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闇の住人を狩る者達

 正太郎(しょうたろう)達との打ち合わせも終わり、彼らを見送りファミレスを後にしようと車へと戻った真咲(まさき)の前に、黒いドレスを纏った切れ長の目の美女が姿を見せた。

 その女、緋沙女(ひさめ)は真冬だというのに薄手の背中の開いたロングドレス一枚で平然と夜の駐車場に立っていた。


陰陽課(おんみょうか)を巻き込んで何をするつもり?」

「奴らを全員捕縛する」

「あくまで粛清は嫌って訳ね……まぁいいわ……ただし、次に義経(よしつね)達が何かした時は、あなたが責任を持って彼らを処理しなさい」


「……分かってるよぉ」

「…………老婆心から忠告しておくわ。私達も元は人間、そして人間は主張が違えば争う生き物よ……仲良しこよしは程々にしておきなさいな」

「俺もアンタと仲良くしようとは思わねぇよ」

「あら残念。私はずっと仲良くしたいと思ってるのに……」


 そう言って笑うと緋沙女は闇の中に溶ける様に姿を消した。


「……不気味な女だ」

「まっ、あいつ俺よりずっと年上のクソ婆ぁだからな。一筋縄じゃ行かねぇよ」

「君より年上……では先程の真咲の話でいえば、君よりも強いという事かね?」

「忌々しい事にな……まぁ緋沙女の話は置いといて、俺達は義経達に集中しようぜ」

「了解だ」


 再度タワーマンションへと向かう為、桜井の車に乗り込む。

 正太郎の話では住民への避難指示の後、避難が完了し次第、実働部隊である特殊事案対策部第一課の隊員が突入するらしい。

 真咲達はそれに付随して一番厄介な義経と弁慶の対処に当たる予定だ。


 義経達がアジトにしていたタワーマンションは広さを売りにしていた為、敷地面積にしては部屋数が少なくマンション住民の避難はそれ程掛からないだろうと正太郎は言っていた。


「ところで出迎えた男が言っていたが、君ら吸血鬼に銃が通用しないというのは本当かね?」

「怯ませる事ぐらいは出来ると思うけど、すぐに回復するからなぁ……ただ、俺もアンタが持ってる様な映画に出て来そうな銃の弾は食らったことねぇし……」


 ハンドルを握った桜井は真咲の言葉でカーテンで仕切られた、黒いジープの後部座席にチラリと目をやった。

 カーテンを開けた先には床下や座席下、壁に隠す形で様々な武器が仕込まれているのを真咲も見ていた。

 それを思い浮かべたただろう桜井が、正面に向き直り口を開く。


「……グレネードランチャーは効果があると思うか?」

「戦争じゃねぇって言ったよな?」

「ではチェーンガンも無しか?」

「……チェーンガンって確か一杯銃身の付いたクルクル回るアレだろ?」


 真咲は未来から来たサイボーグがパトカーを破壊するシーンを思い浮かべながら桜井に尋ねた。


「そうだ。M134、毎分三千発発射可能なベルト給弾方式、もしくはリンクレス給弾方式の電動ガトリングガンだ」

「そんなの人間のアンタに使えるのかよ?」

「その為にパワーアシストスーツと、反動吸収の為のスタビライザー機能を備えたアームも準備してある」


 そう言って桜井はひじ掛けについたボタンを押し、運転席の後ろのカーテンをスッと開けた。

 真咲がそちらに目をやると黒光りするボディーアーマーと、銃を支えるのであろう金属のアームが、跳ね上がった椅子の下、床部分に横たわっていた。

 そしてそのボディーアーマーの横には、先程真咲が想像したバレルを六本備えたマシンガンが車内のランプの明かりを反射している。


 このおっさんは一体何と戦うつもりで、こんな物を持ち運んでいるのだろうか……。


「……却下、市街地でこんなモノ使ったら他に被害が出るかもだろ」


 呆れた様子の真咲の言葉に桜井はそうかと少し残念そうにつぶやいた。


「はぁ……あんた、本業は医者だよな?」

「そうだが? ……大切な物を守る為には戦う為の武器が必要なのだよ……爪も牙も持たない人間にはな」


 その一瞬、桜井の顔に悲しみがよぎった様に真咲には感じられた。

 彼の過去は詳しくは知らないが、戦場にいたというなら仲間との別れも数多く経験したのだろう。


「しかし、被害の事を考えるなら余り派手な物は使えんな……フラッシュバン辺りが精々か」

「フラッシュバン?」


「殺傷力の低い音と光がメインの手榴弾だ。強烈な閃光と音で相手を行動不能にする」

「光と音か……それは使えるかもしれねぇな。吸血鬼は夜に特化してるからよ」


「ふむ、では私はフラッシュバンを使って君のアシストに回るとしよう」

「まっ、よろしく頼むぜ」

「任せろ」


 心強いような不安な様な真咲の思いを他所に、桜井はサイドブレーキを外し、ギアをローに入れた。



 ■◇■◇■◇■



 マンションの住民及び周辺住民への避難指示はそれ程、間を置かずに完了していた。

 住民への説明はマンションの最上階に爆弾が設置され、犯人はその爆弾と共に最上階に立て籠っているという物だった。

 アナウンスはそれぞれの家庭に個別に伝えられ、下層階から徐々に避難させるという方式を取った。

 最上階は一課の隊員が結界を張った事で孤立している。下層階の動きに気付いても簡単に逃亡は出来ない筈だ。


 更にマンションの周囲には結界の為の機器が設置され吸血鬼達の飛行や霧による逃亡を防いでいた。


 最上階、エレベーター前の廊下には、ヘルメットとボディーアーマーを身に着けた完全武装の隊員達が突入の瞬間を待っている。


「言うだけあるな正太郎。連中、手馴れてるぜ」

「……当然だ。我々は日々お前達の様な化け物と渡り合っているのだ。装備も技術も常に進歩は欠かさない」


 ヘルメットとボディーアーマーを身に着けた正太郎は、真咲の言葉に誇らしく胸を張って答えた。

 そんな正太郎を見て、(しま)がいいものを持っていると言っていたのも頷けた。

 彼は固い所はあるが自らの仕事に誇りを持っている。きっといい刑事になるだろう。


木船(きふね)、突入準備は完了だ。いつでもいいぞ」

「了解です 木村(きむら)、ディー、貴様らは吸血鬼側の協力者という事にしてある。ディーの武器類も……今回は目をつぶろう……必ずボスを押さえろ」

「へいへい」

「了解だ」


 相変わらずな真咲に顔を顰めつつ、正太郎は右太腿のホルスターからハンドガンを引き抜いた。


「耳を塞げ……では作戦開始だ」


 正太郎の声は無線を通して伝わり、屋上からラペリングを使い降りた隊員が窓を割りフラッシュバンを投げ込むのと同時に、別働隊が正面玄関を爆薬で吹き飛ばし室内に侵入する。


 室内で待ち構えていた吸血鬼達は数名フラッシュバンの影響を受けた者もいたが、その(ほとん)どは霧に変化し攻撃を逃れていたようだ。


「チッ、化け物共が!」


 四人並んでも余裕のある廊下を走り、部屋から飛び出してくる吸血鬼達に隊員は銃弾を浴びせ打倒していく。

 真咲達を出迎えた男は人間の武器は効かないと言っていたが、陰陽課の弾丸には特殊な処理がされているらしく、銃弾を浴びた者は走り出した姿勢のまま床に突っ伏す者もいた。


「貴様らはボスを押さえろ!! 取り逃がしたら二人とも代わりにしょっ引くからな!!」


 一課の隊員に混じり戦闘していた正太郎が声を張り上げる。


「分かったよ! 行こうぜディー!」

「うむ!」


 それに答えつつ真咲は黒いボディーアーマーを身に着け、体中に武器を装備した桜井と共に先程、義経達と話した突き当りの部屋の扉を押し開け飛び込んだ。


 正面の一面ガラスの壁の前、腰を落とした人影が見えたと思った瞬間、その人影が一瞬で肉薄し刃の煌めきが真咲の体を通り抜けた。


「てっ、てめぇ…………」


 真咲の体が右脇腹から左の胸に斜めに真っ二つに切り裂かれ崩れ落ちる。


「……女帝の子よ……人との共闘……これが考えた結果か?」

「真咲!? 貴様!!」


 真咲の背後をカバーしていた桜井は、反射的に銃を構え真咲を斬った義経の顔目掛けて引き金を引いた。

 だが銃弾は横から突き出された丸太の様な腕にいとも容易く弾かれる。


「.50 AE弾だぞ!?」

「儂の鋼の肉体に鉛玉等効くものか!」


 黒いスーツの男はそう吠えながら主君を撃った桜井に金色に輝く瞳を向けた。


「クッ、やはりチェーンガンを」


 たじろいだ桜井の胸になぎなたの石突が突き込まれる。

 その威力は凄まじく、大した力を入れていない様に見えたにも関わらず、装備を身に着けた桜井の巨体を廊下まで吹き飛ばした。


「そこで寝ていろ! 我らの標的はあくまで無為無策を貫く為政者共よ!」

「グッ……そういう……訳には……いかん!!」


 叫びと同時に廊下に倒れた桜井は右手を突き出した。

 右腕の内側に取り付けたレールの上を小型のピストルがスライドし、桜井の右手に収まる。

 彼はそのまま弁慶の金の瞳に向けて都合四回引き金を引いた。


 COP.357、357マグナム弾を使用する四つの銃身を備えた護身用の小型ピストルだ。

 人であれば一撃で絶命するだろう瞳を狙った弾丸を、弁慶は射線をずらし額で受け止め全弾弾き返した。


「流石に頭で受けると多少堪えるな……それで終わりか? 人間?」

「この化け物が……」


 桜井が顔を引きつらせ呟いたと同時に、弁慶の体が唐突に炎に包まれた。


「グオオオオオオオッ!!?」


「ふぅ……やっぱ急に来られると反応出来ねぇな……ディー、大丈夫か?」

「真咲……なのか?」

「おう」


 鬼が苦痛の叫びを上げる中、見開いた桜井の視線の先、人の形をした火柱が倒れた彼を見つめていた。

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