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世界を救う冒険者①

 シフルの部屋を飛び出したリルアは、すぐさまアンゼリカのところへ向かった。

 台所で炊事をしていたアンゼリカを捕まえ、問いただす。

「シスター・アンゼ! シフルは!?」

「おはよう、リルア。今日は姿を見ていませんよ」

「ッ!!」

 そのまま、すぐに駆け出す。

 通りを駆け抜け、向かった先は、ローナが宿にしている貸家。

「ローナ! ローナ!!」

 扉を叩くと、寝起きそのままといった体のローナが顔をのぞかせる。

「リルアぁ? 何、どうしたの?」

「シフル! シフルは見なかった!?」

「シフル? こんな朝早くに来るわけないでしょ……ふわぁ」

 あくびひとつ、目をこすりながら、ローナはリルアを見つめ返す。

「何、ケンカでもしたの?」

「そうじゃないんだけど……。そうだ、ローナ! チコの家! 知らない!?」

「知ってるけど、チコのところにだって、こんな早くから来ているわけないと思うけど」

「とにかく教えて!」

「何よもう。着替えるからちょっと待って」

 リルアの真剣さが伝わったのか、一度引っ込んだローナは、すぐさま着替えて出てきた。

 今度は二人、路地を駆け抜ける。

 チコの家は、図書館から程近い場所にある、二階建ての集合住宅だ。エルフの彼女でも住みやすい、魔法による一種のセキュリティがしっかりしている建物である。

「チコー!」

 外から大きな声で呼びかけると、通りに面した窓が開いた。

「リルアさん。こんな早くから珍しいですね、何かありました?」

「シフル知らない!?」

「シフルさん? 見ていませんが」

「やっぱり……」

「何かあったようですね。すぐに行きます」

 程なくして、2階からチコが降りてきた。

 三人が揃う。

「リルア、本当にどうしたのよ。シフルに何かあったの?」

「……証拠は、ないんだ」

「でも、リルアさんは何かが起きる予兆のようなものを感じていたのでしょう?」

 チコに問われ、リルアは少しだけ顔を伏せた。

「……それは、言えない」

「言えないって何よ! 仲間でしょうが!」

「それは、そうだけど」

 リルアの両肩をつかみ、ローナは迫る。

「いい!? あんたがあたしを変えたの! チコを連れてきたの! リュウが魔王にならなかったのも、ユーリの肩の荷が降りたのも、全部あんたが始まりなのよ!! あんたはあんたを信じなさい! あんたのやることは、絶対に良い方向につながる!!」

「……ッ」

 どくんと跳ねる。それは、心臓の鼓動だけではない。

 体の奥底に眠る何か。それは時に人を冒険に駆り立て、強敵に立ち向かわせ、果てなき夢に手を伸ばさせる存在。

「わかった。知恵を貸して」

 かつて、この世界を救った者が振るった、最強の武器。

 それを人はーー勇気と呼んだ。


☆ ★ ☆ ★ ☆ ☆ ★ ☆ ★ ☆


 勇者国から川を渡った対岸。

 そこに存在するのは、半壊した城跡。まがまがしいそれは、当時の威容を未だに残している。

 魔王城。かつて、魔物たちを従わせ、魔族を率いた精霊が住んでいた、戦いの最前線。

 魔王城の入口に向かうと、国王軍の衛兵が立ちはだかった。

「ここから先は、冒険許可証がない人は通せないよ」

「あの! ここに、シスターが来ませんでしたか!? シフルっていいます!」

「シスター? ああ、朝一で来たよ。採集が目的とかで。君達、あの子の友達?」

「はい! あの、シフルを迎えに来たんです。通してください!」

「そうはいかないよ。許可証がある人が同行しているならともかく」

「でも……!!」

「あの。これ、許可証です」

 提示したのは、チコだった。プレートを見た軍人は、

「あ、これならいいですね。はい、どうぞ。わかっていると思いますけど、有資格者は、無資格者を守ってあげてくださいね」

「はい。ローナさん、リルアさん。行きましょう」

 すたすたと歩くチコ。その隣を歩きながら、ローナは首をかしげる。

「チコ、許可証なんて持っていたんだ? あ、そういえば、エルフの里を出てから冒険していたんだっけ?」

「確かに里を出てから冒険していましたが、エルフには冒険許可証というものがありませんでしたし、トールマンの里にたどり着いてからは、冒険をしていません。ですから、正規の許可証は持っていません」

「え? じゃあ、さっきのプレートは」

「これは幻術です」

 チコが取り出した板は、よくよく見れば、ただの木片だった。

「相手に幻を見せる魔法です。商売などではこれを使って詐欺をする者がいるので、国内での使用は重罪ですが……。ここは国の外ですからセーフでしょう」

「……あんた、結構無茶するわね」

「それだけ真剣と取ってください」

 当時の正門を抜け、前庭を通る。その先は、いつぞや、ローナが破壊した遺跡の跡地だ。

 崩れた床石。その下に、わずかに道が見える。

「前にマッピングしながら歩いた時に気づいたんだ。ここ、魔王が住んでいた、前線なんだよね?」

「はい。当時は高さとしても世界最高峰、遠くからも見える山のようであったと」

 それほどの巨大建築は、もはや残っていない。魔王と勇者の戦いで吹き飛んだのだ。

「シフルは、このダンジョン、五層まであるって言ってた。でも、マッピングしながら歩いてわかったんだけど、狭い通路とかが多かったの」

「それで?」

「魔王とか魔族が住んでいたダンジョンなんでしょ? そんな狭い通路ーーたくさんの人が通れない地下に、何があったのかな」

「……魔王城そのものは、魔物が生まれ、進む前線基地であったと聞きますが」

「ブラックドラゴンを見たでしょ? 3メドもあるような生き物は、あんな狭い道は通れない」

「そういえば……」

 このダンジョンで出会ったのは、バルドラゴンのような、魔物としては決して大きくない部類の存在だけ。

 だが、伝え聞く限り、当時の戦いでは、ブラックドラゴンや、それに類するような魔物がたくさんいたのだという。

 では、それらはどこで生まれたのか?

「魔物は普通の動物が魔力を浴びて変化しただけの生き物。だとすれば、たくさんの動物を飼ったりする牧場が絶対に必要だった。けど、ここのダンジョンの地下にはそんな場所が見えなかったし、ましてや城内にそんな場所なんて作らないでしょ?」

「……じゃあ」

「そう。誰も見つけていないけど、あるんだよ。もっと広くて、たくさんの魔物を飼えるーー闇の魔力が強い牧場が」

「それだけの設備があったとすれば、当時の魔王軍にとっては、生命線と呼ぶべき場所でしょうね。魔王も、そんな場所を守り、戦ったでしょう」

「うん! 魔王と勇者がどれだけ戦ったって、上の方に玉座の間とかあって、そんなところで戦ったんなら、城が全部吹き飛ぶなんてありえないよ! きっと、決戦の場所は地下でーーその牧場で戦ったんだ」

「ちょうど、あたしが遺跡を吹き飛ばしたみたいなことをした、ってこと?」

 リルアは頷く。

「もし、シフルが行くんだとしたら、そこしかない」

「じゃあ行きましょう! 道中の魔物は任せて!」

「探索の魔法を使います。隠れた通路なども見つけられるかと」

「よし! じゃあ出発!!」

 剣を手に。

 三人は駆け出した。


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