わがまま転生剣士④
「あのバカ……!!」
今日は昨日買ったリュックの中身を使う訓練をしようと、郊外に出る矢先のことだった。
遠くから騒動を見かけた瞬間に、それこそ風のように駆け出してしまったリルア。同行していたシフルでも止める暇はなかった。
リュックを背負っているというに、その重みをまったく感じさせないのは立派だが、今だけは感じさせて欲しかった。
遠目にも、商業大臣と昨日の厄介女が見て取れる。
「なんであいつ、わざわざめんどくさいところに首突っ込むんだ!!」
激昂しながら、シフルも駆け出す。
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睨み合うリルアとローナ。
二人がバチバチと火花を散らしている間に、大臣はそそくさと逃げ出して行くが、二人とも注視しない。
「……二度目よ。あんた、自分が何をしたか理解してる?」
「そっちこそ。武器も持っていない人に剣を向けて、恥ずかしくないの? それに、武装していない相手に武器を向けるのは犯罪よ」
「あたしはあたしがルール。言わなかったっけ?」
「街ってのは、みんなで暮らす場所よ。あなたの独りよがりを認めるための場所じゃない」
それに、とリルアは続ける。
「その剣、あなたが作ったわけではないんでしょう」
「……? 当たり前じゃない。それが?」
「人から与えられた力で、やりたいようにやって……。恥ずかしくないの?」
「この剣はあたしのもの。つまりは、あたしの力よ。それを振るって何が悪いのかしら」
「強いのはあなたじゃない。あなたに力をあげた誰かよ。一人じゃなんにもできないくせに、そうやって自分は強いぞって肩をそびやかして、自分一人で生きているような顔をして。カッコ悪いわ」
リルアの物言いに、さしもの少女もカチンときたらしかった。
「そんなに言うなら、あなたがあたしより優れていると証明してみせなさいな」
「いいわ。じゃあ、勝負しましょう」
「上等ッ! そのかわり、あんたが負けたら、二度と生意気な口が聞けないようにするわよ?」
「こっちこそ上等よ!!」
「おい、リルア!」
そこでようよう追いついたシフルがリルアの首根っこを引っつかむが、時すでに遅し。
リルアはシフルを引きはがし、
「シフル、ここでは引けない。引けないよ!」
ぐっ、と拳を握るリルア。そんな少女に、シフルは深くため息をつく。
なんせもう、勝負することを約束してしまった。今さら謝ったところで、ローナが見逃してくれるとは思えない。ならばいっそ、多少でも有利な条件を引き出すにはーー。
「……なら、勝負方法はこちらで決めて構わないか?」
「ええ、どうぞ?」
やはり乗った。
彼女が圧倒的優位を示すには、それしかないのだ。相手の土俵で、それでも勝つ。それこそ彼女が力あることの証明であり、裏を返せばそれしか証明方法はない。
だが、それは慢心だ。内心、シフルはにやりとする。
「それなら、こんなのはどうだ。王都から出てすぐ、ルシェ大河を超えたところに、魔王時代の遺跡がある。そこでアイテムを入手してくる、というのは」
「あの、魔王城だったっていうところ? いいわよ。早いもの勝ちってわけね。取ってくるアイテムは?」
「魔王城の地下にしか咲かない闇の花ーー『サゲジュ草』。それなら証明になるだろう。黒い花弁の花は、他にない」
「黒い花ね。ふふ、いいわ。乗ってあげる。じゃあ行きましょう」
勝利を疑わぬ、強気の声音。
神の剣を持つ少女は、長い髪を払うと、悠々と先に歩いていく。
その姿を見送りながら、リルアは問い掛ける。
「シフル。なんでわざわざ、あんな条件を?」
「そうでなければ勝ち目がないからだ。あの剣、お前もわかるだろう」
「……うん」
確かに、彼女が持つ剣は異常だ。
触れてすらいないのに、凄みが伝わる剣。そんなものは初めて見た。
もちろん、武器とはそれだけで、どこか人を魅せる力がある。だが、あの剣は別格だ。神聖なる精霊像を見れば自然と畏まってしまうように、あの剣は、見る者を平伏せさせるほどの力を放っている。
彼女自身にどれほどの力があるのかは知らない。だが、あの剣は、どんな力も覆すほどの力そのものだ。
シフルはこほんと咳払いし、
「あの条件でなら、お前なら勝てる見込みはある。そのリュックは持っていけ。いいか、基本に、忠実に従うんだ。そうすれば勝てる」
「うん? わかった」
「よし、行こう」
シフルが頷くと、リルアも頷き返す。
二人もまた、後を追いかけていく。目指すは、旧魔王城。
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昔は大河の流れが荒れていて、川を渡ることは不可能だった。一説によれば、魔王の魔力で、海のように荒れていたのだという。
魔王が滅んで久しい現代では、定期船で渡ることができる。とはいえ、旧魔王城は、今もなお魔物が出没するダンジョンであり、町民は近寄らない。
入口付近では国王軍が見張りを立てていた。冒険者でなければ通してはくれないが、ここはシフルの許可証で通行が許された。
三人で揃って遺跡の入口に立つ。城跡はすでに朽ちており、壁がいくつか残るばかりだ。
メインとなるのは、旧玉座の間。そこに、地下へ進む階段がある。
「そんな大荷物を抱えて、このあたしに勝てると思ってるの?」
リュックを背負うリルアに対し、少女は軽装だ。腰にポーチを提げているくらいで、他に荷物らしい荷物はない。
「ふんだ。私は負けないもん! と、その前に。あなた、名乗りなさいよ」
「あんたこそ名乗りなさいよ」
「……リルア。リルア・トゥールよ」
「よくできました。あたしはローナ・クオンよ。まあ、覚えなくて結構だけれど」
「こっちこそ」
互いに火花を散らす二人。その間に入り、シフルは両者を見やる。
「まあ待て待て。それじゃあ、先に黒い花を取って帰って来た方が勝ち。いいな? では、始めッ!」
シフルの合図と同時、二人揃って階段を駆け降りる。
下りてすぐは広間になっていた。ぼんやりと壁が輝いて見えるおかげで、歩くのに支障はない。
「すぐに泣かせてやるわ!」
先に駆け出すローナ。対するリルアは、勝負が始まる前、シフルが言っていたことを思い返していた。
「ーー基本に、忠実に」
ダンジョン探索の基本。祖母に冒険譚をせがみながら、何度も聞いた。
まずは明かりの確保。ダンジョンは固有の虫が住み着いており、歩くだけならば支障がない程度に輝いているところも少なくない。だが、遠くまで見渡せるだけで、難易度はぐっと変化するのだ。
リュックからマジックランタンを取りだし、出力を調整して光らせる。ふわりとした魔法光はダンジョン内を照らし、細かい部分まで見えてきた。
「……ん?」
すると、岩影になっている部分に、階段があることに気づいた。岩を削って作ったらしい、人工的な階段。洞窟の中によくある下り坂や、階段風の段差とは明らかに違う。
「階段……」
このダンジョンは、かつて、魔王城があった場所の地下だ。当然、このダンジョンも、魔王たちが使っていた場所だろう。
となれば、奥に進む本命の道はーー。
「……」
ごくりと喉を鳴らし、リルアは階段を降りて行った。




