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彼が誰を選ぶのか

 真咲(まさき)梨珠(りじゅ)のクラスメイト、駿(しゅん)の依頼を終えて数日が経った。

 あの後、駿と人魚の翡翠(ひすい)は警察の聴取を受け、その後、翡翠は未来が手配した海上保安庁の船に乗り家へと送られていった。

 梨珠の話では駿は宣言通り、自前のボートで二人だけの秘密の場所へ足繁(あししげ)く通っているらしい。


 闇オークションの方は九郎(くろう)率いる三課と、一課の隊員が佐藤の部下を捕らえた事で開催される事は無くなったようだ。

 佐藤を取り逃した事でいずれ復活はするだろうが、大勢の部下を失った為、復活には暫くかかる筈だ。


 聴取が終わった駿が一度、礼を言いに事務所を訪れた際、真咲は彼に翡翠の事も聞いたがどうも(おか)に近づく事を親に禁止されたらしく、彼女にグラマラスな人魚を紹介してもらうという真咲の願いは暫く叶いそうに無かった。



 そんなこんなで二月も終わりに近づいたある日、真咲は仲間を集めラルフの送別会を開いていた。

 場所はタマの店、まねき蕎麦。店はそれ程広い作りでは無いが、仲間内でやるだけなら十分な広さだ。

 カウンターには真咲と響子(きょうこ)が作った料理が並び、ビュッフェ形式で各々が好きな物を取る形にした。


 貸し切りの店内に集まったのは真咲と響子も入れると、梨珠とその母親の香織(かおり)珠緒(たまお)巳郎(しろう)愛美(あいみ)拓海(たくみ)桜井(さくらい)(はな)、そして(たえ)の十一人。

 皆、ラルフが帰国する事を喜びつつも惜しんでいた。


「皆さん、今日はこのような席を設けて頂き、誠にありがとうございます。日本にはまた仕入れで来る事になると思いますので、その時はよろしくお願いします」


「寂しくなるだなぁ……ラルフさんがいねぇと(さく)ちゃんの女遊びがぶり返しそうでオラ心配だよ」

「ふむ……妙さん、今、私が使っている部屋はあなたが入るのですよね?」

「その予定じゃが?」


 妙は彼女の話を聞いた正太郎が人魚に関する話をもっと詳しく聞きたいので、暫く街に住んでもらえないだろうかと提案した事で、真咲の事務所に新たに居候する運びとなった。

 生活費等は警察が協力金として妙に払う金の他、タマの店にバイトとして入る事で賄う事になっている。


「では今後、真咲さんの女性関係を注視(ちゅうし)してもらえないでしょうか? 複数の女性と関係を持つ事はやはりトラブルの原因になると思いますので……」

「……確かにそうじゃな。事務所に乗り込んで来られても迷惑じゃし……引き受けようぞ」

「ありがとうございます……これで私も安心して帰国出来ます」

「ラルフ、別に、んな事心配してもらわなくても……」


 そう言い掛けた真咲に梨珠がピシャリと言い放つ。


「真咲、花ちゃんや妙さんがいない間に女の人に声を掛ける気でしょう?」

「えっ……ぼっ、僕は、そっ、そんな事、みっ、微塵も、かっ、考えていないよ……」

「フフッ、真咲、喋り方が僕みたいになってるよ」

「そっ、そうかい!? おっ、おかしいなぁ」


 拓海が笑いながら指摘すると、真咲はアタフタと答えを返した。

 そんな真咲にラルフは苦笑を浮かべ問い掛ける。


「真咲さん、あなたは一体、誰を選ぶつもりなんです? 先に言っておきますが、全員とかは無しですからね」

「誰って……一体何の事だよ?」

「正式なパートナーですよ。ここにいる女性の中にも、あなたを慕っている方はいるようですし……どなたかに決めないと彼女達も辛いでしょう」


 ラルフの言葉で花は頬を染めて俯き、タマはにゃははと笑い声を上げた。

 そんな二人を梨珠は興味津々といった表情で眺めている。そんな中で妙は周囲に溶け込むように静かに微笑んでいた。


「この中に……?」


 真咲は集まった女性達に順繰りに視線を送る。

 梨珠は将来は分からないが今は真咲の守備範囲では無い、香織は美人だが女性というよりは梨珠の母親としての印象が強い。

 愛美は拓海の彼女だし響子はファンとして好きといった感じだ。


 残ったのは花とタマと妙だが……花には娘、もしくは妹といった家族としての感情しか今の所持っていない。

 タマは真咲にとって、女性としてよりも、やはり猫としての感覚の方が勝っていた。

 最後に妙だが、彼女は真咲と同じく長い時を生きる同志という感じだった。


「いるか? この中に?」

「はぁ……苦労しそうですね、彼女達も……」


 ため息を吐いてラルフはそっと花とタマに同情の視線を送った。


「ふぅ……その誰かさん達はもっと積極的にアピールしないと駄目みたいねぇ」

「だね。真咲君、女好きなのに自分に対する好意には鈍いみたいだから」


 香織と愛美が花とタマに一瞬視線を送りながら笑みを浮かべる。


「真咲、お前、慕ってくれる女がいるのに別の女性に声を掛けているのか?」


 結果的に拓海に失恋した蛇神の巳郎がジトッとした目を真咲に向ける。


「私も余りそういう事は感心しないな。佳乃の教育にも良くない」


 桜井はそう言うと隣に座っていた花の頭を優しく撫でた。

 ラルフの送別会だった筈だが、なんだか真咲の女性観に対する裁判の様になってきた。

 話題を変えないとまた説教を食らいそうだ。そう考えた真咲はジト目を向ける巳郎に話を振った。


「そっ、そういえばよぉ、この前、彼氏募集中って女の子と知り合ったんだが、巳郎、お前どうだ?」

「何? どんな女性だ?」

「えっと、この娘なんだけど……」


 真咲はスマホを取り出すと、以前九郎が新城町で事件を起こした際、知り合ったギャル、佳苗(かなえ)の写真を表示させた。

 写真は加工で若干盛られており、実際の佳苗よりも当社比で百二十パーセント程、可愛くなっていた。


「おお……中々に美しい女性ではないか」

「だろ?」

「どれどれ……あら、可愛い子じゃない」

「確かに別嬪さんだべ!」


 真咲が掲げたスマホを覗き込んだ香織と花がそう言って笑みを浮かべた。


「ほんとだにゃあ、巳郎、ダメ元で会ってみたらどうかにゃ?」

「ダメ元……やはり我では……」


 巳郎は拓海の件で自信を失っているのか、珠緒の言葉に落ち込んだ様子でテーブルに視線を落とした。

 そんな巳郎に真咲は笑い掛ける。


「巳郎、佳苗は真面目な奴がいいって言ってたからよぉ、ワンチャン、行けるかもだぜ」

「真面目か……確かに巳郎は生真面目な奴だからな」

「確かにそれは言えますね。彼の仕事ぶりを見ればそれは分かりますよ」

「そうだろう」


 響子の言葉にラルフがうんうんと頷きながら同調する。

 頷くラルフに響子も爽やかな笑みを返した。


「そうだ。巳郎さん、自信が出ないなら、巳郎さんも拓海さんみたいに髪を切ってみない?」


 ダメ元という言葉でテンションの下がった様子の巳郎に、梨珠が微笑みながら提案した。


「髪を?」

「うん、拓海さん、髪型を変えて印象が凄くよくなったんだよ! 今のも似合ってるけど、ちょっと重い感じがするからさ」


 梨珠の提案に戸惑いを見せた巳郎に、拓海が言葉を添える。


「……僕も前髪を切って変われた気がするんだ。君もきっと変われるよ」

「そうねぇ、私も拓海君が以前のままなら付き合って無かったかも……」

「巳郎君、私もこの前、金髪のカツラを被ったが中々に新鮮だった……ファッションは心を変える、試してみてはどうかね?」


 話題の中心が巳郎に移った事で真咲はホッと胸をなでおろした。

 そんな真咲に妙は近づき、口を開いた。


「フフッ、お主は相変わらずのようじゃな」

「……性分だからな」

「ともかくじゃ、ラルフ殿に託されたからの。せいぜい見張るとしようぞ」

「マジかよ!?」

「先ほども言うたが、事務所に乗り込んで来られても困るからのう」


 そう言ってニッコリと微笑んだ妙に真咲は引きつった笑みを返した。

面白かったらでいいので、ブクマ、評価いただけると、嬉しいです。

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― 新着の感想 ―
[良い点] ここで、ラルフと妙がバトンタッチですか。ラルフ、いなくなるの寂しいなぁ。
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