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暗闇に色を探す  作者: 此道一歩
第二章  渡秀一の懐刀と言われた男
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中田の誤算

 一方、中田議員は、高坂グループでの事件の翌日、幹事長を訪ねていた。


「昨日は、どうもご迷惑をおかけしてしまいました」

「君も大変な男を怒らせてしまったなー」

「そんなに、すごいやつなんですか。私には、よくわかりませんでしたがねー」

「渡秀一の懐刀と言われているが、そのほとんどは、彼が仕組んでいたことだ。小学生の時から、彼の家で育てられ、ずっーと、渡秀一を見てきたんだ」

「そうなんですか……」

「二十歳の頃には、もう相当な強者だったよ。恐らく十年以上は一人で動いていたんじゃないか。二十歳で政界の裏表を知り、年寄り相手に戦って来たんだ。想像はつくだろう。あの世界で、西藤信を知らないものはいないよ。君はそんなことも知らなかったのか!」

「面目ないです」

「まあ、いい、頭を下げて、納得してもらったのか?」

 彼は内心、

( 詫びても済まないだろうし、この中田もまた頭を下げていないだろうな、もう中田は無理だろうな…… ) そう思っていた。

「いえ、それが……」

「怒らしたまま、帰ってきたのか?」

「はい、幹事長のお力をお借りしたいと思いまして……」

 彼はそういうと、静かに3百万円の包みを差し出した。

「帰りなさい!」

「幹事長…」すがるように中田が泣きつく。

「私は彼とはやらないよ。彼には勝てない。かすり傷ぐらいは負わせることはできるが、その前に政治生命を絶たれてしまう」

( 西藤信が、どれだけのネタを持っているのかは想像もつかない )

 しかし、それよりも彼は、渡秀一の一派が好きだった。

 人を重んじ、敵に礼を尽くす、彼らの生き方がうらやましかった。

 だから、信樹のことについても、彼が姿を消して以来、本当に心配していた。

 そんなことも知らずに、中田は、

( 幹事長でさえ、彼を避けるのか ) 目の前が真っ暗になった。

「次の公認はないよ……」

「幹事長、そんな……」

「もし、公認が欲しいのなら、高坂グループの後援を取り付けてきなさい。それができなければ、別の候補を立てる」

 中田は、うなだれて、とぼとぼと帰って行った。


 彼は、秘書に命じて高坂グループ、亜紀子にアポを取ろうとしたが、取り合ってはもらえなかった。

 そこで、彼は、手土産を用意し、会社へ押しかけた。

 受付を素通りしようとした彼に、

「どちらへおこしですか?」受付嬢が尋ねると

「中田だ、社長に用がある」そう言って進もうとする彼は、ガードマンによって阻止された。

「わしは中田時太郎だ、何をする。離せ……」叫ぶ彼に向って受付嬢がきつく言い切った。

「お約束のない方はお通しできませんので、お引き取り下さい」

「なにー、じゃー、アポをとれっ!」

「それもできませんので、お引き取り下さい!」

「先生、帰りましょう」秘書に促され、我に返った中田は会社を後にした。

 この受付嬢は、いつも横柄な態度でやってくる、この中田が大嫌いだった。

だからこんなうれしいことはなかった。言いたいことを言ってやった…… そんな気持ちで、彼女にとってはスカッとしたさわやかな一日であった。


 車に乗った中田を秘書が慰める。

「先生、無所属で再出発されたらどうですか。当選されれば、また公認だってとれますよ、きっと……」

「公認がないだけなら、どうにかなるかもしれない。でも別の公認を立てられたらどうにもならない。もうおしまいだ……」

 意気消沈してしまった彼の本音であった。

「先生、最後の手段で社長宅へ押しかけてみますか。用意できるだけ、現ナマ用意して……」

「そうだな、もうそれしかないな。5千万なら何とか用意できる」

 中田は翌日、5千万円を何とか用意して亜紀子宅へ押しかけた。

 

( あの男は家にいるはずだ ) そう信じて家を訪ねた。

 中田はチャイムを鳴らし、丁重に挨拶した。

「中田時太郎です。先日は大変失礼をいたしました。本日はお詫びに上がりました。一目だけでもお会いできないでしょうか」

 対応したお手伝いさんから、報告を受けた信樹は玄関を出て、門のところまで行ったが、門は開けなかった。


「西藤さん、先日は大変失礼いたしました。幹事長からも事情を十分に伺ってまいりました。本日は、お詫びに参りました」

 とても暴言をはいた上、椅子を蹴飛ばして帰った人間とは思えない豹変(ひょうへん)ぶりであった。

 しかし、人は切羽詰まると、恥も外聞もかなぐり捨てることを、信樹はよく知っていた。

「とんでもないです。お忙しい中、こちらこそありがとうございました。おかげをもちまして、社内の大掃除ができました。ほんとに感謝しています」

 中田はほっとした。 怒っていない、後援してもらえるかも……

「今日は、お詫びにここに5千万円用意してまいりました。どうかお納めください」

「いえいえ、そんなものをいただくわけにはいきませんので……」

「そうおっしゃらずに、お願いします。邪魔になるものでもありませんから……」

「いいえ、邪魔になるから現金は持たない主義なんです。それに、もし十億必要になれば、明日にでも十億用意できる人間なんですよ。私は……」

 信樹はにこにこしながら答えた。

 中田には言葉がなかった。

「忙しいのでもうお引き取り下さい」信樹が冷たく言い放つ。

「なんとか、後援していただけないでしょうか?」すがるような思いで中田は泣きついたが

「それは、先日、お断りしたはずです。幹事長とも相談して、次の候補を選定していただきたいと思っていますのでご理解下さい」

 機械的に、口を荒らすこともなく、静かに語る信樹は氷のように冷酷で、徹底していた。

 うなだれる中田に、

「お引き取り下さい」そう言って信樹は玄関の中に消えていった。

 信樹のこうした徹底したやり口は、秀一から、いやというほど叩き込まれていた。

 だから彼は、決して最後まで緩まない。


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