余命一文字
余命○文字、という題名の短編でちらほら見かけたので、便乗。
茎に銘のないその刀を、ヒトは「余命一文字」と呼んだ。
ヒトを斬るわけでもなく、博物館に飾られることもなく、そして、特記すべき謂われも、価値も、「今は」ない。
しかし、その刀の、その存在が人々を惹きつける。
その刀が世界を斬りひらくとき、世界に最初の一文字目が生まれる。
それは、その世界に余命が生まれた瞬間でもある。
文字が溢れた瞬間、一文字は二文字、三文字となり、文字は紡がれ、それは物語として顕れていく。
その最初に書かれた、たった一文字から始まった世界は、限りある文字数の中で文章を彩り、物語を終焉へと導くのである。
どんな物語でも、一文字目から始まる。
そして、永遠に紡がれる物語もない。
世界の始まりと終わりを担う、余命一文字。
それは、間違いなく幻の銘刀なのである。
もしも、この銘刀が、存在した場合、本文に存在した瞬間から、文字数が増えるので……
「刀で何かする度に文字数が増えるので、もはやそれは一文字とはいえず、一文字とは幻の刀なんだというコメディ寄りの話」
にするか、
「斬るたびに文字数がふえるので、余命が増える妖刀の話」
にするかでも、迷った。