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乱暴な父と優しい娘

 その日、桜井(さくらい)の屋敷では侵入者除けの防犯ベルが鳴り響いていた。

 廊下を歩いていた十代半ばのブロンドでワンピースを着た少女がそのベルの音に顔を顰める。


「うるさいベルねぇ」

「まぁ、僕等は不法侵入者だからしょうがないよ」


 少女の言葉に同じくブロンドでブレザーを着た少年が返す。赤い目をしたその二人の顔は鏡に映した様に瓜二つだった。

 二人の後ろには元龍二(りゅうじ)の部下だった虚ろな表情の少年達が続いている。


「にしてもさぁ、緋沙女(ひさめ)様も何であんな男に(こだわ)るんだろうね?」

「確かにね。聞いた話じゃ僕たち幹部より強いらしいけど、ぶっちゃけ緋沙女様がいれば要らないと思うよね」

「言えてるー」


 そんな話をしながら匂いを手掛かりに彼らが辿り着いた先は、コンクリートで作られた体育館程の広さの何も無い空間だった。

 気が付けばベルの音も消えていた。見回すと壁には防音の為か消音効果の高いウレタンが張られている。

 その何も無い空間の真ん中、天井からのライトを反射する黒い人に似た何かと、妙齢の女性、そして十歳ぐらいの少女がこちらに視線を向けていた。


「何、あの黒いの?」

「さぁ? 情報だと多分、桜井っておじさんだと思うけど……」


 二人が困惑するのも無理は無いだろう。その黒光りする何かは二本の腕以外にも背中から計四本、黒いアームが伸び、その先にはそれぞれ戦争映画に登場する様な武器、そしてバリスティックシールドを二枚装備していた。


「お(とう)、やっぱりそれはやり過ぎでねぇべか?」

『そんな事は無い、お父さんがこの前戦った奴はマグナム弾を弾き返したんだよ? 用心するに越した事は無いさ』


 少し呆れを含んだ黒髪の少女の問い掛けに、黒のバイザー付きヘルメットから少しくぐもった声が返答する。


「……桜井殿、お主、本業は医者であろう? 何故、そのような物騒な物を?」

『私はもう失いたくないのだよ……大切なモノをね』

「……そうか」


 問い掛けた女性は桜井の答えに寂し気に笑った。


『さて……君達は緋沙女の部下だな?』

「様を付けなさいよ、人間」

「そうだよ、おじさん……僕等は緋沙女様にそこの二人を連れて来いって言われてる。素直に渡してくれたら、おじさんは見逃してあげてもいいよ」

『それは出来ない。一人は娘であるし、もう一人は友人のとても古い知己らしいのでね』


 返答を聞いたブロンドの二人は同時にため息を吐いた後、狂暴な笑みを浮かべた。


「「じゃあ、おじさんを殺して奪うしかないね!!」」


 同じ顔をした二人は全く同じ挙動で桜井に迫る。それに合わせ、二人が引き連れていた無表情の少年達も散開しつつ武器を作り出し桜井へと向かった。


『二人は下がっていなさい』


 そう言うと桜井はバイザーに表示された金髪の二人、更に彼らに続いた少年達に素早く視線を巡らせターゲットとしてロックを掛けた。


『マイクロミサイル発射後、チェーンガン掃射』


 桜井の言葉に反応し、アームの一本が掲げていた箱型のランチャーから小型のミサイルが十数発発射される。その後、別のアームに装備されたM134が唸りを上げて銃弾をばら撒いた。

 ブロンドの二人は咄嗟に霧となって飛び上がり何とかそれを避けたが、龍二の元部下たちはミサイルの爆炎と銃弾によって体を四散させ血の花を咲かせた。


「ちょっと聞いてないわよ!? 何よアレ、完全にSFじゃない!?」

「これは想定外だなぁ……仕方ない、融合して倒そう」

「ぶー、融合は分裂しても暫く変になるからヤなんだけどぉ」

「僕だって嫌だよ、男を見て欲情するなんてさ。でも一人でアレをどうにか出来る?」


 漂う霧を見上げ銃口をこちらに向ける黒い異形を見て、少女が変化した霧は渋々少年の霧と重なり合った。

 瞬間二人は混じり合い一人の中性的な美しい容姿の若者へと姿を変える。

 その若者に向けてチェーンガンが唸りを上げる。ブゥゥという発射音と薬莢が床に転がる金属音が響く中、二人から一人になった吸血鬼は銃弾を叩き落しながら、戦闘用のボディーアーマーを身に着けた桜井に肉薄した。


『チェーンガンまで弾くとは!? グッ!!』

「お父!!」

「桜井殿!!」


 その細身の若者の姿をした吸血鬼は、ボディーアーマーを着こんだ桜井の首を右手一本で持ち上げた。

 若者はギリギリと音を立て喉を締め上げるが、合金製の装甲を破る事は出来ないようだ。


『クッ、放したまえ』


 桜井の声と同時に右手が閃き、若者右腕が上腕部で切断される。


「「嘘ッ!?」」


 吸血鬼は男と女、二つの声を同時に放ちながら警戒する様に桜井から離れた。

 腕を切断し床に着地した桜井は、首を掴んでいた吸血鬼の右手をもぎ取ると無造作に投げ捨てる。


『身軽な方が対処しやすいか……』


 桜井は背中から生えた四本のアームをパージすると、先ほど右腕を切断したナイフを右手に構えた。

 戦うつもりの桜井に花が声を掛ける。


「お父、大丈夫だか!?」

『ああ、大丈夫だ。佳乃(よしの)(たえ)さんはもう少し下がって貰えるかい?』

「……分かったのじゃ、(はな)、少し離れよう、その方が桜井殿は戦いやすいようじゃ」

「んだ」


 花と妙は桜井から更に遠ざかる、バイザーに映し出される情報でそれを確認した桜井は、攻守を逆転し腕を再生させた吸血鬼に向かって踏み込んだ。

 ボディーアーマーの背部に設置されたスラスターが推進剤を吐き出し、桜井の巨体を一気に加速させる。

 ギィイインと耳障りな音を立て、突き出したナイフが硬化した吸血鬼の左腕の上を滑った。


「「クッ……君、ホントに人間かい?」」

『人外の者になった記憶は無いな』


 ボディーアーマーのアシスト効果により人を凌駕した動きで連撃を繰り出す桜井、それを硬化し刃と化した両腕で捌く中性的なブロンドの吸血鬼。

 戦いはほぼ互角で、一瞬の隙が雌雄を決すると思われた。


「その子に手は出させぬ!!」


 響いた声に桜井の注意が逸れる、思わず視線を向けた先では先程、投げ捨てた腕が宙に浮かび花を守ろうとした妙を襲っていた。

 妙は腕の攻撃を受け怯みはするものの、どんな攻撃を受けても瞬時に回復し花を守ろうと両手を広げて立ち続けている。


『妙さん……グフッ!?』

「よそ見しちゃあ駄目だよ」


 視線を戻すとブロンドの少年がボディーアーマーを突き破り、桜井の腹に手刀を突き立てていた。

 その手刀がグルリと回され桜井の内蔵を抉る。


『グオオオォ……』


 激痛に耐え兼ね桜井は苦痛の叫びを上げ、思わず膝を突き荒い呼吸を繰り返した。


「さて、ニアはもう終わったかな?」


 そう言って少年は手刀を引き抜くと、視線を花と妙、そして戦闘中に融合を解除した双子の姉ニアへと向けた。


「ちょっとぉ!? 花がこんな力持ってるなんて聞いてないよッ!?」

「嘘だろ……」


 少年の目が驚きで見開かれた。姉のニアの下半身が球状に広がった黒い闇に飲み込まれ、そこから逃れようと藻掻いていた。


「止めろ!! 止めないとこの人間を殺す!!」


 少年は腹を抉られ(うずくま)った桜井を指差し花に向かって叫ぶ。


「……こっ、これ以上、何もしねぇで引き換えすんなら、やっ、止めてもいいだ!!」


 ブロンドの少女ニアに両手を翳した花は声を震わせながら叫んだ。

 花の力は物体をこの世界から何処か別の、花にも分からない場所へ飛ばす物だった。


 遠い昔、瓦礫の下で喉の渇きと飢えに苦しんだ花は、その上に陣取った武士さえいなければと何度も思った。

 そもそも、あの武士達が攻めて来なければ、自分や咲太郎が瓦礫の下で息を顰める必要は無かったのだ。


 あいつ等、皆、消えてしまえばいい……そんな強い想いは吸血鬼となった彼女に物質を消す力を与えた。

 ただ、花自身、力に怯え誰かに向けて力を使う事は一度も無かった。

 使えば、どんな者でも、それは吸血鬼でも他の妖怪でも、あるいは神でさえも、二度とこちらには戻って来られない力だと花自身、気付いてしまったからだ。


 正直、今も脅しに使っているだけで、ニアを本当に何処かに飛ばす気は花には無かった。


「かっ、帰るだか!?」

「レア!! 私はいいからその男を人質にして二人を連れ帰りなさい!!」

「でも!?」

「きっと緋沙女様に褒めてもらえるわよ」

「そんな事、どうでもいいよ! ニアが……姉さんがいないと僕は……」


 レアの顔が辛そうに歪められた。

 

 その直後、ニアを飲み込もうとしていた黒い闇が唐突に消える。


「花!?」


 驚きの声を上げた妙を花は見上げ、はかなげに笑う。


「すまねぇな妙……やっぱりオラは意気地無しだぁ…………どこへでも連れてくがいいだ。ただし、お父と妙には手ぇ出すでねぇぞ」


 花が何故、術を解いたのか分からずニアとレアは困惑気味に彼女を見つめた。

面白かったらでいいので、ブクマ、評価いただけると嬉しいです。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 桜井さん、どんどんパワーアップしてるなぁ。冷酷になれない花、いいと思います。
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