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女刑事と犯罪者

 現職の政治家の襲撃を企てた吸血鬼グループ、ナイン・ジャッジ。

 彼らの計画を未然に防いだその日、警視庁特殊事案対策部第二課所属の刑事、高木未来(たかぎみらい)は上司である木船正太郎(きふねしょうたろう)に言われ、自宅である警察の寮に持ち帰ったテーブルの上の赤い球体を眺めながらため息を吐いていた。


 正太郎からは復活の兆しが見えたらすぐ連絡する様に言われている。

 未来はその時の事をボンヤリと思い出す。


「今回の件の首謀者、九郎(くろう)こと源義経(みやもとのよしつね)の灰だそうだ。木村(きむら)は一月程で復活すると言ったが、いい加減な奴の言葉は信用がおけない。私は今回捕らえた者の聴取に当たらねばならん、そこで高木巡査にはその玉の監視を命じる……保管方法は冷暗所において置けばいいそうだ……九郎は危険なテロリストだ、異変を感じたらすぐ私に連絡するように」


「……署で保管するんじゃ駄目なんですか?」

「保管庫の中で誰も見ていない時に復活されたら面倒だ」


「……分かりました」


 そういった経緯で赤い玉は現在、未来の監視下にある。

 赤い玉はメロン程の大きさで、内部には白い灰が入っている。

 振るとスノードームの様に灰が舞い、少し綺麗だなと未来は感じていた。


「でも、コレってテロリスト、それも吸血鬼の灰なんですよねぇ……復活って……怪獣の卵みたいなものじゃないですかぁ……」


 監視しろというなら先輩が自分でやればいいのに、そう思いながらテーブルの上に置いた玉を指で突く。

 赤い玉は起き上がりこぼしの様にユラユラと揺れた。

 腕の立つ正太郎なら吸血鬼が復活しても対処は可能だろうが、未来は刑事を志望していたがそれはあくまで人間相手の案件を捜査する部署だった。


 大好きなアイドルが演じていた刑事の様になりたい。そう思い自分は警察官になったのだ。

 それが妖怪とか悪魔とか悪霊だとか……大体、私、ホラーは苦手なのに……。

 辞令を受けて配属されたが、ずっと二課で怪物の相手をしないといけないのだろうか……。


「……駄目駄目! マイナス思考は駄目ッ! はぁ……お風呂入ろ」


 未来は気持ちを切り替えようと、バスルームへと向かった。

 無人になった部屋のテーブルの上、未来が突いた赤い玉は止まる事無くユラユラと揺れ続けていた。


 二十分後、風呂から上がりサッパリし部屋着に着替えた未来がテーブルの上に目をやると、赤い玉が霞の様に消えていた。


「嘘……だって復活には一か月はかかるって……」

「まともに復活しようとすればその程度は必要であろうな」

「ひっ!?」


 部屋に響いた声と共に白い霧が形を成し未来の前に人影が現れる。


「……えっ、ちっちゃッ……やだ、可愛い!!」

「可愛いだと? ……貴様、人の身の分際で」


 未来の前に現れた人影は三、四歳程度の身長しかないまだ幼い裸の男の子だった。

 艶のある長い黒髪の少年は、将来は美形になるだろうと容易に想像がつく顔立ちをしていた。

 そんな少年の前にしゃがみこんだ、アイドル好きの未来の顔は無条件で笑顔になる。


「何でそんな小っちゃいんです!? 吸血鬼って復活する時みんなそうなんですか!?」

「ベラベラとうるさい女だ」

「ウフフッ、生意気さんですねぇ」


 義経の言葉も未来には小さな男の子が強がっている様にしか見えなかった。

 そのムッと口を曲げた少年の鼻がムズムズと動き、クシュンと小さなクシャミを漏らす。


「うん、とにかく服を着ましょうか?」


 未来は裸の少年にニコッと微笑みを浮かべた。


「子供扱いするな……分かっているのか? 貴様の目の前にいるのは数百年を生き、人の血を啜る鬼なのだぞ?」

「フフッ、凄んでも可愛いですねぇ。それより服持ってきますね……Tシャツとパーカーでいいですか?」

「貴様ぁ……はぁ……やはり激情にまかせ復活を急ぐべきでは無かったか……」


 義経は真咲に破れ、灰を真咲が血で作り出した球体に封じられた後、怒りの感情に駆られ残り少ない力を使い復活を急いだ。

 しかし灰に残った力では体を完全な形で作り出す事は出来なかったのだ。


 こんな結果になると知っていればゆっくり力を蓄えたものを……。

 そんな後悔を感じていた義経の前に、Tシャツとパーカー、それに短パンが差し出される。


「えっと、下着は流石に無いので取り敢えずはそれで我慢して下さい」

「……」

「お腹すいてますか?」

「確かに腹は減っている。だから貴」

「そうですか!! では何か買ってきます!! ついでに下着も見て来ますね!!」


 パンッと両手を打ち合わせうんうんと頷いた未来は、義経の言葉を最後まで聞く事無くコートを羽織り財布片手に部屋を出て行った。


「……話を聞かん女だ」


 口ではそう言いつつも、賑やかな未来の行動を思い出した義経の顔には微かな笑みが浮かんでいた。



 ■◇■◇■◇■



 下着と服を身に着けテーブルに並んだ料理を口に運ぶ義経を、未来はニコニコと両手で頬杖を突き眺めていた。


「……何がそんなに楽しい?」

「私、一人っ子だったので、弟がいたらこんな感じかなって……それよりそれ、美味しいですか?」

「まぁまぁだ」

「そうですか、良かったぁ……」


 義経が食べていた玉子焼きは未来が作った物だ。

 他はコンビニで買ったおにぎりや惣菜だが、暖かい物もあった方がいいだろうと唯一作れる玉子焼きを出したのだ。

 ふにゃあと目を細め笑った未来に義経は問いかける。


「連絡はしないのか?」

「そうだ、連絡ッ!! ……完全に忘れてました……でも連絡したら先輩、すぐにでも事情聴取始めちゃいそう……ねぇ、九郎さん」

「なんだ?」


「どのぐらいで大きくなるんです?」

「……分からん。長く生きて来たが灰から復活したのは初めてでな……」

「そうですか……じゃあ、暫く……そうですねぇ、木村さんが言ってた復活までの時間、一か月ぐらいは報告せずに様子を見ましょう」


 右手の人差し指を立て、そう提案した未来の顔を義経は不思議そうに見返した。

 この娘は自分が吸血鬼でその上、テロを企てた凶悪犯だと分かっているのだろうか?


「なんです?」

「なぜお前は私を匿おうとする? 私は犯罪者だぞ?」

「それはそうなんですが……小さい子供が強面の刑事によってたかって尋問される場面を想像すると……」

「フンッ、見た目が幼子だからと侮るなよ人間!」


 義経は少し脅してやろうと、右の手首を噛み千切り真咲と戦った時に作り出した刃を生み出そうとした。

 だが刃が形をなす前に貧血に似た、いや実際貧血を起こし左ひじを机についてその先の掌に額を乗せる。


「何……だと……」

「なっ、何やってるんですか!?」

「クッ……血が足りぬ……」

「血が……」


 未来はキョロキョロと周囲を見回し、台所に走ると包丁を取り指先を刃に当てた。

 プクッと浮かんだ血を確認しテーブルに肘をついた義経の下へ取って返し、指を口元へあてがう。


「飲んで下さい。牙は立てないで下さいね」

「……」


 チラリと未来の顔に目をやり、義経は差し出された指に無言で口を寄せる。

 少量ではあったがその血は甘く彼の青ざめていた顔は程なく血の気を取り戻した。


「うん、大丈夫そうですね」

「……娘、なぜ血を私に差し出した? 私が噛み付いてお前を眷属にするとは考えなかったのか?」

「あっ!? そういえばそんな可能性も……慌ててなにも考えていませんでした。……でも九郎さん、しませんでしたね?」

「貴様のような馬鹿を眷属にしたくなかっただけだ……ともかく、血を提供してくれた事には感謝しよう」

「フフッ、素直じゃないですねぇ」


 未来は笑いながら義経の頭を優しく撫でた。

 撫でられながら義経は考える。


 どうやら自分が思っていた以上にこの体は疲弊し弱体化しているようだ。

 このまま咲太郎(さくたろう)、烈火の皇子の下へ復讐に向かっても簡単にあしらわれて終わりだろう。

 (はなは)だ不本意ではあるが、この能天気な人間の娘の世話になり少しでも力を取り戻した方が良さそうだ。


「……娘、お前の名前は?」

「私の名前? 未来です。高木未来」

「未来だな。では未来、貴様の提案を飲んでやる。せいぜい私に尽くすがいい」


「えへへ、分かりました。じゃあ尽くす代わりに私の事、お姉ちゃんって呼んで下さい」

「グッ……貴様、私は数百年を生き」

「ほら、お姉ちゃんって……」


 未来は義経の肩を掴み、グイッと顔を寄せ張り付いた笑みで迫る。

 なんだか未来は鼻息が荒くなっていて、義経は今までに感じた事の無いタイプの恐怖を覚えていた。


「ほらぁ、お姉ちゃんですよぉ……」

「…………おっ…………お姉ちゃん。クソッ、なんでこの私が!」

「ぐぅ……可愛いい!!!」

「モガッ!?」


 未来の圧に負け視線を逸らしぼそりと言った義経の言葉で、感情の爆発した未来は思わず彼をその大きな胸に(うず)めながら抱きしめていた。

 義経が息が出来ずぐったりしているのに気付き、未来が腕を緩めたのはそれから数分後の事だったという。

面白かったらでいいので、ブクマ、評価いただけると、嬉しいです。

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[良い点] ショタに興奮する女刑事(´・ω・`)
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