*episode.32 妖精の能力
✡
その日の夜、私は妖精さんに、黄色と橙色の妖精さんが言っていた事を教えてもらった。
黄色と橙色の妖精さんは、黄色の光である檸檬ちゃんが闇に染まってしまったのが原因で、また眠りに就いてしまったんだって。
だけど、もう成長が終わったからか、完全に眠ってしまった訳ではなくて、不定期に姿が消えてしまうんだとか。だから、昨日は闇の結界の中で檸檬ちゃんと蜜柑ちゃんに接触したんだけど、運悪くその時に姿が消えてしまったので、サポートする事も、自分の存在を2人に知ってもらう事も出来なかったんだって。
誰にも頼れなくて悩んでいる2人の事を、近くで見てて、分かってるのに助けてあげられなかったから、それが1番気掛かりで悔しいって、とても悲しそうな顔で言ってたんだって。
それから、シャイニング・ケーンで空を飛べた事。
妖精さんも、こんな事が出来るなんて、知らなかったんだって。何も黄色と橙色の妖精さんの能力なんだとか。
シャイニング・ケーンを持った光は、それに跨って空を飛べるようになる。だけど、その為には、黄色と橙色の妖精さんの力が必要なんだって。
妖精さんには、それぞれ光をサポートする為の能力が備わっていて、赤色の妖精さんは、魔法陣をシールドに変えて、同時に攻撃も出来るようになる能力なんだって。
「それじゃあ、妖精さんの能力はどんなものなの?」
私は期待してそう訊いてみたけど、
「さあな、何だろうな」
妖精さんは意地悪で、教えてくれなかった。
檸檬ちゃんと蜜柑ちゃんが、とりあえずでも変身出来たのは良かったよね。少し安心したよ。
でも、当の本人達の精神は、きっとズタボロになってる。それはきっと、ちょっとだけ私のせいでもある。
だから、私がちゃんとサポートしてあげないと。
✡
「紅ちゃん」
教室の電気を消して振り返ると、教室の前に高本しゅうこが立っていた。
意思の読めない笑顔で、学生鞄を脚の前で両手で持ちながら。
「遅くまでお勉強、お疲れ様。」
「何の用ですか?」
私はわざと素っ気なく返す。
「敬語なんかで話さないでよ。私達、命懸けで戦った仲じゃない!」
肩を竦めながらおどけて見せる高本しゅうこ。その態度にイラッと来る。
「そうね。あなたと戦ったせいでここを痛めたわ。」
腫れ上がった右肩を、ぐいっと前に押し出す。
「わっ、そんなになっちゃってるの? 早く病院行った方が良いんじゃないの?」
「あなた、私の家庭環境を知っておいてよくそんな事が言えるわね。」
病院に行けない事、分かってるくせに。
「あー、ごめんごめん。今のナシ」
「1度言った事は取り消せないわ」
「本気で怒った? ほんとごめんって」
高本しゅうこは両手を擦り合わせながら中腰になる。
「反省してるようには見えない。謝る気がないなら謝らないでちょうだい」
本当にイライラしてきたわ。闇ってどうしてどいつもこいつもおちゃらけてるのかしら。
「いやいやいや、本当にごめんって! そんなに怒る事なくない?」
「分かったわ。特に用事がないなら早く帰らせて。」
私は高本しゅうこの脇を通り抜けようとした。だけど、高本しゅうこは腕を広げてそれを阻止した。
本当に何なのよ、いい加減殴りたい気分よ。
「用事がない訳じゃないの。ただ、桃音ちゃんの事、聞きたくてさ」
「あなた、桃音の家の近所に住んでるんでしょ? 会いに行ったら良いじゃない。」
「嫌よ!! もし何かの拍子に私だってバレたらどうするの!? せっかく闇の能力で、別人に変身してたって言うのに……!」
「そんなの知らないわ。とにかく私に頼らないでちょうだい! 敵同士なんだから!!」
私は縋り付いてくる高本しゅうこを引き離した。
「……敵、同士」
高本しゅうこは、ポツリと呟いた。
「私達、――桃音ちゃんと私、敵同士なのかな」
泣きそうな目で、そんな事を言った。
「……知らないわ」
私はそう言って、立ち止まる高本しゅうこを押し退けた。
光と闇が敵同士かって?
そんなの、私が知りたいわよ。
✡
「ねえくーちゃん、ゴールデンウィーク、どこか遊び行かない?」
朝早く学校に着いた私は、既に予習を始めていたくーちゃんに話し掛けた。
「そう言えば明日からゴールデンウィークだったわね。」
眼鏡を外して、眠そうに目を擦りながら、くーちゃんはそう言った。
「くーちゃん、寝不足?」
「え、ええ。ちょっとね。」
くーちゃんは本当に眠そうに欠伸をした。
「大丈夫? 何か悩み事があるなら、聞くよ?」
この間も、3日間ちゃんと寝てないって言ってたし。夜遅くまで勉強してたのなら、そんなに熱心に取り組めるくーちゃんはすごいよね。
「平気よ。桃音は他人より自分を心配するべきよ。
それで、ゴールデンウィーク。どうするの?」
「あ、そうそう。それでね、もし良かったらなんだけど、檸檬ちゃんと蜜柑ちゃんも誘って、皆でぱーっと遊びたいなーって!」
私は身振り手振りしながら、高らかに叫んだ。
「へえ、良いじゃない。きっと2人も、光の事なんて忘れられるわね。」
「うん。でも檸檬ちゃんは怪我してるから、遊園地とかは無理っぽいよね?」
最近はずっと休んでるし、きっと心身共に物凄いストレスが掛かってる。遊びに行くのが薬になればいいけど、毒になる可能性だって0な訳じゃないしね。
「そうね。私もああいう賑やかでうるさい場所は結構苦手」
確かに、あんまり慣れてなさそう……って、これはちょっと失礼か。
「あ、そういえば、蜜柑ちゃんも人混み苦手って言ってたっけ……」
スーパーで初めて話した日、明るくて人が多い場所が怖いって言ってたよね。
「遊びに行くって言っても、外で遊べないんじゃつまらないかしら?」
「私の家でお話するのも良いけど、それじゃいつでも出来ちゃうし、ぱーっと、ではないよねぇ」
「それに、闇はゴールデンウィークで浮かれてる所を狙って襲って来るかもしれないわ。油断して遊んで怪我をしたら、檸檬と蜜柑はもっと落ち込むと思うわ。それこそ本末転倒よ」
「そうだよねえ。闇もゴールデンウィークくらい遊べば良いのにね」
そうだよ、闇だって元は普通の人間だったんでしょ? 家族で旅行とか、すれば良いのに!
「そうもいかないんじゃない。私達を殺すのに必死なんだから。」
「あーもー! 私そんなに恨まれるような事したかなぁ!?」
全っ然心当たりないんですけど。
「分からないわ。人ってこっちが思いもしない事で傷付いたりするもの。実際、朱が私を恨んでたなんて、全然気付かなかったもの」
自嘲気味に笑うくーちゃんを見て、私は何も言えなくなった。
「……そっか」
私も、知らず知らずのうちに、誰かを傷付けてたんだ。
もし可能ならば、謝りたいな。もうあんな怖い思いはしなくないけど、あの子が誰なのか分かったら、直接ちゃんと謝りたい。
謝っても許してもらえなくても。
殺されたって構わないから、くーちゃん、教えてくれないかなぁ。
「……だめだめっ」
私が死んだりしたら、檸檬ちゃんや蜜柑ちゃんを守れないよ。くーちゃん1人に任せる訳にはいかないし、私情で迷惑なんか掛けちゃ駄目だよね。
でもやっぱり、あの子が誰なのか、知りたいな。




