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 扉を開けて数秒、教室の黒板にある座席表を見るふりをして架空の誰かに現状を語った(わたし)は、顔を引きつらせないようにするだけで精一杯であった。

 いくつもの視線が突き刺さる、おいやめろ見るな注目するな今の(わたし)はただの極東かぶれの薙刀使いだ、裏切り者のメイドなんかじゃない。

 その視線の持ち主の1人がぴょこりと立ち上がる。

 以前は艶やかだった黒髪を見事に反転させた白髪を持つ小柄な女生徒だ。

 この場において、唯一あの事件とはおそらく全く無関係な、(わたし)の前世の知人だった。

 鬼樹木蓮(きさらぎもくれん)――殴るしか能のない戦闘狂。

 拳だけで全てを解決してきた、おそるべき伝説の少女。

「おっはよー、薙刀の姉御」

「ああ、おはよう」

 へいへいへーいと片手を上げた彼奴の手をパシリと叩く。

 ――きゃらきゃらと楽しそうに幼い笑みを浮かべるこの戦闘狂は、(わたし)が二十代半ばの頃、齢17歳で死んだ。

 見るも無惨に、殺された。

 噂で耳にしただけだが、遺体は踏み荒らされ踏み潰され、原型をとどめていなかったらしい。

「姉御の席どこ?」

「ええと。ああ、そこだな、貴様の隣だ」

 木蓮とは逆側、右隣を見た(わたし)は咄嗟に平然とした態度を取り繕う。

 そこにいたのは睫毛がばしばしの美少年だった。

 前々世の、元主。

 私が裏切ったひと。

 おろかで、きれいで、どうしようもないくらいわがままなひとだった。

 生前は兎に角こき使われた、召使いの領域を超える無茶振りをかまされたことも二度や三度の話ではない。

 特に最後のあれだ、あれは本当に……本当にこの男は愚か者であるのだなあ、としか言いようがなかった。

 だから今世では基本的に絶対に関わらない、関わるとしても最低限だ。

 絶対にこき使われるに決まっている、もうあんな生活はごめんだ。

 だから、なんでもないもののように目をそらした。

 荷物を机の上に置いて、椅子に座る。

「やっりぃ姉御が隣だ。あてられたらこっそり答え教えてくれよ?」

「そのくらい自分で答えよ。はあ……全く、何故貴様がここにいるのやら。ここはそこそこ頭のいい学校の一番優秀なクラスだぞ。貴様はそんなに頭が良くなかったであろうが」

 前世ではこいつは馬鹿だった、本当に馬鹿だった。

 それが何故、こんな場所にいる?

「さあ、よーわからん」

「ああ……わけがわからん……何故貴様のような単純馬鹿の戦闘狂が…………ああいや、なんでもない、兄上の同類か。それなら納得だ」

 1人で勝手に納得した、我が兄も戦闘以外はからっきしだがそれでも一番優秀な1組の生徒だ。

 ……まあ、義姉上(あねうえ)から引き離すと面倒なことになる、と危惧されたという可能性も捨てきれぬが。

「姉御には兄ちゃんいんの? わたしには弟と妹がいるぞ! かわいいぞ!」

「ああ、戦闘能力以外はからっきしの兄が1人」

 末っ子気質で考えなしで単純馬鹿の木蓮がよりにもよって長子とは、弟妹は苦労しているのであろうな。

「へえ、姉御の兄ちゃん強いのか?」

「強いぞ。戦闘では一度も勝てたことがない。毎回ボッコボコにされる」

 文字通り、戦闘()()一度も勝てたことがない。

 真っ向勝負ではまるで歯が立たず、奇襲も小細工も全て破られた。

 あれはもう一種の化物だ。

 目の前のこの戦闘狂と同じく。

「ええー……あの姉御がなあ……」

「気になるのであればいつか紹介してやろう。我が愚兄も貴様と同じで三度の飯と同じくらい戦闘が大好きだからな」

 それ以上に執着しているものがあるが、それさえ関わらなければ嬉々として手合わせに応じるであろう。

「そんじゃ気が向いたら頼むわ」

「おう、こてんぱんにしてくれるとこちらの気も晴れる」

 まあ、今のこやつがどの程度強いのかは分からぬが、全盛期のこやつと我が愚兄の実力はほぼ同じかギリギリ愚兄が上といったところであろう。

「なーなー、姉御ー。そういやさー、この学校ってなんだっけ? なんか二人組になる制度があるんだよな?」

「ああ、その通りだ。兄上の話によるとその二人組で課題をこなしたり、何かの行事の時には共に行動するそうだ。兄上は当然のように義姉上(あねうえ)と組んでいちゃつきながら課題に取り組んでいると聞いたことがある」

「ん? 姉御って姉ちゃんもいんの?」

「あ……いや、義姉上(あねうえ)は兄上の恋人だ。近所に住んでいる人でな、(わたし)にとってはほとんど姉みたいな存在だったからそう呼んでいるだけだ」

 あのお方もよくもまあ、あんな戦う以外に何もできない無骨な男と付き合ってくれるものだ。

 その義姉上(あねうえ)もあの事件の関係者だったりするが、まあそれはもうどうでもいい。

 本当にいい人なのだ、前の時は幸薄そうな人だったが、今はまあ……幸せそうにしている。

 兄上は義姉上(あねうえ)のことがすごく好きだが、義姉上(あねうえ)も兄上のことがどうやら本当に好きであるらしい。

 だから昔っから、と考えたところである事に気付いた。

「ああ……! そうかぬかった……!! (わたし)は今後、またあれの……あの妖怪べとべとと名付けたくなるようなあの執着男の妹として扱われるのか……!!」

「ようかい……べとべと……? 姉御の兄ちゃんべとべとしてんの?」

「比喩表現だ。兄上はなんというか……義姉上(あねうえ)がものすごく好きで暇さえあれば義姉上(あねうえ)にひっついているのだ。どこであろうと誰が見ていようとおかまいなしに」

「ふーん、そうなのか」

「ああ……進学する学校を間違えた……やはり極東に留学かせめて別の学校に行けばよかった……」

 徒歩15分で通いやすいからなどという理由で軽率に決めるべきではなかった……

 そ、そうだ兄上……ここは兄上がいる学校……またあれの妹扱い……執着粘着男の……やばい奴の妹扱い……

 おのれ……あれのせいで何度恥をかかされたことか……!!

 頭を抱えて唸っていると、木蓮に心配された。

「姉御、大丈夫か?」

「あまり大丈夫ではないが、大丈夫だということにしておこう……まあ、学年が違うから関わることもなかろう、兄上も部活には入っておらんし、(わたし)も入る予定はないからな」

 きっとそうだと信じることにした、噂くらいは立つだろうがそれはもう仕方ないであろう。

 ちなみに兄上の口癖は『彼女(義姉上(あねうえ))は僕のだから。手を出したら潰して切るよ』だ。

 ああ、駄目だ確実にやばい奴の妹扱い確定だぁ……

「でさー、話戻すけど、とにかく二人組になる制度があるんだろ。姉御がいいなら昔のよしみで姉御と組みたいんだけど」

「おう、良いぞ。どうせ貴様のような厄介者相手に立ち回れるような人間なんぞ、(わたし)の他におらぬだろうからな。それに旧知相手であるのならこちらも気が楽だ」

 そう答えると木蓮は以前と変わらぬきゃらきゃらとした笑い声を立てた。

「それじゃ」

「おう」

 ばちん、と手を叩き合わせて、互いに互いにとって懐かしい笑みを浮かべる。

「よろしくな? 姉御」

「こちらこそよろしく、だ。相棒」

「おー、いいねぇ、相棒って響き」

「だな」

 木蓮はきゃらきゃら笑って、(わたし)はきひひと口元を深く歪ませた。

 右隣から妙な視線で見られていることには全力で気付かないふりをして、ただ笑う。

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