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針①

 昆虫の標本。ひとによっては気持ち悪いなどと馬鹿の顔をして言うのだろうが、これを好き好んで所持している変体に言わせてもらえば、これはアートだ。


 押しピンで留められた虫達は生前と同じ輝きを放ち、その美しいフォルムと色艶を惜しみなく我々に魅せてくれたいる。

 知人の中には酒の席の勢いというやつなのか、ときおり好きでもないのに私のコレクションを見たがる困った人が現れる、そういった人物は上記のように気持ち悪いと言う、妄想を膨らませた口の軽い者などは、

「だってさー、これ死骸だろ? 仮に人がこんな風に留められていたらと思うと残虐非道だぜ? 俺らが気持ち悪いって言うのは標本そのものと言うよりも、こんな物を平気で作って大事に飾っておけるその精神性にあるんだぜ? 知ってた?」

 とまあ、実に愚かしい言葉を偉そうにのたまうのだ。

 彼らの言葉を借りるなら私は変体らしい。


 完全に蛇足だが変態ではない、変体だ。意味は自身で調べてほしい。


 人が留められたら、標本になったらだと? 愚かしい。

 人だって標本になれるものならなったほうがいいに決まっている。ところが人という生き物は虫のように美しくないのだ。醜悪と言って良いだろう。

 例えば慶応大学を出たことが自慢の高杉は、皮下脂肪を消費する予定もないのにしこたま蓄えている。こいつを標本にするぐらいならヒキガエルのがマシだ。

 長年の化粧で顔面の汗腺が壊死した、横田を標本にしたら標本台が化学汚染をされて腐食しかねない。

 低脳丸出しの高説を垂れ流した花井は、ピン留めをしたとたんに暴れそうだ。それで腕や足が千切れ飛んだらどうやってカバーするのか、汚い人間の汚いダルマなぞに芸術的価値がつくことは零歳児の落書きに、ウルフ賞が与えられることよりもありえない。

 

 とまぁこんな連中程ではないしろ人間というのは美しくいられないのだ。美しい人間などいない、世界一の美女ですら標本にしてしまえば腐ったミイラになる他ないのだ。それが現実だ。臭いし汚い。

 だから人は死んだ人を見えないようにするのだ。日本なんか死んだら直に火葬だ。もう誰も傷つけることの無い姿にやっとなったものを燃やして消してしまうのだ。なんと残酷な仕打ちだろうか、これほど惨いことを当然の顔をして実行するのが人間なのだ。

 そのくせ愛だの恋だの、口だけは綺麗事を並び立てる。

 嘆かわしい、愚かすぎて眩暈をおぼえる。


 そうして土の中にしまいこんで誰の目にも見えないようにすることでやっと我々は日々の生活と向き合える。汚らわしい人の死骸なぞ誰も見たがらないそれが真実だ。

 それが虫と人の差だ。


 昆虫は美しく、人間は醜い。


 なのにだ。なんということだろうか、私は人の標本を造ることになってしまった。

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