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魔法少女mirai✡7 【⚠修正前】  作者: 千歳もも
✡第1幕 _桃色の光
8/39

*episode.6 訪問者

 

 ……虚しい。

 頭がぼーっとしてきて、気がついたら手脚に力が入らなくなっていた。きっと逆上せちゃったんだ、もう上がった方がいいかな。

 給湯器の電源を切って、洗面所のタオルを手に取る。もふもふした鮮やかな桃色の中に、ぎゅっと顔を押し付ける。

 柔軟剤の甘ったるい香りが鼻腔に広がる。お父さんが大好きだった香りで、私が幼稚園に入る前から変えてないんだって。

お父さんに、会いたいな。



 ドライヤーをかけながら、 昔のことを思い出した。

 私は昔からみんなとは違ってたから、周りに理解してもらえなくてトラブルになる、なんてことは度々あったんだ。

 その度にお母さんを傷付けてた。私のせいで、何も悪くないお母さんが悪い人扱いされてたの。

 悔しかったし、今でも思い出すたびに悔しいけど、私はまだ小さくて、何も出来ない人間だったから、仕方なかったのかなってちょっと諦めちゃったりしてるんだ。叶うなら今からでも挽回したいなぁ。

 幼稚園の入園式の日は本当にびっくりしたなぁ。当たり前だと思っていたことが、実は当たり前なんかじゃなくて。記憶は曖昧だけど、あの時の衝撃は今でもちゃんと覚えてるよ。頭の上に雷が落ちてきたみたいな感じで、手脚が冷たくなってさ。見ている世界がまるで早送りされてるみたいにぐるぐる動いて、しゃがみ込んじゃったんだっけ。

 あはは、思い出したくもないよ。それでも、きっと一生忘れることはないだろうけど。


 髪の毛は一向に乾く気配もなく、表面の水分がちょっとなくなったかなってくらいだったから、ドライヤーの電源を切った。

 このまま乾かし続けても、何十分掛かるか分からないし、自然乾燥の方が傷まないし。

「うーん、疲れたぁ」

 リビングのソファに身を投げる。

 水滴が滴り落ちるのを気にする気力もなく、そのまま脱力し切ったのか、私はいつの間にか眠っていた。



 ✡



 ここは、どこだろう。

 周りは真っ暗で、自分の手足も全く見えない。

 ……そうか、これは夢の中なんだ。そしてきっと、あの女の子が出てくるはずだよね。

 それにしても、今日の朝は夢を見なかったのに、何で今なんだろう。基準とかよく分からないけど、夢って不定期に見るものだから、つまりはそういうことか。……やっぱりよく分からないけど。

 とりあえず、あの女の子を探してみよう。色々訊いてみるんだ。


 しばらくその場に立っていたけど、何も聞こえないし誰も居ない。

 歩いてみようと思ったんだけど、歩いても歩いてもその場から進まないんだよね。真っ暗だから位置感覚がないとかじゃなくて、本当にその場から動けないの。何でかな、不思議だよね。

 声は一応出るんだけど、暗闇に吸い込まれてよく聞こえない。


「誰か──……」

 しばらく何回か声を上げてみるも、無音が続くだけで何も返ってこない。

「誰か、誰か――」

 何も、聞こえない。



 ✡



 ……あれ。

 私、やっぱり寝ちゃったんだ。

 うーん、何かとてつもなく怖い夢を見たような気がするけど、どんな内容だったか思い出せないや。きっと光関連のものではないよね。

 それにしても、今日は学校サボっちゃったんだ、ちゃんと勉強しておかないと、どんどん置いてかれちゃうよ。

「今何時……ふぉう」

 リビングの壁掛け時計を見ると、午後4時半を回っていた。

 一体何時間寝てたの、私は。あちゃー、絶対夜眠れないパターンだよこれ。

 過ぎちゃったことは落ち込んでも仕方ない、勉強勉強――


 ピンポーン、と玄関のチャイムの音が聞こえてきた。こんな時間に誰だろう、お母さんが通販で買い物でもしたのかな。

「はーい」

 ソファから起き上がって、廊下を走って、ドアを開ける。

「お待たせ――あぁっ!」

 私は思わず間抜けな声を上げながら、2歩後ろに下がった。

 そこに立っていたのは、全く予想していなかった人だったんだ。

「あ、あなたは……」

「同じクラスの赤羽です。無断欠席したようなので、注意とプリントを届けに来ました。」

 ミラクルキーを拾ってくれたあの女の子が、そこに立ってたんだ。

 わざわざ来てくれたの……!? 心の奥がじーんとあったまった。

「あ、の、上がって下さい!」

「玄関でいいわよ。それより、入学早々無断欠席とはいい度胸じゃない。色んな人に迷惑掛けてる自覚はないの?」

 赤羽さんは眼鏡のレンズ越しに、私を冷たく見詰める。すごく冷たい瞳に、一瞬背筋が凍りつく。

「えと、……赤羽さん。ゴメンなさい、今日はちょっと憂鬱で……」

 自分でも情けないなって思うくらい情けない言い訳が不意に飛び出した。本当情けない。


「謝る相手は私じゃないでしょ。今日はもう帰るわ」

 赤羽さんは深い深い溜め息を吐いてから、持っていたプリントの束を私に押し付けて、ドアを押し開けた。

「あの、本当にありがとう! 先生に言われて来たのかな。家が近いとか__」

「教師なんかに頼まれ事したって引き受けないわよ!!」

 赤羽さんは吐き捨てて、走って帰っていった。


 ……教師に頼まれてないってことは、自主的に、ってこと?

 それって私のために? 私が授業に遅れないようにって、わざわざ家にまで来てくれたってことかな。

 あれ、でも、どうして私の家の住所を知ってたんだろう……?

 ま、いっか。この際そんなこと。

 赤羽さんかぁ。仲良くなれたら、いいな。

 

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