誤魔化しは的を射ていた。因幡は物憂げな表情で、翡翠色の勾玉を見つめる。

「そのとおりだ。俺は婚姻の証として、なお姫に勾玉の片割れを授けた。時は経ったが、なお姫の勾玉は必ず現世に残されているはずだ。それを持っている人物こそが、なお姫の生まれ変わりだからな」

「……なるほど~」

 お探しの勾玉はもしかすると、とっても近くにあるかもしれないですね。

 家宝の勾玉はいつも首から提げている。シャツの中に仕舞っている勾玉の感触を意識した南朋は、ごくりと唾を呑み込んだ。

 直江家に伝わる家宝とのことだが、どうやらもとは因幡の所持品だったらしい。なお姫はそれを知りながら、家宝として子孫に受け継いだのだ。封印された因幡を哀れんだのかもしれないし、本当にふたりが恋仲だったのなら、来世で結ばれようとでも願ったのかもしれない。

 すっごく困るな~……

 南朋はひっそりと、ご先祖の行いを恨んだ。

 解決できなかった問題を子孫に丸投げするのは勘弁してほしい。

 とはいえ、勾玉を捨てるわけにもいかなかっただろうけれど。

 直江家に伝わっている伝承が、因幡の話と齟齬があるので確認しておく。

「つまり、片割れの勾玉を持っている人が、なお姫の生まれ変わりで、因幡のお嫁さんになるわけ?」

「そうだ。なお姫の生まれ変わりなら、顔を見ればわかるはずだ。だから俺は常日頃から女の顔をよく観察している」

「へえ……」

 真紅の双眸に力強い眼差しを湛え、因幡は南朋の顔を凝視しながら語る。

 だが因幡は何も感じないらしい。

 ……どうやら、南朋はなお姫の生まれ変わりとやらではないようだ。一応は子孫ですが。

「なお姫はすごい美人だったの?」

「そうだな。凜として気高い女だった。そして心優しく、温かかった」

 因幡は懐かしく思い出すように、遠くを見やる。ふいに謙介が、波紋を生み出す声をかけた。

「南朋ちゃんに、似てないかな?」


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