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米沢上杉あやかしうさぎ茶房  作者: 沖田弥子
第一章 俺様うさぎと美貌の若様
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素晴らしきカフェライフのはじまり

 面接とは??

 そんな話はどこから出たのだろう。

 呆然と佇む南朋に、謙介は極上の微笑を向ける。

「今日から南朋ちゃんは、『上杉うさぎ茶房』の立派なスタッフだ。僕たちと楽しくやっていこうね」

「……え、あの、お手伝いは今日だけじゃなかったの……?」

 店が忙しいので急遽手伝うことになっただけのはずだが、なぜか正式なスタッフに任命されてしまった。

 私のスキップはそんなに、うさぎらしかったかな??

 自分には何の価値もないと、失職したときは落胆したものだが、まさかスキップの才能があったとは驚きだ。

 首を傾げていると、因幡も謙介に同調する。

「こいつなら新しいしもべとして充分だ。今までは俺たちふたりでほとんどこなしていたから、手が回らなかったぜ」

「そうだね。スタッフを雇おうにも、うちは大妖怪の因幡とあやかしうさぎたちがいる特殊な環境だから、誰でもよいというわけにもいかないし。その点、南朋ちゃんは浅からぬ縁だから巻き込みやす……こほん、親戚だから事情を理解してくれて助かるよ」

 どうやらふたりは新しいスタッフを探していたらしいが、しもべだとか、巻き込みやすいとか、どうにも怪しい言い方である。南朋は頰を引きつらせた。

「急に言われても……ちょっと考えさせてもらってもいい?」

 因幡の最終目的は、なお姫の生まれ変わりを嫁にもらうこと、そして彼女の勾玉を取り戻すことである。それらは彼の目の前にそろっている。このカフェで働いて、毎日顔を合わせていたら、さすがにバレてしまうのではあるまいか。謙介もそれは予想しているはずだ。

 やんわりと断ろうとした南朋だが、因幡は傲岸に告げた。

「いいぞ。一分な」

「い、一分⁉ 一刻の間違いじゃない? 四百年、壺に引きこもってたから勘違いしてない?」

 一刻は現代の時間にすると二時間である。

 だが腰に手を当てた因幡は、真紅の双眸をひたと南朋に据えた。

「おさわりは十分が基本だからな。俺は六十進法を理解している。四百年の引きこもりだからってなめるんじゃねえぞ」

 そういえば、彼はお客さんに料金システムを説明していた。

 俺様接客だけれど、カフェの仕事にまつわる基礎的なことは謙介が教えたのだろう。

 純白の耳を、ぴょこんと動かした因幡は凶悪な笑みを精悍な面立ちにのせる。うさぎはか弱い小動物というイメージなのに、因幡はさながらうさぎの皮を被った猛獣である。

「一分経ったな。返事を聞かせてもらおうか。『やります』か『よろしくお願いします』の、どちらかを選べ」

 断る選択肢が用意されていない。

 謙介に助け船を出してもらおうと、おそるおそる横目でうかがう。

 すると、優雅な若様の面を被った腹黒策士は、さらりと爆弾発言を投げた。

「ほら、過去の因縁に終止符を打たないとね」

 楽しげに吐かれた台詞に、ごくりと息を呑む。

 どうやら謙介は、直江家と因幡の因縁について、子孫の南朋がきっちり解決すべきと言いたいようだ。

 確かに、四百年受け継いだ勾玉や過去の確執について、南朋の代で決着をつけたほうが、のちの世に禍根を残さないだろう。

 壺を開けてしまった謙介の片棒を担がされた気がしないでもないが。

 因幡は不思議そうな顔をして謙介に問いかけた。

「過去の因縁って何だ?」

「南朋ちゃんは前に勤めていた会社が倒産して失職したんだ。だから、ここで働いてもまた同じ目に遭ったらどうしようと心配なんだよ。そういう意味での過去の因縁だね」

「なるほどな。俺がいるからには、この店は潰れないから安心しろ。くだらない過去の因縁は断ち切れるからな!」

 とても頼もしい励ましに、南朋は菩薩のごとく穏やかな笑みを浮かべる。

 完全に退路を断たれると、かえって安らかな気持ちになれるようだ。

 南朋は選択肢のひとつを選んだ。

「……よろしくお願いします」

 俺様な大妖怪うさぎと腹黒の若様に挟まれ、明日からこのカフェで働くことになってしまった。

 飛び跳ねるうさぎたちが、南朋の前途多難な行く先を応援しているかに見えた。


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