プロローグ
ちょっと息抜き
この物語はとある町のラーメン屋からはじまる。
「あざんしたーっ!」
「「ありがとうございましたー!」」
これで今日のお客はもういない。明日から冬休み……目一杯働かないとな。
常連の客は毎日、好みのラーメンを注文していく。無論、その日の気分によって
別なメニューを注文する事もあるが、結局は いつもの と言って、お気に入りの
ラーメンを食べて帰る。僕はそんな日常がこの上なく好きだ。
「おい、坊主!」
「なんすか、叔父貴?」
この人は僕の叔父で 鴻池 谷津岐という。下町のラーメン屋の店主であり、
身寄りの無くなった僕を引き取ってくれた恩人でもある。だが、頑固で昔堅気の漢
なので、働かざる者 食うべからず の精神で学校帰りにバイトとして働いている。
「明日から冬休みだろう、どっか遊びにいかねえんか?」
「休みの間はここで働きまっせ!」
休みの前に宿題は九割型 終わらせたので、目一杯働く事ができる。
友達にはワーカーホリックだと言われているが僕はこれで幸せだ……。
家族が誰も死なないこの生活が……。
「………おう、そうか そすたら本格的な技 仕込んだろか?」
「お願いしやす 叔父貴!」
「かっかっか、おう任しとき!」
叔父貴を叔父貴と呼ぶのにあまり理由も無いし、この口調だってお店が
開いている間だけ、叔父貴の好みに合わせているに過ぎない。自分を
偽っているのかもしれないけど……みんながこの僕を気に入ってくれているので
僕もこのままでいいと思う。俗に言うと仕事モードってやつかな……。
「邪魔するぜ〜」
あぁ、地上げ屋か 最近このビルを買い取ろうと躍起になってる連中だ。
このビルは作りは古いけど建築基準法に沿って建てられているので手放すような
物でも無いし、何より常連さんがいらっしゃる限り、叔父貴はこの店を続けるだろう。
「糞ったれが、てめえらにやる物なんざねえ、とっとと失せやがれ下衆がぁ!」
叔父貴荒れてんなあ、ここは僕も一つ……?
「ほう、ジジイこれを見てまだそんな口叩けんのか ああん!?」
そう言って取り出して来たのは一枚の写真……。
あまりにも衝撃的な、過去の負の遺産……気持ち悪い……。
それは火事の写真、全てが燃えて消え去った忌むべき記憶。
「貴様ァ!」
叔父貴が叫ぶが、地上げ屋は更に畳み掛ける様に複数人のチンピラを連れて来る。
「このガキを連れ出せばいいんか?」
チンピラが僕を連れ出そうとする………嫌だ。
もう、何かが無くなるのは嫌だ。帰る場所が無くなるのは嫌だ。
拠り所が無くなるのは……嫌だ。
「離せ」
「あぁ?」
「離せぇ!」
チンピラを尽き飛ばしたと思ったが、体重の軽い僕が階段の下に
転がって落ちていく……。
「坊主ゥー!」
「ちっ、ポリ公が来る前に引き上げるぞ」
叔父貴が駆け寄って来るけど、意識が薄れて……ごめん…な さ
鴻池 句羽 15歳……階段からの転落、その後 行方不明