番外編 霜崎くん
俺は季雪の中の男で1番だと思ってた。これは俺が季雪への気持ちを自覚する物語。
「霜崎くんでしょうか?」
突然話しかけてきた女の子は、特に目立った容姿もないが、何故か不思議な感じだった。
「ああ、そうだが。」
見ない顔だと思った。
「先程、自己紹介を前でしたのですが‥。」
ん?ボッーとしてて気がつかなかった。
崎宮は、ごほん!っと咳払いをした。
「えっと、改めまして、転入生の崎宮季雪と申します。霜崎くん?の隣の席になります。よろしくお願いいたします。」
崎宮は手を出して、握手を求めてきた。どうしてだと思った。普通、初対面でこんなことするか?
「ああ、よろしく。」
俺は握りかえす。
これが季雪との出会い。
✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎
2ヶ月後
「なぁー、崎宮っていいよなぁ。」
「なっ、なんだよいきなり。」
季雪のことをいいと言ったクラスメイトは、バスケ部の俺のパートーナー。いつも頼りになるものの、変わり者だ。
「いいよなぁ、お前は。スッゲェ、モテるくせして、崎宮と仲良いなんて。」
「はぁ?別にモテねぇーよ。」
「嘘つけ、今月で告白何回目だ?」
「3回だ。大したことないだろ?」
「大したことあるんだよ。俺、高校入学して来て一回も告白されたことないんだぞ?」
やばっ。っと思った。なぜなら、こいつは以外と執念深い。
「そ、うか。ごめんな。っに、してもお前変わり者だよなぁ。」
「ん?何が?」
「あの、季雪をいいと思うことだよ。季雪だぞ?」
「なんでお前がそんなに否定するんだよ。」
「なんでって‥。」
そういえば、どうしてだ?アイツは普通にいい子だろ?なんでだ?
「そうかー!わかったぞ、さてはお前崎宮のこと好きなんだろ?」
「はぁ?それは、違うだろぅ。俺と、季雪はただの友達なだけだ。」
「照れるなよって。」
意味がわからねぇ。その時はそう思ってた。季雪のあんな表情を見るまでは‥。
「崎宮、ちょっと来い。」
「あっ、はい。」
季雪が拓磨先生に呼び出された。2人は、教室を一緒に出ていく。
あっ、そうだ。俺、拓磨先生に今日までに言わなきゃいけないことがあたんだった。ヤベェ、怒られる。
俺は急いで教室を出て、2人を追いかけた。
もし、ここで引き返しとけばこんな思いはせずに済んだのかもしれない。
俺は2人が生徒会室に入るのを見た。俺は後を追って生徒会室に入ろうとしたが何故か入れなかった。声が聞こえたから。甘い声。俺はドアの隙間から耳をすました。
「季雪、お前何してんだよ?成績があまり良くなくなってきてるぞ。」
はっ、季雪?呼び捨て?
俺はわずかなドアの隙間から聞き耳を立てていた。
「ごめんなさい、拓磨。ちゃんと、家に帰って勉強をします。」
季雪まで‥。
「わかったなら、いい。分からないことがあれば、なんでも聞けよ。」
「はい、ありがとうございます。拓磨、大好きです。」
「そう、か。」
そう、2人は笑っていた。俺は、季雪のあんな顔、見たことない。あんな、嬉しそうな顔‥。
そこからの2人の会話は聞かず、俺は立ち去った。
どうしてだ‥。こんな気持ちになるのは。なんだか、とても切ないような。男で1番仲の良い友達を奪われたと思ったから?そもそも、アイツらはどんな関係なんだよ。
そんなことを考えながら、帰った。
「霜崎くん、あの‥。すっ好きです!」
次の日の休み時間、俺は呼び出された。
俺は、いつものように断ろうとした。
「なぁ、君。」
「はっ、はい!」
「好きって、どうゆう感じ?」
「へっ⁈」
その少女は戸惑い、オロオロしていた。
「えっと、何というかですね。言葉で表現できないような、暖かな気持ちで誰かに教えてもらったわけでもないのにこれが好きだと心で感じる。みたいですね。ほら、よくいうじゃないですか、好きになるのに理由なんかないって。そんな感じです。」
ああ、そうか。この感情はそれだったのか。
「そうか、ありがとう。だけど、ごめん。」
「そう、ですか‥。では、失礼します。」
その少女は、すぐさま立ち去った。
そうか、この感情の名は〝ライバル心〟か。俺は季雪に恋心は抱いてなかった。ただ、季雪を友達としてみてたんだ。友達としては大好きだが、恋愛とは別だった。その証拠に、季雪と拓磨先生の会話を聞いたとき、嫌だとは思ったが、なんだか微笑ましいように感じた。〝嫌だ〟と感じるのは、ただ単に拓磨先生に友達を取られたというライバル心。全然カンケーねーじゃん。はぁ、疲れた。
「おはようございます、霜崎くん。これ、昨日渡し忘れていたプリントです。拓磨先生から預かってきました。」
「あぁ、ありがとう。」
俺は、季雪からそのプリントを受け取った。
「これか、昨日言い忘れてた。」
「拓磨先生から伝言です。〝昨日は悪かった。まさか、お前にあのところを見られていたなんて思いもしなかった。声をかけにくい状態で、ごめんな。〟だそうです。どうゆうことですか?」
季雪は頭をかかえている。そうか、拓磨先生。俺があの場を目撃したこと知ってたのか。スゲェーな。しかも、プリントに〝お前も俺に勘違いさせたからその仕返しだ〟ってなんのことだよ。子供かよ。ああそうか、俺と季雪が付き合ってるって噂のことか。アホらし、カッコわりー。でも、そんな拓磨先生のことが好きなんだな、季雪は。
「あぁ、そうだ。霜崎くん。ちょっと、来てください。」
「はっ?どこに?」
すると、季雪は上に指差した。
「屋上につながる階段です。」
あぁ、そうか。
俺は季雪と一緒に屋上の階段に行った。朝からはきついので、お昼休憩に。
「さて、霜崎くん。私、わかったことがあるんです。」
はぁ?何が‥。
「ちょっ、そんな微妙な顔しないでください。これからが本題なんですから。」
季雪はゴホンと咳払いをした。
変わねぇな。その咳払いの癖。
「では、お話しますね。霜崎くん、私。もう、いいんですよ。」
「はぁ?言ってる意味がわからない。」
「そんな猿芝居はもういいんです。」
「さる、芝居?」
「はい、猿芝居。」
「ごめん、ちょっと頭おかしくなったか?」
「おかしくなんてなってません!」
季雪は怒った。
「もー、さっさと正体を現してください!」
「チッ、バレてたか。」
思わず舌打ちしてしまった。だって、俺の正体を見抜いていたなんてな。まぁ、今の今まで忘れていたんだがな。
「はい、転入当初から分かっていました。」
季雪は一度深呼吸をした。
「ずっと、ずっと見守っててくださったのですね。神さま。お久しぶりです。」
「あぁ、久しぶりだな、季雪。」
そう、俺は。いや、私は神なのだ。
「神さまも悪いですね、どうして今まで隠していたんです?」
「季雪、お前が幸せに暮らせているならそれで良かったから、言う必要もないと思ってな。」
「そうだったんですか、改めてお礼を言います。ありがとうございます、神さま。」
「礼には及ばぬ。まさか、拓磨と恋愛を成就させているとは思わなかったがな」
「そっ、そんな。お恥ずかしいです。」
「季雪、そろそろこの少年の体を返そうと思う。当初から、お前が幸せかの確認だっただけだからな。」
「そう、ですか。悲しくなります。」
季雪は下を向いた。
「そう、気に病むのではない。私は見守るのが仕事。本来、お前のところになど来てはいけないのだからな。」
「そうですよね‥。神さま、おひとつだけお伝えしたいことがあります。」
季雪は澄ました顔で言った。
「私にお命をくださり、悪魔の本を燃やしてくださり、記憶まで‥。本当に、何から何まで、感謝しております。ありがとうございます。この体、この命、決して無駄にはしません。」
季雪は伝えたいことは言った。っという顔をしていた。
「そうか、良い心がけだ。もう、行くか。」
「はい。」
私は、見守るのが仕事。それが、神の掟なのだ。ただ、季雪との出会いに、都子との別れにこんなにも感情移入するとは考えなかった。私も一つ、お前たちから学んだ。こちらこそ、礼を言う。まぁ、バレてしまっては仕方がないのだかな。この少年の体はお返しする。
「季雪、この少年はお前と出会ったことを忘れているだろう。その時は‥。」
「はい、大丈夫です。また、お友達になればいいことですから。」
「そうか‥。」
私は屋上の扉を開けて、旅立った。もう振り向かない。振り向いてはいけない。
「神さま、いつまでも、いつまでもお祈りします。ありがとうございました。」
もう、季雪は大丈夫か。寂しくなるな。まぁ、いい。さて、仕事するか。