参
「ティア・パイライトだ。好きな魔法は武装魔法、基本的に薙刀……まあ、槍のような武器を使用している。極東地域が好きで時折そちら関係で妙なことを口走るかもしれんがあまり気にせんでほしい。好きな食べ物は極東地方の菓子全般だ、よろしく」
と、探るような視線がいくつも突き刺さる状況で平然に自己紹介をしてみせた。
前世での名前は山吹露草だったが、今世での妾の名前はティア・パイライトという。
だいぶ変わってしまったが違和感はそこまで酷いものではなかった。
そもそも前世ではあまり名前で呼ばれたことがなかったからな。
それよりも木蓮の方が問題だ。
あやつの今世での名はブラン・マグノリアというらしい。
前世と全然違う上に、木蓮で呼び慣れている。
絶対言い間違う、十中八九間違える……
ああ、今から練習しておこう。
あやつはブラン、ブラン、ブラン・マグノリア……木蓮じゃなくてブラン……
逆にあちらに間違えられる可能性がほとんどないことはせめてもの救いか。
基本的に姉御としか呼ばれないからな。
……と、いうか今更だが今の妾とあやつ、同い年なのか。
前世では7つほどこちらが上であったからな……可愛いがとにかく馬鹿な年下の少女だったというのに。
世も末、だなあ……まさかあの木蓮が同い年とは。
いや待て……逆に木蓮の方が誕生日が先という可能性も……
うわぁ……うわぁ…………
ちょっと衝撃……生まれ変わりって怖いわぁ。
と、そんなことを考えているうちにいつの間にか自己紹介の時間が終わっていた。
で、次は例の二人組を決める作業に入った、のだがここでとんでもない爆弾を投下された。
「い、異議ありだ、ちょっと待て。兄上は……2つ上の学年は自由に組んだと聞いている。何故我らはくじなのだ? 理由を述べよ」
そう、担任教師はこの先3年間ともに過ごすことになる二人組の組み合わせをくじで決めるとのたまったのだ。
妾の意見に対して担任教師は深々と溜息をついた後、面目なさそうな顔でこう言った。
「……去年ちょっとばかし問題があってな……それで今年からくじ引き制度が導入されるようになったんだ」
「……くじだとさらに事故りそうな気がするのだが? 特にこいつは問題児だ。御せるような人間なぞ私くらいしかおるまい……と、言うかさっき普通に組むことを宣言した手前、今更になってそれを変えろと言われるとだなあ……」
木蓮、ではなくブランを指差して抗議を続ける、後々どんな陰口を叩かれても一向に構わんから、妾達だけ特別扱いしてはもらえぬだろうか?
「うーん、それは悪い。くじ引きの神さまに全力で祈ってくれ。ああ、そうだこれはパイライトに限った話じゃないが不正はダメだぞ。まあできないようにこちらも全力で細工をしてるから、どんな組み合わせになるのかは完全に運任せだな」
担任教師は無情だった。
も、木蓮以外ハズレのこのクラスで、くじだと?
はずれるに決まっているであろうが、妾はここぞと言う時の運が前世の……いや前々世の時から悪いのだぞ?
あああ……嫌な予感しかしない……
ええと、少し考えてみよう。
組み合わせは妾にのみ限定してしまえば29組。
まず、当たり枠が木蓮。
ハズレ枠があの事件の当事者以外だから……木蓮と7人除いて21。
大ハズレ枠が当事者6人。
超超超大ハズレ枠が元主……
やばいこの状況やばい……当たり枠が1つだけとかまじやばい……
ただのハズレ枠ならまだマシだ、妾と同じくあの事件ではモブだった人間も結構いるからな。
それに、全員があの事件に関する記憶を持っているとは考えにくい。
そう考えると、ハズレ枠の中には当たり枠が潜んでいるかもしれない、というかおそらくきっとそうに違いない。
大ハズレ以上はもう論外だ、できるだけ避けたいが転校も視野に入れるべきだろう。
特にあの姫君と組む羽目になったらそれはもう面倒な厄介ごとに巻き込まれるのが確定だ、場合によっては虫けらのように殺される。
元主に関しては……それだけはもう本当に勘弁してほしいという感想しか出てこない。
ああ、でもきっとまさか、まさか元主と組む羽目にはならないだろう。
多分普通のハズレ枠のうちの誰かだ、当たり枠の木蓮であれば最良だがこの際贅沢は言わん。
今のうちに祈っておこう、くじ引きの神さま、どうか妾に微笑みたまえ。
くじ引きはチンケな紙の箱に入れてある、折りたたまれた紙を一枚ずつ引くという方法がとられた。
少しでも隙があれば小細工を仕掛けてやろうと考えていたのだが、そんな隙は全くなかった。
なので仕方ないから普通に引いた。
全員引き終わるまで紙を開くなと命じられたので素直に従っておく。
「全員引いたな。じゃあ、開け」
どうか何卒、と思いながら紙を開く。
紙には綺麗な字で『3』と書かれてあった。
すぐに左隣の木蓮に顔を向ける。
「何番だ? 妾は3だった」
「おっと残念、2だ」
くじ引きの神はやはり無情だった。
しかも、3と2って……1つ違いではずれるとか……
「お、おのれ……! 3番、3番は誰だ?」
「僕だね」
左隣から声。
振り返ると睫毛ばさばさの美少年が『3』と書かれた紙をこちらに掲げている。
にこにこにこにこ、非常に機嫌良さそうに笑っていた。
い、いいい一番のハズレだとぅ!?
あ、悪運ここに極めり、最悪だぁ……!!
くじ引きの神は無情どころではなかった。
神は私に一体なんの恨みがあると言うのだ!? 妾は何もしておらんぞ!?
顔が引きつる、それをなんとか抑え込んでとりあえず友好的っぽい笑顔を顔面に貼り付けた。
「お、おう……き、お前か……よろしく頼む」
「うん、よろしくね」
にこにこにこ笑いながら手を差し出されたので、とりあえず握手しておいた。
妾、泣いていいか……?
と、いうわけで早くも暗雲がもくもくと立ち込め始めた学園生活の幕は上がった。
妾、この先どうなるのだろうか。
ああ、こんなことなら留学すればよかった……