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米沢上杉あやかしうさぎ茶房  作者: 沖田弥子
第一章 俺様うさぎと美貌の若様
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ぱふぱふうさぎパフェ

「……すごく、乙女チックで可愛いメニューばかりね」

 おさわり部屋といい、どこか淫靡さの含まれるこれらのシステムが、可愛らしいうさぎカフェに練り込まれているわけである。爽やかなイケメンの謙介が考案したと知らされると、ドン引きを通り越して滾るかもしれない。聡明な若様の闇は深い。

「そう言ってもらえると嬉しいよ。はい。『ふわふわうさぎパンケーキ』と『ぱふぱふうさぎパフェ』のできあがり。飲み物もすぐ出るから、これを提供したらうさぎみたいに飛び跳ねて戻ってきてね」

「は、はいっ」

 銀盆にできたてのパンケーキとパフェをのせて席へ運ぶ。

「お、お待たせしました。『ふわふわうさぎパンケーキ』と『ぱふぱふうさぎパフェ』でございます」

 お客さんにフルネームを課しているのに、スタッフが省略するわけにはいかない。幸いにも、これらはそれほど羞恥をともなう名称ではないので助かった。

 パンケーキにはうさぎ型に粉砂糖がまぶされ、ふわりとした純白のホイップに宝石のようなベリーが添えられている。皿の縁には飛び跳ねるうさぎが描かれていた。カトラリーの柄はうさぎの顔だ。

 一方パフェは、立体のうさぎが造形されたクリームの周りに、星形のラムネが散らされている。添えられたウエハースは樹木、白桃は三日月を模しているようだ。うさぎが庭で遊んでいるストーリーが、パフェで表現されていた。 

 どちらの料理もとても美味しそうで、目で見ても楽しめる。うさぎ好きにはたまらないだろう。歓声を上げたお客さんはスマホを取り出し、料理を撮影している。

 自分が作ったわけではないのだが、南朋の心もほっこりと温まる。お客さんが喜んでいる姿を見るのは嬉しいものだ。

 笑みを浮かべつつ、キッチンへ戻るときは指令どおりにスキップをした。

 うさぎのごとく飛び跳ねよ、ということですので。

 キッチンカウンターには、すでにできあがった飲み物が並んでいる。温かいラテは冷めないうちに運ばなければならない。

「はい。『ラブ♡だいすきうさぎラテ』と、『愛のうさぎセレナーデ』だよ。ラブ、の部分は棒読みでなく、可愛く言ってね」

 キリッと目に力を込めてお願いされたので、南朋は笑顔で頷いた。

「了解です」

 無茶な指示の連続に薄らと疑問符が湧いたが、謙介はカフェのオーナーだ。すべては謙介がプロデュースしているので、彼の世界観を優先すべきである。その証拠に南朋がスキップしてもお客さんたちは驚くどころか、それが日常であるかのように受け入れているのだ。

 再び銀盆を持ってホールへ出ると、注文を頼むお客さんに声をかけられる。思いのほか忙しい。少々お待ちください、と笑顔で応じる。

「お待たせしました。『ラァブ♡だいすきうさぎラテ』と……」

 力の限り、可愛く言えた。が……もうひとつの、この藍色のジュースは何という名前だったろうか。ラブ、に集中しすぎて忘れてしまう。

 お客さんが、こっそり小声で教えてくれた。

「愛のうさぎセレナーデ、です。噛まないよう、気をつけて!」

 言い間違えたり、噛んでしまうと何らかのペナルティが課せられるのだろうか?

 怖くてとても聞けない。

 にっこりと笑顔を浮かべた南朋は、「愛のうさぎセレナーデ、でございます」と歌うように言い切った。

 そうしてキッチンへ戻るときは必ずスキップをする。あくまでも優雅に。

 客席からは、にこやかな笑みで見守られた。


 ランチタイムが終わって、店はひと段落した。

 最後のお客さんを見送ると、店内はまつりが終わったかのような一抹の寂しさが漂う。

 嘆息した南朋は食器を片付けて、テーブルを拭いた。

「なかなかやるじゃねえか。ちんちくりんなんて言って悪かったな。おまえの飛び跳ねるさまは、うさぎらしく堂々としてたぜ、南朋」

 いつの間にか、うさぎの一員である。因幡に褒められて、己の行いを振り返った。

 南朋にとっては短時間のお手伝いだが、お客さんから見ればカフェのスタッフだ。粗相があってはいけないと必死になり、謙介に言われるがままスキップをしたり、珍妙なメニュー名をノリノリで発したりしたが、冷静になって考えるとかなり恥ずかしい。

「そうかな……。私もいつか月で餅つきできるかな……なんてね」

 乾いた笑いを浮かべつつ、軽口で因幡に返す。

 大妖怪のお墨付きを得られたようで大変光栄です。

 エプロンを外した南朋は、そそくさと裏口から帰ろうとした。

 すると謙介が素早くキッチンから出てくる。なぜか彼は両腕を広げて、飛び込んできてねと言わんばかりの体勢だ。お手伝いしただけであって、スキップコンテストで優勝したわけではない。

 不穏なものを感じたが、挨拶は必要である。

「ありがとう、南朋ちゃん。とても助かったよ」

「どういたしまして。カフェラテ代ということだからもちろんお給料なんかはけっこうですので、それでは……」

「喜んでね。面接は合格だよ」

 去ろうとして背を向けかけたところ、謙介から思いもしない言葉が飛び出る。南朋は睫毛をぱちぱちと瞬かせた。


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