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自殺と私

死にたい死にたいと言っているうちは“まだ”死ぬことはない。


死ぬと決断したのなら、死にたいとは言わない。


大抵は何も言わない。言うにしても、


「死にます」という決定事項を伝えるだけだ。



本当に自殺する人間というのは死にたいとは言わない。


そんなことを言えば言うほど自殺する準備は遠のくのだ。


家を綺麗に掃除し、家族や友人とも疎遠になる。


不思議なもので、死後になるべく大事にならないように配慮するものなのだ。


だから突然の自殺なんて騒がれる。




――私の場合もそうだ。


私が死んだのは13年前の秋。当時はまだパワハラなどという言葉もなく、上司の恫喝は無能な部下に対する当然の躾でした。


経験も実力もなければ、上司の機嫌をとるのも下手で、同期ともウマが合わず、相談できる人は誰もいませんでした。


分不相応な大手に入社したことを一番喜んでくれた両親こそが、私の一番憎んだ相手でした。

今思えば両親に対する復讐心みたいなものも、あったのかもしれません。


汚い字で書いた遺書には上司や会社の悪口だけを書きました。


自殺の2ヶ月前には家を出ました。

私が独り立ちしたものだと勘違いした両親は、やはり喜んでくれました。


借りたのは家賃が月収の4割のアパート。安くはありませんがどうせ死ぬので問題ありませんでした。

敷金・礼金は、使い道のなかった貯金から払いました。


そのアパートは適当に借りたのではなく、それなりの理由があります。

新築であること、実家とは会社を挟んで反対側に位置していたこと。一番の決め手は借りてが少なかったこと。


新築のアパートですから昔からの住人というのがいません。

さらに立地の悪い山の上に建てたものですから人気が出なかったのです。不動産は景観の良さをアピールしていましたが、近くにもっと安くて駐車場つきの物件があるのに、今時駐車場まで徒歩5分かかる割高の物件を借りるというのはよほどの物好きか、特殊な理由がある人だけでしょう。


春に施工終了してから夏まで、まったくといっていいほど住人が入っていないのは外から見た様子でわかりました。

その生活観のないベランダたちを見つけたときに運命を感じました。


二十五年生きてきて運命を感じたのは、後にも先にもこの時だけでした。


当初は夏にすぐ死のうかとも考えたのですが、匂いがきつくなることを考えて止めました。

そうなると今度は暑くて暑くて、結局エアコンを購入したのです。


エアコンがあるのだから、強い冷房で部屋をガンガンに冷やしてやれば夏場でもいいかと考えました。

しかし、一度夏はやめようと決めたのに、死期を早めるというのもなんだか違うと私は思ったのです。


この頃はもう引き返す選択肢は脳内にさらさらなく、死の形を自由に選ぶことが出来ました。


自宅で誰にも見つからずに死ぬこと、涼しい部屋で死ぬことは決まっていました。

あとはそれまでの過ごし方、死ぬ日時、自殺の方法を具体的に決めていきました。


職場には相変わらず無遅刻、無欠勤、そして無能を貫きました。


ありえないことですが、ひょっとしたら自殺を覚られるんじゃないかという恐怖が私にはありました。

好奇心もありましたが、やはり恐怖のほうが大きかったです。


「早田。お前自殺とか考えてないよな?」

いつかそう訊ねられるんじゃないか? そう考えると長く生きてはいけないと思いました。

毛ほども覚られてはいけない。

プライドのようなものが芽生えていました。


自殺を決行したのは10月23日。

23日という日にちは家族や友人の誰の誕生日でもないこと確かめました。誰かが誕生日の度に私の命日を思い出して、暗い気持ちになったりしないように配慮したつもりです。

10月は父と知人の何名か誕生日でしたがそこはもうきりが無い気がしたのであきらめました。


その日は入社して初めて仕事をサボりました。

普段なら禿げた課長のありがたい訓示を受け賜る時間も家にいるというのは、不思議な感じです。

優越感と背徳感があり、少年時代にあった、悪いことをする時のワクワク感がありました。

この後終わりを迎えるということが、そのワクワクに拍車をかけていたのは間違いなかったでしょう。


方法は睡眠薬を大量に飲むというものにしました。

首吊りは苦しそうだし、手間だし、失血死はじわじわ死ぬ恐怖がありそうだったので、その方法にしました。


この日の為にベットシーツと枕を新調して良かったです。気持ちのいい寝具は快適な眠りを助けてくれました。


ひとつだけ失敗があるとすれば、発見の遅くなった死体は腐乱が進んで酷い異臭がしたこということでしょうか、異臭どころではないですね、詳しくは省きますがそれもうデロデロです。ええ酷い有様でした。


私が出社しなくなっても会社は警察に届け出ることも、実家に電話することもありませんでした。さすがに想定していませんでした。もっとよく考えるべきだったかもしれません。


死んだこと自体には後悔ありません。とてもすっきりしました。


それにもうすぐ友達もできますから。


ええ。



あなたのことですよ。





                                    了。


書き始めは最初からあったんだけどオチが浮かばなくて

無理やり終わらせたらホラーチックになってしまった。

申し訳ない。

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