クサナギ副所長の人事ファイル⑧ エピローグ
静かな廊下。
両の手で視界を塞げば、世界なんて感じられないほどの静寂。
響く長靴の音。
「やあ、お疲れのようだねクサナギ副所長」
「……ザワールド博士、如何して此方へ?」
「先程所長に呼ばれてね。今から緊急の会議が行われるらしい。それで会議室まで向かっていたのさ」
「……そうですか」
「仕事の方は片付いたのかね?」
「はい。現在出張で出払っている三人の博士以外は無事にプロファイリングを終えました」
「そうか、流石は副所長だ。後で少しプロファイルを閲覧しても構わないかな? 不備が無いかどうか確かめたいのだが」
「構いませんよ。職員に私の口から伝えておきます」
「ありがとう。かなり疲労している様だが会議に遅れない様気を付けたまえよ」
静かな廊下を甲高い靴の音が満たす。
私といえば先程の刻印の事で頭の中がいっぱいだった。
時間にして僅か数時間のプロファイリング。
その中で得られた情報とその奇妙なまでの関連性。
誘われている。
深淵に潜む者、その毒牙が私の首筋を狙って手を拱いているのだ。
だが逃げる訳にはいかない。
この世界を絶やさぬ事。
それが私に与えられた使命であり至上命令。
生まれてきてしまったことに対する贖罪。
どこまでも征こう。
残されてしまう事の無い様に。
次回より本編が始まります。