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プロローグ
「……必ず」
ぽつりとつぶやいた言葉は、ぼろぼろの壁に吸い込まれて消える。
決して広い部屋ではなかった。木製の壁は染みだらけ、どこかから入り込む隙間風は止めようもない。
それでも、そこは家だった。たったひとつ、安心していいはずの家だった。
だというに。
目の前には、身動きひとつしない、母の体。薄暗い部屋だというに、その体だけは、何故だかはっきりと見ることができる。
「必ず」
ぐっと拳を握る。手が赤くなるほどに握りしめ、誓う。その手は小さく、儚く。必死過ぎる誓いとはまったくそぐわない。
安心できるはずの家中。そこはすでに、安全な場所ではなかった。幼いがゆえに、その事実に気づきもしなかっただけで。
遅まきながら、すべてわかったのだ。この世界はーー今のままではいけないのだと。
「仕返ししてやる」
その誓いを聞く者は誰もいなかった。
誰も、聞いてくれなかった。




