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名を忘れた男  作者: まさきち
9/16

真相は

「連れ込まれそうになったんは、何処や。分かるか。」

「え、行くんですか。」

 新今宮駅からの道は覚えているので場所は分かる。

「何処の誰か分かるやろ。それに刑事が一緒におるのになんやするアホはおらん。安心せえ。」

 嫌々ながら向かっていく途中で、オオタが俺を見つけ、近づいてきた。


「誰や思うたら、斎藤さんでっか。」

「やっぱりお前んトコか。」

「そのガキ庇うて、どないしますねん。やっぱりあの女に惚れとったんかいな。」

「コイツはホンマに何も知らんわ。しょうもないことされて無駄な仕事増やされても敵わんし、誰も得せえへんからな。」

「何がしょうもないコトやねん。そもそもオノレの管轄やないやろ。こっちはカシラやられとるんやど。」

「コイツ痛ぶっても、何も出てけぇへんわ。それにお前んトコの若頭はまだ行方不明なだけやろ?要らん事してパクられてもしょうもないって言うとんのや。」

 意味が分からず、全く話に付いていけていないが、何か大きな話になっているようだ。

「この阿呆ヅラみたら分かるやろ。」

 俺の事か。

「一体何の話か…」

「何をすっとぼけとんのじゃ、オノレぁ。」

「黙っとけ、アホ。」

 黙っといた方が良さそうだ。

「ほな、行くぞ。」

 何かわからなかったが、用事は済んだらしい。


 斎藤刑事に新今宮の駅まで送られる。

「ありがとうございます。」

 無言で送り出され、電車に乗るために、ホームで待っていると、電話が鳴る。

 名前は出てないが、見覚えのある番号だ。

 斎藤刑事だ。

「斎藤や。天王寺で降りてから人の多いところで適当に時間を潰してから、あべの筋を南に下れ。商店街の方やぞ。」

「え?」

「分かったか。」

「はい。」


 言われた通り南に向いて歩いていると、また斎藤刑事から電話がきた。

「もしもし、永井です。」

「カラオケ屋ん所を左に曲がって、突き当りを右に曲がれ。少し行ったら、右側に『ヴィラ』っちゅう店があるから、俺の名前出して二階に通してもらえ。」

 表通りから少し外れ、人通りの少ない所になるが、お洒落な店で、一階はカウンターのみ。

 そのカウンターには、生ハムの豚の足一本が飾ってある。

 四十になるなならないかの男が店長のようだ。

「あの、斎藤さんに言われて来たんですけど、二階でお願いしたいんです。」

「ああ、上がって待っとき。何か飲むか。」

「いや、いいです。」

 座った席で、水だけで待つ。

 10分ぐらいで斎藤刑事が上がってきた。

「もう尾行はないわ、ちゃんと諦めよったみたいやな。」

 尾行されているか、確認していたようだ。

「お前、何か飲むか。」

「えっと、お仕事は…」

「今日は非番や。アホ。」

 生ハムとともにショットグラスに入った酒が斎藤刑事の前にくる。

「まぁ、何か飲むもん頼めや。」

「はい。」

 言われてハウスワインを頼むと、合せて前菜の盛り合わせがくる。

「今日のことは誰にも言うなよ。今日みたいに面倒な事になりたなかったらな。ついでに、事情も説明したるから。」

 しかし、言い出し難かったのか、話し始めたのは、何杯かグラスを重ねた頃だった。


 釜ヶ崎のあいりん地区にいる浮浪者達でも、働いて社会復帰を目指す人達もたくさんいる。

 ただ、アルコール依存症や精神障害等で社会復帰が難しい人達の為に、サポートしていたのが、姉の働いていた団体である。

 麻薬の汚染も多く、斎藤刑事は事情聴取等で姉のところに行く事がしばしばあったらしい。

 ある日、権兵衛が現れ、記憶を失い、新たな記憶もできない、そんな男と姉が付き合い始めたのは、つい、3カ月ほど前かららしい。

 同時に、施設に通っていた男が覚醒剤にハマり、止めさせようとして色々と動き回っている中で、ボディガードを得た姉貴の正義感に火がついたのもあるみたいだ。

 病院、NPO、社会福祉法人などを回っているうちに、所謂、福祉ビジネスに関わるところに目を付けられたようだ。

 斎藤刑事が現場に着いた時には、姉は殺され、先にいた権兵衛がヤクザの若頭と売人をその手に掛けていたという。

 斎藤刑事は、彼らが準備していたドラム缶とコンクリートで処理をした。

 そして、権兵衛の持つメモや身元の分かる物を全て処分し、彼を海に突き落とし、そして逃げた。


「海に突き落としたんは、権兵衛の身元が分かるモンが出てけえへんかった理由が要ったからや。」

「姉ちゃんはやっぱり殺されてたんですね。」

「そや。やっぱりおかしいわな、俺。死体遺棄で自首する前に、家族に話したい思うてたら、たまたま、お前に会うてな。」

「斎藤さんは、姉ちゃんの事、どない思うてましたん。」

「どないって、何でそんな事聞くんや。」

「斎藤さん、僕に世話焼きすぎです。」

「そこまでなんや言う気持ちも無かったんやけどな。」

「僕以外は誰も知らんと思います。権兵衛さんはこうなるのを望んでたんかも知れません。弟としてはもう、このままでええんちゃうか思うてます。もちろん、親にも言う気はありません。」

 しばらくは酔えない雰囲気のままグラスを重ねていたが、どちらともなく店を後にした。



 結局、斎藤刑事は自首しなかった。

 二人の男の気持ちや、事件の裏側や詳細、聞きたいと思う反面、聞けば気持ちの整理もできないと思い、結局、事件についてはそれ以上詳しい話は聞かないことにした。

 姉は一旦は自殺とされたが、現在、両親が殺人・死体遺棄事件として弁護士と共に刑事告訴を行う準備を進めている。

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