表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
NDP. Foundation―ハザマ所長の事件簿―  作者: 異濤崇拝
クサナギ副所長の人事ファイル
8/10

クサナギ副所長の人事ファイル⑦ ヨナルデパズトーリ博士とキリコ博士

『此方財団機動部隊クリスタルスカル小隊――至急サイト7に応援要請――制圧に必要な火力が不足しています!』

「此方クサナギ。クリスタルスカル小隊よりの応援要請を承りました。至急ネブラディスク小隊とプライストシンスプリング小隊を派遣します」

『感謝します――クサナギ司令!』


 どうも、NDP財団副所長のクサナギです。

 現在サイト7にてプロファイリングを行う為に訪れたのですが、予期せぬ事態につき機動部隊を出動させています。

 NDP財団は独立した私設師団を保有しており、数人の責任者にその指揮権が与えられています。

 指揮権を保有しているのは財団代表、財団副代表、研究所所長、研究所副所長の四人で代表に師団全体の指揮権、副代表と研究所所長に一個旅団の指揮権、副所長である私には一個連隊の指揮権が与えられており、平常時は自らの判断で部隊を動かす事が可能となっています。


「今回の()()()は中々激しめですな、クサナギ司令」

「ええ……ディグドッグ大佐の連隊が近くで演習を行っていたので助かりました。」

「何、サイト7は演習をするのに最適な場所ですからな。サナの奴は役に立っていますか?」

「娘さんですか。クリスタルスカル小隊は彼女無しでは成り立ちませんよ」

「いえいえ、まだまだ未熟ですからな。司令殿に迷惑を掛ける様な事があれば直ぐ私にお伝え下さい」


 ディグドッグ大佐、今日もお疲れ様です。

 去りゆく背中に敬礼しておきましょう。


 さて、戦況はどうなっているのでしょうか。


『此方ネブラディスク小隊プライストシンスプリング小隊合同部隊――クリスタルスカル小隊と無事合流しました!』

「そうですか、状況はどうですか?」

『研究棟外に出ない様に()()()()を中心に破壊しています。これから全火力を傾注させてキリコ博士の本体とヨナルデパズトーリ博士に接近を試みます』

「分かりました。キリコ博士になら遠慮は無用ですので持てる全火力を使用して事態の鎮圧に当たって下さい」


 現在、キリコ博士及びヨナルデパズトーリ博士の両名によってサイト7研究棟は機能が完全に停止しています。

 キリコ博士の持つ特異性によって占拠された研究棟からは全研究員が既に避難しており、機動部隊の介入による事態の収束が待たれる状態です。


 キリコ博士は十七歳の白人女性です。

 財団に収容される前は――――の娼館で働いており、財団の現地研究員にその特異性が発見された事によって財団に保護されました。


『クサナギ司令!』

「どうしました――――」

『退避して下さい!』


 触手。

 蛸のそれを思わせる幾本もの肉柱によってサイト7の最上階が吹き飛んだのを今確認しました。

 如何して今日はこんなにも研究所が滅茶苦茶になるんでしょうか?

 これは世界の終わり――或いは宇宙の始まりにあったとされる混沌――何方にせよ私にとって好ましくない状況である事は確かです。


 おっと。何か落ちてきた様です。


「……大丈夫ですか?」

「あれ……私生きてる……?」

「墜落する前に受け止めました。怪我はありませんか? サナ中尉」

「く、クサナギ司令! 済みません! ご迷惑を――――」

「部下を死なせないのが私の仕事です。上の状況は分かりますか?」

「あ、あの、ヨナルデパズトーリ博士に流れ弾が当たってしまって……キリコ博士をぼ、暴走させてしまったみたいです」

「……なるほど、今状況が分かりました」


 研究棟の最上階――土煙のこみ上げる白銀のオベリスクから怒り狂った怪物が姿を現したのです。

 人間の女性の上半身に蛸の様な触手を持つ下半身――所謂スキュラの様な形態をとった状態のキリコ博士は人間とは思えない声で咆哮しました。

 身に受けた無数の銃弾で身体の彼方此方が削り取られ、衣服も消し飛んで巨大な乳房が両方とも露出してしまっています。

 ……これは完全に我を忘れていますね。


 キリコ博士の持つ特異性は「神の左手悪魔の右手」と呼ばれるもので、自身の手で体内の組織を改造し体構造を変化させるというものです。

 完全手術とも呼ばれ如何なる傷を負っても治療する事が可能です。

 鶏鶏大納言三世昴博士の特異性に類似していますが、それとは似て非なるものです。

 先ずキリコ博士の能力は昴博士の様な体質とは違って彼女自身の手で行われる行為、つまりは技術である為、脳を破壊された場合は上手く治療を行う事が出来なくなります。

 脳を破壊する以外にも麻酔による脳機能の停止も有効であり、彼女の再生能力を阻害する事が可能です。

 またこの能力は他人に対しても施す事が可能であり、医療に於ける応用力の高さからキリコ博士を医療関係の研究を主とするサイト7の管理者足らしめています。

 もう一つの差異は再生の範疇を大きく超えた変形を可能にするという点です。

 彼女は娼館で働いていた当初からこの能力を多用し、倒錯した性的嗜好を持つ客を相手に冒涜的な快楽を提供していました。

 この特異性は未知の手段によって質量保存の法則を超越しており、肉体を数十倍の大きさに改造する事すら可能にしています。

 ただし、あくまでも肉体の改造である為に実体のないものや非生物に変身する事は出来ない様です。


 現在この特異性によってキリコ博士の肉体は白銀のオベリスクの頂上からはみ出す程に巨大化しており、非常に厄介な状態です。


 ……あの麻薬天使は何をしてるんでしょうね。

 今触手の先端で喘いでる貴方ですよ? ヨナルデパズトーリ博士。


 ヨナルデパズトーリ博士は十三歳の白人の少年です。

 非常に美しい顔立ちをしており、愛らしい少女の様な見た目をしています。

 また、その背中には天使を思わせる一対の白い羽が存在しています。


 その外見には強い中毒性があります。


 個人差はありますが彼の姿を数時間見続けた人間は彼に依存し、廃人と化します。

 彼は――――の山奥に存在したカルト集団の集会所にて数千体の女性の腐乱死体に囲まれた状態で発見されました。

 その教団の指導者であったシスターSという人物によって博士は神格として崇められており、儀式と称してシスターSに度重なる冒涜的な性行為を強要されていた様です。

 現在シスターSは要注意人物として財団により指名手配されています。


 財団職員による回収後、ヨナルデパズトーリ博士は教団での生活で得た魔導書に関する知識を評価されてA級職員に着任しています。

 教団での生活の影響か女性と居る事を好み、また自身の特異性によって廃人と化す事の無いキリコ博士に強い依存性を抱いている事が正気度指数検査により明らかになっています。

 度々自身の管轄であるサイト10を脱走し、キリコ博士の居る研究棟にてかつての様な破滅的な行為に耽る癖が残っています。


 どうやら今回の件もそれが原因である様です。

 どうもキリコ博士の方も自身の制御が利かなくなっている様ですが。


「サナ中尉、連隊司令部に連絡して至急医療中隊を派遣して貰って下さい」

「増援部隊ではなく医療中隊ですか……? それでは――――」


「彼等は私が鎮圧します」


 これを使うのも何時振りでしょうか。

 腰に携えた日本刀を振り抜き、深呼吸――――


「NDP財団副所長『刀匠』ユキ・クサナギ――――推して参ります」


 重力に身を任せ落下してくるキリコ博士を前に、突撃。

 白銀のオベリスクを垂直に駆け上がり、握る刀に力を込める。

 異形の肉体が風を切る音、

 肉の手応え、

 切り開かれた喉笛から漏れる悍ましい音、

 鮮血の音と匂い。


 私は血に濡れた刀身をオベリスクの壁に突き立て、空中で静止しました。足元で鳴った瀑布の様な水音はキリコ博士の肉体が大地に叩き付けられた音でしょう。


 居合いの瞬間、私は気になるものを見ました。

 キリコ博士の下腹部――其処に刻まれた薄紅色に輝く紋章。

 私は同じものをかの有名な魔導書「水神クタアト」で目にした事があったのです。


 ミスカトニック大学の新代表様には近い内に御足労いただく事になるかと思います。


 報告は以上です。



 NAME:キリコ(本名不詳)

 CLASS:A級職員(博士)

 SEX:女性

 AGE:17

 BIRTH DAY:D.02 M.02 Y.――――

 ADDRESS:NDP財団本部研究所サイト7ルーム3000


 NAME:ヨナルデパズトーリ(本名不詳)

 CLASS:A級職員(博士)

 SEX:男性

 AGE:13

 BIRTH DAY:D.15 M.03 Y.――――

 ADDRESS:NDP財団本部研究所サイト10ルーム3000


 文責 クサナギ副所長

 D.―― M.―― Y.――――

 国際機関NDP財団本部付属研究所✓

相互救済同盟愛無き世界の戯れ。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ