真夏の残り雪
「木村君、君、一体誰が好きなの?」
黒髪ロングで前髪パッツンな真面目そうな女子が、同じく黒髪で引きつった笑みを浮かべた男子にムッとした表情を浮かべ詰め寄っていた。
彼女の後ろには詰め寄る女子同様、ムッとした顔の女の子や、眉根を寄せ目を潤ませている子の他、顔を両手で覆い泣いている子もいる。
「それはだねぇ、山本さん……なんていうか、困っている奴を放っておけないこの俺の性がだねぇ……」
「皆に優しくして皆に好かれようなんて……そんなの不健全よッ!! ここにいる子達、みんな勘違いして、それですっごく辛かったって私に泣きついて来たんだからッ!!」
女子に詰め寄られる真咲を梨珠は少し離れた自分の席で冷ややかに眺めていた。
「はぁ……ラルフさんが一人に決めろッて忠告してたのに……ほんと相変わらずお人好しなんだから……」
ため息を吐いた梨珠はそう言うと、机に手を置きやれやれと立ち上がった。
真咲に詰め寄る女の子たちの後ろから声を掛ける。
「木村君、忘れてたんだけど、先生が呼んでたよッ! 聞きたい事があるんだってッ!」
「えっ、聞きたい事? ……あっそう!! じゃっ、じゃあしょうがない! 山本さん、悪いがそう言う事なんで、この話はまた後日」
「ちょっと木村君!! 待ちなさいよッ!!」
「サンキュー、梨珠」
女子の囲みから抜け出した真咲はすれ違いざまに梨珠に囁き、逃げる様に教室から出て行った。
中学二年生に梨珠がなった四月、真咲は言っていた様に本当に梨珠が通う学校に転入してきた。
そして彼は現在、梨珠のクラスメイトとして同じ教室で授業を受けている。
だが、真咲はどちらかと言うと、勉強よりも学生生活自体を楽しんでいる様だった。
彼はその学生生活の傍ら、以前の様に困っている人の悩みを解決している。
特に男女問わず悩み相談を受けていたがやはり女の子の相談には熱が入るのか、親身になって話を聞くうち彼に恋心を抱く者は当然、出て来た。
先程はその事で女子から相談を受けたクラス委員の山本が、真咲を糾弾していたという訳だ。
流石に中学生という事で言動には気を使っているのか、真咲は以前の様にいやらしい事は言っていない。
更に見た目がハンサムで物腰も柔らかく剽軽な真咲は、夏休み前の現在では男女ともに人気を集めていた。
「あの……木村先輩っていますか?」
梨珠のクラス、2-Bの教室の後ろのドアから一年生だろうショートカットの女の子が顔を覗かせている。
その子と目が合った梨珠は席から立つと、彼女に歩み寄った。
「木村君に何か用? 今、席を外してるけど、急ぎなら連絡してあげるよ?」
「えっと、私、一年C組の宮本千里です。実は旧校舎の事で……」
「旧校舎? あそこ立ち入り禁止じゃなかったっけ?」
「そうなんですけど……昼休みに友達の山田君が探検するって入って行っちゃって……山田君、もう放課後なのに戻ってこなくて……入ったのは私しか知らないし……」
なるほどと梨珠は微笑みを浮かべた。
この学校にも例に漏れず学校の七不思議というのがある。その一つに帰らずの旧校舎という怪談があるのだ。
何でも旧校舎は戦前、旧帝国軍の研究施設だったらしく、いまでもその研究に従事していた職員室の亡霊が徘徊しており、入り込んだ者を実験体にしてしまうそうなのだ。
千里はその噂を聞き、戻らない山田の事が心配になったのだろう。
「ふふ、大丈夫だよ。きっと旧校舎の何処かでお昼寝しているだけだよ」
「そっ、そうですよねッ!」
「千里ちゃんだっけ、私で良かったら一緒に旧校舎へ山田君を探しに行こうか?」
「えっ、先輩が? ……あのお願いしてもいいですか?」
「勿論ッ! 私は美山梨珠、よろしくね千里ちゃん」
「はっ、はい、よろしくお願いします、美山先輩!!」
運動部なのか、少し日に焼けたショートカットのその少女は両手を体の横にあて、勢い良く頭を下げた。
■◇■◇■◇■
「意外と……暗いんだね」
「そっ、そうですね」
旧校舎は木造作りの二階建て、以前は倉庫として使われていたが痛みも酷くなって来た事で取り壊しの話も出ていた。
しかし、取り壊すにも費用が必要な訳で、現在はその費用の目途が着くまで立ち入り禁止にだけして放置されている。
ギイギイと嫌な音を立てる木の廊下を、梨珠と千里は小さなキーホルダー型ライト片手に奥へと進んだ。
「山田くーんッ!! もう放課後だよー!!」
「柊斗ぉ!! 帰ろうよッ!!」
「へぇ……柊斗って名前で呼んでるんだ? もしかして付き合ってる?」
千里が山田を苗字では無く名前で呼んだ事で、梨珠はニヤッと笑い揶揄い半分で彼女に問い掛ける。
「あっ、えっと……幼馴染で……その……」
頬を染めて少し俯き加減で答えた千里の様子に、梨珠はうんうんと頷いた。
恐らく反応から見るに、千里は柊斗に好意を持っているのだろう。
「なるほどなるほど、片思いって奴だね」
「かたお……みっ、美山先輩、かっ、揶揄わないでくださいッ!!」
図星だったのだろう。千里は顔を真っ赤にしてブンブンと両の拳を振った。
「アハハッ、ごめんごめん」
「もうっ、先輩のいじわる……」
「だからごめんって」
ぎぃいいい。梨珠が笑いながら千里に謝った時、廊下の奥の暗がりから何かが軋む音が聞こえた。
「……山田くん?」
「柊斗……なの?」
暗がりから返事は帰って来ない。ごくりと唾を飲み込んだ梨珠は、左手で千里の手を握ると「行くよ」と声をかけ暗がりへと足を向けた。
■◇■◇■◇■
「なぁ、梨珠……美山さんは?」
クラスに残っていた女子の一人に真咲は梨珠の行方を尋ねる。
「ん? 梨珠なら下級生と一緒に旧校舎へ行くって言ってたよ……それより木村君、多香子、怒ってたわよ」
「えっ、山本さん、そんなに……?」
「君さぁ、優しいのはいいけど、そんなんじゃ勘違いする子がいてもしょうがないよ。止めた方がいいと思うよ、私はさ。じゃあね」
いつかどこかで似たようなセリフを言われたなぁと真咲は女子を見送りながら苦笑を浮かべると、旧校舎へと足を向けた。
真咲が校舎を出た時には日は傾き、旧校舎は茜色に染まっていた。
白いペンキの塗られた旧校舎の窓から見える教室は暗く沈んでおり、七不思議の舞台とされるのも納得の不気味さだった。
まぁ、吸血鬼である真咲にとっては怪異は珍しくもなんともない日常の一部であるのだが……。
そんな事を考えつつ旧校舎の裏に回り、ほんの少し開いていた窓を見つけそこから中に入る。
立ち入り禁止の旧校舎だが、どの学校にもいる悪ガキにとっては絶好のサボリ場所だ。
そういう連中とも相談を通じて付き合いのあった真咲は、彼らから出入りする方法を聞いていた。
「裏側の窓の一つが鍵が壊れれてよ。そっから忍び込めるんだ。ただ、最近、あそこ居心地悪くてよぉ」
「居心地が悪い?」
「ああ、教室の一つにソファーとかテーブル持ち込んで、前はそこで仲間とだべってたんだけど、近頃、なんか見られてる気がしてよぉ……いい場所だったんけど、今は殆ど行かね」
「見られてるねぇ……」
「噂もあるしサボれる場所はあそこだけじゃねぇからな……サボリたいなら真咲も使っていいけど、あんまお勧めはしねぇよ」
「そうか……教えてくれてサンキューな」
最近になって視線を感じる様になったという事は、何かが棲み付いたのかもしれない。
教えられた窓からスルリと旧校舎に入り込んだ真咲は、スンと鼻を鳴らし梨珠の匂いを辿って薄暗い旧校舎の探索を始めた。
■◇■◇■◇■
「……じゅ! おい梨珠! 起きろッ!!」
「ん……真咲?」
「大丈夫か?」
「う、うん……少しボンヤリするけど……」
真咲に揺すり起こされた梨珠は体を起こし周囲に目をやった。
どうやら旧校舎の教室の一つの様だ。
隣には梨珠と共に旧校舎に入った千里が教室の床に倒れている。
「千里ちゃんッ!」
「さっき確認したが、お前と一緒で気ぃ失って倒れてるだけだ。命に別状はねぇよ。それより何で旧校舎に?」
「えっと、千里ちゃんの幼馴染の山田柊斗君って男子が、旧校舎に忍び込んだまま放課後になっても帰ってこないんだって、だから一緒にその柊斗君を探してたんだけど……なんか白い和服の女の人を見たと思ったら部屋が凄く寒くなって、それでなんだか立っていられないぐらい眠くなっちゃって……」
梨珠の話を聞いた真咲は顎に右手を当て視線を巡らせる。
「白い和服の女……梨珠、お前、その女に触られたり噛まれたりしたか?」
「見た瞬間に気を失ったみたいだから、分かんないけど……体は何処も痛くないよ」
「……吸血鬼じゃねぇのか……」
「ねぇ、真咲、柊斗君、大丈夫だよねぇ……?」
「分からねぇ、相手の目的も不明だしよ……へへッ、そんな顔すんな、その柊斗って奴は必ず助けてやるからよ」
真咲はそう言うと、不安そうに眉根を寄せた梨珠の頭を優しく撫でた。
「うん……ありがと、真咲」
「うーん……」
頭を撫でられ梨珠がはにかんだ横で、教室の床で眠っていた千里が目を擦り上体を起こす。
「あれ……なんで私……」
「大丈夫、千里ちゃんッ!?」
「……美山先輩? ……そうだ、柊斗をッ!」
両肩を掴まれた千里は寝ぼけているのか、最初はボンヤリと梨珠の顔を見返していたが、やがて状況を思い出し慌てて立ち上がろうとした。
「落ち着いてッ! 大丈夫、真咲が来てくれたから」
「真咲? あっ、もしかして木村先輩ですかッ!?」
「おう、木村真咲だぜ。梨珠から話は聞いた。千里ちゃんだっけ? 後は俺にまかせて君は梨珠と一緒に今日は家に帰りな」
「えっ、でも……」
「不安かもしれないけど、真咲ならきっと柊斗君を見つけてくれるから……ねっ?」
「……あの……お願いしてもいいですか?」
千里は瞳を潤ませ縋る様に真咲を見た。
「おう、俺は美人の頼みは断らない事にしてるんだ。大船に乗った気持ちで任せてくれていい」
「えっ、びっ、美人ッ!?」
「ああ、気にしないで、こいつ可愛い子にはすぐこういう事言うから」
「かっ、可愛いッ!?」
日に焼けた顔を真っ赤にした千里を見て、真咲と梨珠は顔を見合わせ笑みを浮かべた。
■◇■◇■◇■
暗く冷たい部屋の中、少年は不意に目を覚ます。
ここは何処だろう……自分は確か七不思議の噂のある旧校舎に忍び込んだ筈なのだが……。
そんな事を考えていた少年は部屋の温度の低さに思わず両腕を擦った。
季節は夏、野外、いやエアコンを掛けた室内でも設定温度が27度の教室では汗ばむ事もあるというのに、今、彼がいる部屋は真冬の様に寒かった。
「目が覚めたのですね、喜一郎様……」
聞こえた声に視線を向けると、そこには和服を着た黒髪の美女がこちらを見て瞳を潤ませている。
「喜一郎? 喜一郎……確か空襲で死んだひい爺ちゃんの弟がそんな名前だったような……?」
「空襲で死んだ……?」
「はい、前に家族のルーツを調べる宿題があって、その時に爺ちゃんに聞いたんですけど……ていうかここは何処なんですか? それにあなたは?」
「…………私の名は雪華……喜一郎様の……うぅ…………」
雪華、そう名乗った女はそれ以上言葉を紡ぐ事が出来ず、両手で顔を押さえハラハラと潤んだ瞳から大粒の涙を流した。
女が流した涙の粒は床に落ちる前に凍り、透明な氷の粒となって木製の床に転がった。
それを見た柊斗は目の前の美女が人では無いと気付いた。しかし、顔を押さえ涙を流す女が余りにも哀れで思わず彼女の前に膝を突く。
「あの、大丈夫ですか……あなたは喜一郎さんの……その知り合いなんですか?」
「スンッ……喜一郎様は私の全てで御座いました……妖の身である私を愛し、私もあの方を愛した……だからあの方の研究にも率先して協力いたしましたのに……」
「妖……それに研究……?」
「……あの方の血族に会えたのも何かの縁、私の話を聞いて頂けますか?」
雪華は縋る様に柊斗を見つめる。女性に、それも飛び切りの美女にそんな目を向けられた事の無い柊斗は、頬を赤らめごくりと唾を飲み込むとゆっくりと頷いた。
二人は冷たい床の上、向かい合って座る。
それから雪華が語った話は平和な時代に育った柊斗には信じられない様な物だった。
戦争も終わりに近づいた頃、戦局の打開を模索していた日本は怪しげな研究に手を染めていた。
それは一般的に妖怪と呼ばれる者達、彼らの力を解析しそれを兵器として運用しようという物だった。
研究には雪華の他にも狐狸や雷獣、鬼なども協力していたそうだ。
しかし解析は進まず、やがて本土にも爆撃機がやって来るようになった。
研究所に勤めていた職員の一人、山田喜一郎は空襲警報が鳴り響く中、雪華を地下の資材庫の奥にあった氷室に閉じ込めた。
「ここなら研究所が空襲を受けても平気な筈だ」
「喜一郎様も一緒に……」
「いや、市内にいる家族が心配だ。様子を見て来るから雪華はここでじっとしていなさい。家族の安全が確認出来たら戻って来るから……いいね?」
「……はい。雪華はここで喜一郎様のお戻りをお待ちしております」
「いい子だ」
喜一郎はそう言うと彼女の頭を優しく撫で、氷室の扉を閉ざした。
その後、季節は流れたが喜一郎が戻る事は無かった。
それでも彼を待ちたい雪華は力の温存の為、眠りにつく事にした。
扉を開け喜一郎が迎えに来るその日まで。
それから数十年の時が流れ、老朽化によって壁が崩れた事で雪華は目を覚まし氷室から出た。
学校施設に改装され様子の変わった研究所を喜一郎を探し彷徨う日々が続いた。
戦前は見た事の無かった金や栗色の髪の少年達の姿を覗き見る内、随分と時が過ぎたのだとは気づいた。
そして今日、喜一郎に瓜二つの柊斗を見て、思わず氷室に連れ込んでしまったのだという。
「……喜一郎さん……僕からしたらひい爺ちゃんの弟って何になるんだろう……?」
「……曾祖叔父でしょうか?」
柊斗の素朴な疑問に答えた雪華はほんの少し笑みを浮かべた。
「曾祖叔父……ねぇ、雪華さん。それであなたはどうするつもりなの?」
「どうする……どういたしましょうか……喜一郎様のいない世で永らえても意味がありませんし……」
「意味が無いって……死んじゃうつもりなのッ!?」
「死ぬというのは正しくありません。我々、妖は人の様に亡くなるのでは無く消えるのですよ……あなたの服を見れば今、季節は夏、雪女が消えるには良い季節でしょう」
「だっ、駄目だよッ!! 消えるなんて言わないでよッ!!」
柊斗は思わず雪華の正座した膝の上に重ねられた手に自分の手を重ねた。
彼女の手は氷の様に冷たかったが、それでもかまわず握り締める。
「フフッ、あなたも喜一郎様と同じで優しい人ですね……あの方も凍傷になる事を気にせず私の手を握ってくれました」
そう言ってはかなく笑うと雪華は柊斗の握った手から自らの手をそっと引いた。
「雪華さんッ!?」
「もうお帰りなさい……」
「はぁ……今も昔も雪女は一途だねぇ……」
「あなたは?」
氷室の崩れた壁から顔を覗かせた真咲を見て、雪華は小首を傾げる。
「俺は木村真咲、そこにいる柊斗の幼馴染、千里ちゃんから柊斗を探してくれって頼まれた男さ」
「千里が?」
「ああ、お前が夕方になっても帰ってこねぇから、あの子心配してたぜ」
「それは申し訳無い事をしました……柊斗、その者と一緒にお帰りなさい」
「嫌だッ!! だって僕が帰ったら、雪華さん消えちゃう気なんでしょッ!?」
「雪は春には消えるもの……私は季節を過ぎて残り過ぎました」
そんな二人の様子を見て、真咲はボリボリと頭を掻いて苦笑を浮かべため息を吐いた。
「はぁ……柊斗、そんなにその雪女に生きて欲しいのか?」
「うんッ! だって……駄目だよ消えちゃうなんて……ずっと喜一郎さんを待ち続けて……目覚めたらもう死んでて……哀し過ぎるよ……雪華さんにはせめて今の時代で、楽しい事を一杯経験して欲しいッ!!」
「へへッ、柊斗、お前、いい奴だな…………手放すのはちぃと不安だが……」
そう言うと真咲は首に手を回し掛けていた黒革のペンダントを外した。
その後、雪華に歩み寄り跪くと右手に乗せた大粒の宝石を差し出す。
「……これは?」
「コイツは強い氷の力を持った吸血鬼の成れの果てだ。身に着けてれば夏の日差しの下でもあんたが溶けて消える事は無い筈だぜ」
「吸血鬼ッ!?」
「そんな驚く事じゃねぇだろ? 雪女がいるんだから吸血鬼がいたっておかしかねぇと思うがな」
驚き目を丸くする柊斗に真咲は苦笑を浮かべる。
「そりゃそうかもだけど……木村君だったっけ、君は一体……?」
「俺はこの学校の二年生で、そうだな…………やっぱ、便利屋だ」
そう言うと真咲は困惑する二人に向けてニカッと歯を見せて笑った。
■◇■◇■◇■
「ちょっと真咲、どういう事よ? 千里ちゃん、柊斗君がもの凄い美人と帰って来たって泣いてたわよ」
「えっ……と……それはだねぇ……なんというか場の空気がそうさせたというかだねぇ……」
「柊斗君、その美人さんを家に居候させて欲しいって、両親に土下座したらしいじゃない!? その上彼、その美人さんに付きっ切りで色んな所でデートしてるそうよッ!! どうして連れ戻すだけの筈が年上の彼女が出来る事になっちゃうのよッ!?」
梨珠に詰め寄られた真咲はまぁまぁと両手を上げて彼女を宥める。
「ありゃ、デートっていうか思い出作りで雪華も別に柊斗の彼女って訳じゃあ……」
「じゃあ一体何なのよッ!?」
「それはとても複雑で一言では説明が難しいかなぁ……」
「あたし、千里ちゃんの味方だからッ! 納得いく説明をしてもらえるまで今日は帰らないわよッ!!」
事務所のソファーに座り腕を組み梨珠はフンッと鼻を鳴らす。
「そったら香織さんにはオラが電話しとくだな」
「花ちゃん、ありがとう。さぁ真咲、何があったか説明してッ!」
繁華街、新城町の裏通り。ラーメン屋の二階に居を構える閉店中の便利屋では、その日、遅くまで少年と少女の声が聞こえていたという。
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