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普段はツンツンだけど、二人っきりのときはデレデレの姉

作者: 功刀

 教室内での出来事だった。

 昼休み時間に友人と雑談していると、教室のドアが開き、女の子の声が聞こえてきた。


「おい! 勝海(かつみ)! ちょっとこい!」


 声の主は俺の姉だった。

 ちなみに克己ってのは俺の名前で、日之出 勝海(ひので かつみ)という。


「どうしたの姉さん。そんなに大声出して」

「いいからこっちこい!」

「はいはい……」


 仕方なく席を立ち、姉さんの元へと近寄った。

 この人の名は日之出 楓(ひので かえで)。俺の実の姉だ。

 すらっとした長い黒髪で、顔だちもよく、胸もそれなり大きい。

 俺が言うのもなんだが、けっこうな美人だと思う。


「んでどうしたの姉さん。俺になんか用?」

「あのな。今日家出るときに弁当忘れていっただろう?」

「あーそうだっけ。まぁいいや。ならパンでも買いに――」


 言い終わる前に、姉さんが何かを押し当ててきた。


「ほら。勝海の分だ。私が持ってきてやったぞ」

「お、マジか。ありがとな姉さん」

「ふんっ……」


 姉さんは学年が違うから当然教室も違う。なのにわざわざ持ってきくれたわけか。


「だいたい勝海はみっともなさすぎる! もっとしっかりしろ!」

「別にいいじゃねーか。俺の好きにさせてくれよ」

「いいや。お前がみっともないことばかりしていると、私まで恥ずかしくなるだろうが!」

「はいはい分かったよ」

「『はい』は一回!」

「はい」

「よろしい。では私は戻るからな。しっかり授業を受けるんだぞ」


 学校での姉さんは大体こんな感じだ。俺に対してだけ特に厳しい。

 姉さんが去っていった後、自分の席に座った。すると友人が苦笑いしながら話しかけてきた。


「ひぇー、いつみてもおっかねえなお前の姉は」

「そうか?」

「成績もよく美人でスタイルもいいけど、性格がちょっとキツいよなー……」


 外にいるときはいつもあんな感じだから俺は慣れたけどね。


「もしかして家に居るときでもあんな感じなのか?」

「……まぁな」

「すげぇなお前。よく耐えれるよなー。オレだったら言い争いになっちまうよ」

「そういうもんか?」

「絶対なるって。下手すりゃケンカになるだろ」

「ふ~ん……」


 他の人からはそう感じるもんなのか。

 家にいる時の姉さんは態度が違うせいか、ケンカになったりはしない。


 しかしこれは俺だけが知る秘密。俺以外は誰も知らない秘密。




 学校も終わり、家に帰って部屋へと入った。

 しばらくゴロゴロしていると、ドアが突然開いた。


「どうしたの。姉さん」

「…………」


 学校から帰ってきたあとに一直線に来たようだ。

 姉さんがゆっくりと近づき、そして――


「勝く~ん!!」

「うおっ」


 突然抱き着いてきた。


「えへへ~。弟成分ほきゅ~」

「どうしたのいきなり」

「だ、だってぇ……学校ではなかなか一緒になれないし……寂しかったんだもん……」

「そりゃ学年もクラスも違うんだから当然でしょ。仕方ないよ」

「むぅ~……」


 姉さんは俺のことを『勝くん』と呼ぶが、それが二人っきりの時だけだ。外では普通に『勝海』と呼ぶ。


「じゃあ……私も留年するぅー! それなら勝くんと同じクラスに入れるよね? ね?」

「あのなぁ……」


 姉さんはいつもこうだ。なにかと俺に引っ付こうとしてくる。


「というか学校だと、いつも態度違うじゃん。あれなんとかしたほうがいいんじゃない?」

「あぅ……そ、それは……その……」


 学校に限らず、外にいるときはずっと俺に対して厳しい。

 まるで二重人格のように性格が変わってしまう。


「だ、だってぇ……みんなが居る前だと……恥ずかしいもん……」

「恥ずかしいって……あのなぁ」

「それに、みんなは私のことを『かっこよくて憧れの存在』だって言うんだもん……」


 その気持ちは分からなくはない。

 姉さんは美人で凛としているせいか、『可愛い』よりも『カッコいい』という印象が強い。性格もよく、テキパキと作業をこなすので男女問わずに人気が高い。

 成績も常に上位で運動神経もいい。まさに憧れの的だ。


「そんな私がイメージを壊すような行動をしちゃうと……みんなをガッカリさせてしまいそうで……」

「姉さん……」


 そうか。まわりを気にしすぎるせいで、『憧れの存在』を演じることを強要されるかのようなプレッシャーを感じているわけか。


「あと……勝くんが好きなのがみんなにバレたら恥ずかしいんだもん……」


 ……と思ったけど、こっちが本音かもしれない。


「う~ん……まぁ分からなくはないけど、もう少し優しくしてくれてもいいんじゃないかな? 今日だって弁当渡された時に説教されたし」

「あぅ。ち、違うの! あれは本心じゃないのよ!」

「じゃあなんで説教染みたことしたのさ」

「あれはなんというか……す、少しでも勝くんと一緒に居たかっただけなの!」

「だからって、クラスメイトが見てる前であんなことしなくてもいいのに。誤解されちゃうよ?」

「うう……ご、ごめんね?」

「まぁいいけどね」


 姉さんは意外とポンコツな部分もある。


「ゆ、許してくれる……?」

「もう気にしてないって。だからそこまで落ち込むことはないよ」

「! えへへ。やっぱり勝くんは優しい」

「というかさ、早く弟離れしたほうがいいんじゃない? いつまでも一緒に居るわけじゃないんだしさ」

「えー……」


 毎日のように俺に抱き着いてきてるしな。

 いい加減、俺が居なくてもまともに生活できるようになってほしいもんだ。


「やだやだ~! ずっと勝くんと一緒にいるの~!」

「いやいや、俺だっていつまでも姉さんと一緒というわけにはいかないよ。というか高校卒業したらどうするのさ?」

「むぅ~」


 俺は1年だけど、姉さんは2年なので先に卒業することになる。

 もし大学にいくとなれば、一人暮らしになるのはほぼ確実だ。大学まで遠いしな。


「姉さんは大学に行きたいんでしょ?」

「うん……」

「だったら一人暮らしできるように慣れないと。家事だって半分俺がやってるんだし」

「…………」

「ね? だから俺が居なくても生活できるように努力しなよ」

「…………」


 あれ。黙っちゃった。

 ちょっと言い過ぎたかな……?


「ご、ごめん。ちょっと言い過ぎたかも。だから今言ったことは――」

「やっぱり……」

「え?」

「やっぱり私も留年するー! それならずっと勝くんと一緒に居られるもん! ね? いいでしょ?」

「はぁ……」


 駄目だこりゃ。全然反省してない。

 弟離れするのは当分先になりそうだ。




 学校で廊下を歩いていた時だった。偶然にも姉さんとバッタリ出くわしたのだ。


「あ、姉さん」

「なっ……勝く……じゃなかった。勝海!」

「はいはい。なんだい姉さん」


 姉さんは俺を見るや否や、すぐに近寄ってきた。


「おい勝海! なんだその恰好は!? 髪も寝癖がついているし、制服だって少し汚れてるじゃないか!」

「いやいや。俺はいつもこんなもんだろ。つーか今朝は一緒に家出たよな?」

「言い訳するな! だいだい勝海は――」


 また姉さんの説教が始まった。こうなると長いんだよな。

 よく見ると姉さんの拳が少し震えている。あれは怒りで震えているんじゃなくて、素直になれない自分が情けなくて震えているんだろうな。

 そこまで気に病むぐらいなら素直になればいいのに。


 まぁいいか。これも含めて姉さんだ。しばらく付き合ってあげよう。

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