クサナギ副所長の人事ファイル⑥ サテラステラ博士
「……白、だな」
サイト6管理者――サテラステラ博士はグラスに並々と注がれたブルーベリースムージーを見てそうおっしゃいました。
「俺好みのペパーミントグリーンだ。縞模様とは恐れ入った。小さいピンクのリボンも少し子供っぽいがアクセントとしては悪くない。……ギャップもある。何てこった、そうか、ギャップか。確かにアンタみたいな大人の女がちょっと子供っぽいヤツを穿いてたら普段より可愛く見えるという事は歴史が証明している。……乗っかるしかねえって事か。この大波に。布面積も非常に小さい。マジで子供用を穿いてるのかと一瞬引くレベルだ。……紐だな? 両サイドを紐でくくるタイプだ。男は皆ソイツが好きだからな。俺だってそうだ」
サテラステラ博士は三十二歳のコーカソイド系男性です。
他の博士と同様に数多の学問分野に精通していますが、特に天文学の分野に於いて顕著な功績を収めています。
現代魔術学に於いて中心的な概念である「星辰」の存在を発見した事から――――年にミスカトニック賞を受賞しており、魔術学の界隈では名の知れた人物です。
このドスケベは「千里眼」と呼ばれる特異性を有しています。
正確には彼自身の有する特異性ではありません。
彼の両眼球の代わりに取り付けられた逸噺投影級リジデウム「ODIN」の持つ特異性によって得られた能力の一つです。
可視領域を操作し、透視や遠隔視、エーテル体の視的観測も可能とする程のスペックを備えています。
彼がODINを移植されるに至った経緯は現在まで明らかになっておらず、本人も「きっと宇宙人に移植されたんだろ」と特に気にしてはいない様です。
「博士、財団ではセクハラ行為の際には武力による制裁が許可されている事を御存知ですか?」
「え、待って。それは聞いてない。聞いてないぞ」
「虚実申告ですか? それはいけませんね。上官に対する虚実申告は死罪に値しますよ」
「何時から財団はそんな物騒な組織になったんだ? この程度の事で処刑なんてしてちゃあっという間に人員が足りなくなっちまう」
報告します。
本日弾丸を一発使用しました。
物資管理管轄への報告をお願い致します。
「……この程度の事? この程度とはどの程度でしょうサテラステラ博士」
「悪かった。俺が悪かったから落ち着いてくれクサナギ副所長。大人しくプロファイリングに協力すりゃいいんだろ?」
「御理解いただけて何よりです」
「しかしまぁ何だって急に俺達のプロファイルなんて必要になったんだ?」
「説明したでしょう。ミスカトニック大学の新代表からの要請です」
「そこがちょっと引っ掛かるんだよな。今までにも何度か代表が代わった事があったがその時はプロファイリングなんて要求されなかったじゃないか」
「……なるほど。そう言えばこの話はしていませんでしたね。実は近日ミスカトニック大学の新代表がこの研究所を視察に訪れるんです。プロファイリングはその為のものでして」
「ミスカトニック大学の代表がここを視察だって……? ウチも随分デカくなったんだな」
「最近各地のリジデウムが活性化を始めているとの情報が入っています。それらがどうもミスカトニック大学の所蔵する『水神クタアト』に関係があるらしいとの事で大学側が自ら調査に乗り出しているんです」
「それでウチにお声が掛かったって訳か。リジデウムに関してはウチが一番研究を進めてるからな」
「……ですから早くサイト6の浄化作業を終わらせて下さい。唯でさえサイト5が汚染されて後処理に追われているんですから、サイト6までこんな状態だと知られたら協力関係を打ち切られかねません」
「えー……どうしても片付けなくちゃ駄目か? アレ、割と気に入ってるんだけど」
「片付けて下さい」
現在、サイト6は無数の電子機器で埋め尽くされています。
そのいずれもが巨大な人型機械の一部として機能している、若しくは機能していたものであり、サイト6内では度々それらによる闘争行為が行われます。
これらの行為は全てサテラステラ博士の欲求を満たす為だけのものです。
ODINのもう一つの特異性は「電子機器の支配」です。
ODINが起動すると同時に任意の電子機器が博士の支配下に置かれ、また未知のエネルギーによって対象を移動、溶接する事が可能です。
また超高性能の記録媒体としても使用が可能で、視界に映ったものであれば現存するあらゆる記録媒体よりも精密な画像若しくは動画データを作成することが出来ます。
また、この能力は先述した透視、遠隔視との併用が可能です。
本来の使用法は現在調査中ですが、その汎用性の高さと期待できる性能の高さから、電子機器の普及した現在では世界終焉シナリオすら引き起こし得る為に厳重に能力の濫用を規制しています。
現状ODINを制御する方法が皆無であるにも関わらず世界終焉シナリオが発生していない理由は偏にODINの所有者がサテラステラ博士である事にあります。
サテラステラ博士は子供並みの欲求しか持ち合わせていません。
世界を滅ぼし得る魔導兵器は現状
・女性の下着を観察する。
・当たり付き商品の厳選。
・19800円のオーディオ機器の修理。
・成人向け雑誌の袋綴じの閲覧。
・映画の無銭鑑賞。
・全職員のログインアカウントを自分の誕生日に変更する。
・全職員の壁紙をクサナギ副所長のセクシーブロマイドに変更する。
・サイト6内にて超大型人型機械を用いてボクシングの試合を行う。
・ポチョムキン博士に会議の場で奇妙なダンスをさせる。
・自分の名前をつける為に新たな天体を発見する。
といった比較的軽微な私的利用にしか使用されていません。
被害を最小限に抑える為に上記の行為に関しては基本的に容認されています。
「クサナギ副所長、今日のブラジャー似合ってるぜ」
今後も最悪の事態を引き起こさない為に継続した監視と甘やかしが必要です。
NAME:ルーク・サテラステラ
CLASS:A級職員(博士)
SEX:男性
AGE:32
BIRTH DAY:D.12 M.08 Y.――――
ADDRESS:NDP財団本部研究所サイト6ルーム3000
文責 クサナギ副所長
D.―― M.―― Y.――――
国際機関NDP財団本部付属研究所✓
悪戯混じりの平和な世界。