序章 ~いつかの決勝戦~
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「さぁ!これから始まるのは、我らが学園最強を決する最後の試合です! 正直、私は信じていませんでした……彼が、落ちこぼれの無能と蔑まれ続けてきた彼がここまでのし上がってくることをっ!!」
解説席から力強くマイクを両手で握り、ホール全体に熱い声を響かせる女子学生。その熱気に当てられ、ホール内に集まる観客達のボルテージは最高潮に達する。
これから開かれようとしているのは、ここ「皇神学園」で年に一度開かれる大イベントである「皇神祭」と呼ばれるもの。先程、マイクを握っていた女子学生の説明の通り学園内最強の学生を決める催し。
これには、学園外のみならず国外からも賓客が訪れる程に大規模であり、ここで優勝を手にした人間は最高の栄誉と共に、これからの将来を約束されたも同然の扱いを代々受けてきた。「皇神学園」の学生全てが参加者であり、その頂点に立つには全校生徒1000人を文字通り薙ぎ倒す必要がある。
そして「皇神学園」は非常に格式も能力も高い者が集まる場所であり、集まるのは名家に留まらず他国にも名を轟かせる騎士の子息、豪商の娘など様々にいる。
「いやぁ、解説はあんな事言ってるけどさ? 僕はやっぱり君が決勝まで来るって確信していたんだよ。そして、それは形になった」
爽やかな黒髪を風に揺らしながら、軽そうな口ぶりでホール中央、これから決勝戦の場となるリングの上で笑みを溢す好青年が言う。
彼はこの学園の組織内でトップの権威を持つ生徒会役員。それも、生徒会長という肩書きを持つ。そして、去年の「皇神祭」優勝経験者であり、事実上学園最強の男。
「東のコーナーから入られましたのは、事実上我らが学園最強の男にして生徒会長。如月零夜ぁぁぁ!!!」
解説の選手紹介に、観客は更に沸き立つ。
知識、技術、経験、家柄、容姿と全てに於いて恵まれた才能を持つ彼の登場に黄色い声援は鳴り止まない。
「ちょっと貴方達! 零夜はこの高貴で美しい私の主ですのよ!」
凄まじい声量で覆われているにも関わらず、彼女の声は不思議とよく通った。煌びやかな金色の長髪をかき上げながら、周りに牽制の言葉を放つ絶世の美女。
「ははっ、大丈夫だよ。僕は君一筋だからね? 僕の女神様……アテナよ」
「っ……! わ、わかっているのなら問題ありませんわ! ……勝ちますわよ零夜?」
「あぁ、わかっているさ。もう一度勝って、そしてもう一度僕は君に愛を伝える。絶対」
「ふふっ。行きますわよ主様、私を纏って、私に勝利を……!」
そう言って、アテナと呼ばれた女性は零夜の頬を一撫でしたかと思うと互いの唇を合わせる。すると、彼女の身体が一斉に輝きを放ち、やがて光の粒子となったそれらは零夜の胸の中に吸い込まれていく。
全ての粒子を取り込んだ後に、今度は零夜の身体が金色の光に包まれる。
「豊かな愛慕と、その信念を抱いてこの身と皆を護る盾を私に……」
口上を述べながらようやく光が収まると、先程まで学生服であった零夜の姿が一変。彼の身につけているものが戦士のソレとなる。
金色の全身鎧に包まれ、右手には神々しい黄金色の大剣と、左手には透き通るような装飾の成された大きな盾。
他の学生達とは格が違うというのが、戦う人間でなくとも嫌でもわからされてしまうような雰囲気が漂っている。
対峙するは、零夜とはまたタイプの違う整った容姿を持つ少女と見紛う位の美少年。
「西のコーナーからはこの人ぉっ! かつては、この学園で人権など無いものと同然な扱いを受けていた不遇の学生。しかし、これまで見せてきたその戦闘技術は本物! 最早、この人を無能と称す人間はいない! 伽耶原英翔ぉぉぉ!!!」
そう紹介された少年は、大層な言われようにも全く動じずただ対戦相手の零夜を見据えるのみ。
華奢な体躯で線も細く、果たして本当に戦えるのか? と何も知らない者から見ると思われても仕方の無い容姿をしている。
しかし、この会場でもう彼を嘲笑う人間は一人としていない。かつては、その見た目通り戦闘などからっきしで不遇な扱いを受けていた。実際、この「皇神祭」が開かれる直前まではおよそ彼に話しかける学生もいなければ、教師ですらも匙を投げていた。
が、今はどうだろう。それまでの扱いとはうって変わって熱い声援を背中で受け止める。不思議な高揚感に身を包まれつつも、英翔はしっかりと目の前の強敵を観察していた。
「緊張しているのか?」
「うん、少しだけ。だって、まさかこんな風に目まぐるしく環境が変わっていって、それに留まらず自分がこの場に立つ事が叶うなんて」
ふわり、と少年の隣に突如現れた傲岸そうな少女。
先程まで霊体化していたのだろう、まだ足元が顕現し切れておらず透明なままだ。
「でも、戦闘に支障はないよ」
「当たり前だ。この程度で怖気づこうものなら、この私がその頭を平手打ちしていたところだぞ」
「こんな時でも変わらないね君は……」
軽口を叩き合いながらも、お互いの戦意を確かめ合う二人。
少女は少年の手を取る。布地の少ない白のベビードールに包んだ身体から、嫋やかな手をぎゅっと握り合う。
そして、完成し尽くされたと誰もが頷く端正な顔を赤く蕩けさせながら二人の影は近づいていく。
「主君、ようやくここまで来た……とは言わせない。これからも、私と、私を手に取って生涯尽きるまで使って欲しい」
「勿論、ずっと一緒だよ。君のおかげで俺はようやく暗闇から立ち上がる事が出来た。そして、道を指し示してくれた! 今度は俺が、君の手を取ってリードしていく」
そう言って、二人は真っ赤になった顔をようやく合わせる。
すると、零夜の時と同じように少女の身体が光の粒子となって、愛する人の胸へ飛び込んでいく。
「全てを悟り、見透す心眼をこの身に与えたまえ」
そうして、二人の契約は結ばれる。
と同時に、白銀の光は一瞬にして会場全体に広がった。
光が止み、そこに白銀の戦士が立つ。
人智を超える、超常の力。つばの広い帽子で美しい白銀の髪を包み、左眼には魔法陣のようなものが描かれている。そして、その最たる権化である神槍を携えた少年は吼える。
「行くよオーディン、戦争の始まりだ」
雌雄を決する戦いが今、ようやく開始される……!
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