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第7話-アンノウンストーカー

 それから、一週間後――。


「よ、本城さん」


「……なんて顔してるんですか。気持ち悪い」


 こちらの呼び掛けに気付いた本城さんが開口一番、そんな言葉を口にする。いきなりそんなことを言われたって、俺にはワケが分からない。


「気持ち悪いって、相変わらずどんな先輩に対する口の利き方なんだか……。俺の顔がどうかした?」


 そう言うと、急に床に置いてあった灰色のトートバッグの中身をガサゴソと漁り出しては、中から手鏡を取り出した。それを、自分の顔をよく見ろと言わんばかりに俺に突き出してくる。


「目の下。バカみたいにデカいクマができてます。昨日、夜更かししたんじゃないですか?」


 そんな彼女の言葉通り、目の下には大きな黒いクマができている。今日初めて鏡を見たので、今の今まで気が付かなかった。


「うわ、ホントだ! 何これ、こんなクマ初めてできたよ」


「まったく……どんなヤラシイ動画見てたらそんなクマができるんですか」


 やれやれと大きなため息を吐いて、彼女が呆れてみせる。なに一人で勝手に妄想を膨らませて呆れているんだこの子は。


「なっ、違うよ!? 昨日は大学終わりに、バイト先の人の引っ越しの手伝いしててさ。夜の十時過ぎくらいまでやって、その後みんなで晩飯食ってから帰ったんだけどね。帰ってから気付いたんだけど、今日が返却日になってたDVDがあることすっかり忘れてて。それで急いで見てたってわけ」


「……で、寝たのは何時だったんです?」


「えっと……確か、夜の三時くらい」


「まったく……死にたくないんだったら、今日はさっさと寝てください。目の前で突然倒れられたら困りますからね」


「はーい……気を付けます」


 ツンとした表情をしながらも、口から出てくる言葉は意外と優しい。これも彼女らしい不器用な対応だなと内心で思いながらも、俺はそれに了解した。






 今日も今日とて、九月のくせに炎天下だ。夏だ夏だと騒げるのはどうせ八月までなのだから、いい加減暑さには早く過ぎ去って欲しい。もうすぐ十月だというのに、どうしてこんなにも暑苦しいのかが不思議なところだ。


 ここは大学の構内で三か所あるうちの、一番奥にある学食。学食の中でも特に食事をする人が少ないことで有名で、普段は一番人が入る学食に多くの学生客を取られてしまっているらしい。中で食べられる食事はマズいわけではないのだが、不思議といつも何席か空きがある。やはり人間は、人が多いところに集まってしまうものなのだろうか。


「ちょっと、レタス落ちてますよ? なに子供みたいな食べ方してるんですか」


 いつものようにハンバーガーを食べていた俺に、突然彼女が指を指して指摘してくる。机の上を見てみると、その言葉通り一枚のレタスが虚しく転がっていた。


「え、あ、ホントだ。すまん……」


「はぁ……」


 そう言って、彼女が大きなため息を吐いた。


 目の前に座る彼女は、俺の一つ年下で一年生の本城綾乃だ。ひょんなことから俺とこうしてお昼ご飯を食べるようになり、一応は友達としての間柄になっているらしい。

 とは言うものの……ツンデレなのか強がりなのか何なのか、いつもこうして俺に対する当たりは強い。もちろんそれは、本意から出る言葉でないことは知っているので基本気にしてはいないが、ずっとこのような態度を続けられるのもいかがなものだろうかとも思っている。






「……そういえば、さっき友達からL○NEが回ってきたんだけどさ」


 ふと、先程友達から届いた連絡についてを思い返す。ポケットからスマホを取り出して、その内容を再確認した。


「一週間くらい前から、ウチの大学の一年生の女の子が行方不明なんだってね。何か知らないかって連絡が回ってきたんだよ」


「っ……?」


 その言葉を告げた途端、本城さんの手が止まった。珍しく目を丸くさせて、机をジッと見つめている。一体どうしたのだろうか。


「あれ、どうかした?」


「……その子の名前って、分かりますか?」


 ぼんやりと机を見つめたまま、俺にそんなことを問うてくる。


「え? あ、うん。えっと……健康栄養学科で一年生の、篠崎秋那って子。一週間前から彼氏が連絡しても返事が来なくなってて、親も友達も誰も行方が分からないんだって」


 スマホの文章を読み終えて、彼女の顔を見る。すると、みるみるうちに彼女の顔色は血相を変えていった。


「本城さん? ……もしかして、何か知ってるの?」


 この様子は、普段の彼女からすると明らかにおかしい。口元を震わせて、何かを考え込んでしまっている。こんな彼女は、今まで見たことが無い。


「……偶然会ったんです、その子と。一週間前に」


「え……?」


 こちらから視線を逸らしながら、彼女がポツリと呟いた。


「その子と私、小中と同じ学校だったんです。まぁ、色々あって仲は良くなかったんですけど……。この間、何故だかは分かりませんが、家の近くで会った時に『私をストーカーしてるのはあんたでしょ』っていきなり叫ばれて。私がストーカーしてると勘違いされてたみたいで、やっとの思いで誤解を解いて別れたんです」


「ストーカー? じゃあこの篠崎さんは、ストーカーに遭ってたってこと?」


「多分……。『A』って名乗ってストーカーをしている女、とも言ってました。なんで女性にストーカーされてるのかは分かりませんけど」


 確かに、女性が男性にストーカーをされる事件のならよく聞くが、女性が女性にストーカーをされる話は聞いたことが無い。それが本当なら、一体どんな目的があって彼女を追い続けていたのだろうか。


「んー、でもそうだったとしても、ホントにそのストーカーをしてた人に拉致されたっていう確証は無いよね。他にも違う人に拉致されたとか、事故があっただとか、可能性としては色々あるんだろうし」


「……あの、一つ気になることがあるんです」


「気になること?」


 無言でコクりと頷くと、そのまま彼女は言葉を続ける。


「これもちょうど一週間前なんですが……その子の他にもう一人、小中と同じ学校に通ってた女の子と同じ日に会ったんです」


「え、同じ日に? この子とはまた違う子とも会ったの?」


「えぇ。私はそんなに親しくは無かったんですが、日和と結構仲が良かった子で……。何度か一緒に遊んだこともあるんですけど、ただそれくらいです。そういえば、下の名前が私と一文字違いだったので、よく日和に『アヤアヤコンビだねー』なんて言われてましたね。中学を出てから連絡先も知らなかったので、ずっと音沙汰無しだったんですよ」


 そんな日和ちゃんらしい言葉に、思わずフッと笑ってしまった。相変わらず、あの子の考えることはつくづく不思議で面白い。


「へぇ……。そんな子と偶然再会して、この篠崎さんとも偶然会うっていうのは、なんか不思議だよね。なにかあったりするのかな?」


「多分、偶々だとは思うんですけどね……。変なことをするような子には見えませんでしたし。今はどうかは知りませんが、普段は私と同じ陰キャで、比較的大人しい子でした。人をバカにするような場面は見たことがありませんし、寧ろその逆で周りの人に気配りができるような良い子でした。あの子が嫌いだっていう子も、ほぼ見たことが無かったですよ」


「うーん、そうなんだ……」


「なので多分、その子がストーカーっていうことは無いんじゃないかと思ってます。その篠崎って子ともあんまり良い関係では無かったみたいですし……。多分また、別の人なんじゃないでしょうか」


 彼女の話を聞く限り、どうやら篠崎さんは陰キャの子とあまり仲良くは無かったのかもしれない。本城さんやその子と仲が良くなかったということは恐らく、俺が推測するに彼女は陽キャだろう。彼女達がお互いに毛嫌いする様子なら、安易に想像できる。


「そっかぁ……。因みにその子の名前って、なんていうの? アヤアヤコンビだって言われてたみたいだけど」


「名前ですか。その子の名前は――」


 そうして彼女は、偶然再会を果たした女の子の名前を口にする。その名前を聞いた途端、確かに本城さんと名前が似ているなと、ぼんやり思ってしまった自分がいた。

「突然誰!?」となってしまった方はすみません。

本話の視点主は『アウトドア系男子が、自宅警備員になる方法』の主人公である本城さんの先輩です。

「っていうか、なんか本城さんのキャラちょっと変わってない!?」という方もすみません。こちらもちゃんとした理由があります。

それらについて詳しく知りたい方はぜひ、『アウじた』も覗いてみてくださいね。

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