*episode.2.5 夢の中の少女
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『………けて、…………たすけて』
誰かが私に呼び掛けている気がした。必死に声を振り絞って、一生懸命叫んでる。
どこか遠くの方から聞こえてくるけど、遠く過ぎてよく分かんないや。
……あれ。なんだろう、全身が重たい。
それに目の前も真っ暗だ。目を開けているはずなのに、見えるものは黒一色の真っ暗闇だけ。
ここは、どこ?
『助けて。あなたは桃色の光なんでしょう?
お願いだから助けて、私をここから連れ出して。もうこんな怖い場所には居たくないの。冷たくて静かで、何も無いの。
怖いの、もう独りは嫌なの!』
そうだよ、私が桃色の光だよ。まだ自分でも信じたくないけど、私は特別な存在なんだ。
だけど、どうしてあなたはそれを知っているの?
『助けて、助けて。苦しい……もう駄目。
どうして私が独りぼっちにならなくちゃいけないの?ねぇ、どうして』
その声は私の問いには答えてくれなかった。だけど、本当に苦しそうに叫んでる。
私が助けてあげられるなら助けてあげたいけど、あなたは何を望んているの?
『あの子達が悪いのに。私の大切な物を全部奪っていったのはあの子達なのに!
私の全てを破壊して、私の大切な人までもを壊して――どうして加害者は全てを無かったことにして幸せに生きているのに、被害者が苦しみながら生きていかなくちゃいけないの!』
やっぱり答えてくれなかったけど、その代わりに、その言葉が私の胸にグサッと突き刺さった。
まるで去年の私と同じだったんだ。
その叫び声の主の感情が、鮮明に私の脳裏にも焼き付いてくる。拭おうとしても離れないで、本当に私自身を憎しみで支配しようとしているみたいに。
どうしよう、このままじゃ闇に染まっちゃう!
――光が闇に掻き消されてしまう。
不意にそんな言葉が浮かんできた。
どんな意味なのかは全然分からないけど、このままじゃマズイってことだけは分かった。
『私は人間を許さない。絶対に、この力で滅ぼしてやる』
声の主が私の目の前に現れた。私より年上くらいの、背が高い女の子だった。
長いポニーテールが妖しげにゆらゆらと揺れている。
そして胸元から漆黒の霧みたいなものが溢れ出して、私の全身を覆い尽くしていく。私の身体は液体になった霧――闇に沈んでいく。
女の子の全身も闇に包まれていき、その闇を右手でさっと薙ぎ払う。
中からは漆黒のワンピースやブーツが現れ、女の子の瞳は銀色に光り出したんだ。
あのコスチュームは、私が着ていた魔法少女のワンピース!
だけどあの瞳は、妖精さんと戦っていた女の子と同じだ――
「ちょ、待っ……て……」
漆黒の液体に溺れながらも、私は必死に手を伸ばした。あの子の、真っ暗な心に届くように、必死に、必死に――
「このままじゃっ……」
どうにかしなくちゃ、と思っているのに、意識がどんどん遠のいていく。、感覚が麻痺して、息も苦しくなって、喉の辺りがじんじんして、刺さるように冷たい。
「こんな地球、消えちゃえ!」
女の子は、半分だけ黒くなった大きな鍵を持って、そう叫んだ。
駄目だよ、と言おうとしたけど――もう、無理――――




