再来魔王⑤
帰り道は、行きの倍かかった。
気絶した三人の軍人と黒ずくめは、チコが作った四つ足のゴーレムで運んだのだが、クレイゴーレムの足はとにかく遅い。
ギャロップを走らせるわけにもいかず、のんびり戻るしかなかった。
国に戻ったところで、カーブ大臣補佐が出迎えてくれた。
彼は、部下が生きていたという吉報に喜び、ブラックドラゴンが討伐されたという事実に目を丸くしていた。
でもって、本日は打ち上げ。ごった煮亭を貸し切りである。
「かんぱーい!」
「かんぱいー!」
グラスを掲げるローナと、合わせるリルア。
楽しげな二人の横では、売上にニコニコしているサキュバス店員。
「いやあ、景気がよいよい。お店もよいよい。いいねーいいねー」
「ユーリ! ワイン!」
「あいあーい!」
「おい。あんまり飲みすぎるなよ」
声をかけながら、シフルは嘆息した。対面に座るチコは、
「シフルさん、お酒は?」
「一応聖職だよ」
「……それもそうですね」
「普段のわたしはどう見えているんだ。チコはいいのか?」
「エルフのお酒は、こういうところでは作れません。森の中でしか作れないので、流通もしていません」
「ふうん。お前こそエルフらしくないんだし、そういうのを気にしないものだと思っていたが」
「エルフらしくないのは事実ですけど」
答えたチコは、くすくすと笑い、隣を見やる。
「じゃあ、リュウさんは? 何を飲みます?」
問われ、黒ずくめの少年はびくりと震える。
「お、おい。僕、逮捕されたんじゃないのか」
「……一応、お前の行いは、違法行為には当てはまらない」
答えたのはシフルだった。
「国王陛下の領土ではあるが、都市の外だ。魔法使用制限法は適用されない場所だし……そもそも魔物を生み出す魔法なんて異常過ぎて、規制する規則がない。まあ、ゴーレムを生み出す魔法と同一と考えたとしても、都市の外で見習いが練習して暴走させる、なんてのはたまにある。それと同じと考えたら、やはり違法にはならないだろう」
「でも、軍人襲ったし……」
「お前たちの世界は知らないが、この国では、他人を傷つけることそのものが違法であって、無傷で帰ってきたら違法にはならん」
気絶していた三人の軍人は、施術院で専門の術者が点検したが、まったくの無傷だった。
ドラゴンに食われていた間の記憶はなかったといい、数日間は飲まず食わずだったにも関わらず、異常がなさすぎてむしろ気持ち悪いくらいだ。
「結果論ではあるが、お前を裁く規則が見つけられなかった、というのが結論だ。かといって、魔物を自由に生み出せるお前を、野放しにもできん。だから、保護観察処分ということで、わたしたちがついているんだ」
「で、でも……」
「でももあさってもあるか。許してもらえたんだから、素直に受け取っておけ」
「は、はい」
しゅんとした少年--リュウは、シフルとチコを見やる。
「でも、じゃあ、僕はこれからどうすれば?」
「勝手にしろと言いたいが、またぞろ魔物を生み出されちゃ困る。本当なら杖を没収して、それこそ国外に放り投げたい」
「シフルさん」
「本音だよ。……実際、お前は転移? とかいうやつで、この国のことも、この世界のこともよくわかっていないんだろ」
「それは、まあ、そうだけど」
「その状態ではどうにもならないだろう。ということで、マオさんに頼んである」
シフルが言うと、厨房の方から巨人が現れた。
「ひっ!?」
「あんたが、転移の小僧かい」
マオは椅子に窮屈そうに座ると、リュウをにらむ。
「今日からこの店で働きな。料理は?」
「え? で、できません」
「じゃあ店内だね。ユーリ! こいつに教えてやりな」
「あいあーい」
サキュバスが愛想よく尻尾をふりふり。その尻尾に見とれながらも、リュウは慌てて言い募る。
「て、店員て!」
「何かしなきゃ飯は食えないよ。あんたはどういうわけにせよ、ここにいる。なら、ここで何かするんだよ。選びたければ、自分で選べるほどの力をつけるこった」
「そ、そんなぁ」
「それと。一応、杖は預かっておくぞ」
ひょい、とリュウから杖を奪うシフル。
「お、おい、それは僕の!」
「お前が下手に使って、魔物を生み出したら、今度こそ違法だぞ。国内でゴーレムの生成は制限されるからな。またローナにボコボコにされて、牢屋に連れ込まれたいか?」
「……」
「感情が制御できないうちは、この杖を使うのは早い」
「……わかったよ」
どこかふて腐れたように、椅子のうえで足を組むリュウ。
「あーあ。なんか転移しても、思ったのと違うな。もっと無双できるかと思ったのに」
「無双?」
「なんていうかこう、すごいって崇められたり、いい思いするってこと」
「何もしていないのに、何かが出来るようになるわけないだろう」
「……うるさいなぁ」
そう言って、口をとがらせる少年。その首に、ローナが飛びつく。
「わっ!? ってお前、酒臭い!」
「何よぉ。いいじゃんいいじゃん! それに! あんたちょっと調子に乗りすぎなんだから!」
「いででで! 無茶すんな、おい!!」
「ローナ! 飲み過ぎだよ!」
「リルアぁ、あんたも飲みなさい!」
ははは、と笑い声が満ちる店内。
その中で、シフルは一人、そっと杖をなでていた。




