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魔法少女mirai✡7 【⚠修正前】  作者: 千歳もも
✡第3幕 _黄色と橙色の光
31/39

*episode.28 迫る闇

 


 ✡



「……何なんだよ。」

 項垂れた檸檬ちゃんの口から、そんな言葉が出てきた。

 顔は見えないけど、きっと何も考えられないって顔をしてると思う。

 そりゃそうだよね、いきなりあんな場面に出会して、夢だと思ってた事が実は現実で、そして1番会いたくなかった人に遭遇して、それから――

「まさか檸檬が闇になっちゃうなんてね。」

 壁に寄り掛かって腕を組んだくーちゃんが、ぽつりと呟いた。

「だから何なんだよ闇って!!」

 檸檬ちゃんが叫ぶ。

「落ち着いて。ね、檸檬」

 そんな檸檬ちゃんの背中を擦りながら、優しく声を掛ける蜜柑ちゃん。その顔はとても窶れていて、本当はどんな言葉を掛けたら良いのか分からないみたいだった。

 そうだよね、私だって分からないもん。


 どうしてまだ変身もしてない檸檬ちゃんが闇になっちゃったのか、どうして闇になったのに暴走してないのか、どうしたら元に戻れるのか。

 わたしと同じで、まだ完全には闇に染まってないって事? もしそうだとしても、安心なんかしてられない。こんな小さな闇でも、私達にとっては重大なものだもん。


「檸檬、林檎と苺とやらと出会した時、何か感じなかったか?」

 頭を抱える檸檬ちゃんに、妖精さんが質問した。

「……分からない」

 檸檬ちゃんは辛そうに言った。

「そんなはずないんだよ、もう少しちゃんと思い出してみろッ!」

 妖精さんが怒鳴る。

「ちょっとあなた、檸檬が今どんな気持ちでいるかも察せられないの!?」

 くーちゃんは檸檬ちゃんから妖精さんを引き離して、妖精さんの背中を摘みながら怒った。

 険悪なムードの中で、蜜柑ちゃんだけは優しい顔で檸檬ちゃんにそっと寄り添ってあげていた。きっと自分だって不安なはずなのに、「大丈夫だよ」って声を掛けてあげてるんだ。

 きっと双子だから、檸檬ちゃんの気持ちが分かるんだ。


 檸檬ちゃんが闇に染まったって分かった途端、黄色の闇と橙色の闇は、嬉しそうに笑いながら消えてしまった。最後にこんな台詞を残して。

『檸檬ちゃん、あんたがしっかりしないと、蜜柑ちゃんも酷い目に遭うよ。』

 何でそんな事を言ったのかは分からないけど、絶対に裏があるはずだ。助言として言ったとは到底思えないし――謎が深まるばっかりだ。

 その後放心状態の檸檬ちゃんと蜜柑ちゃんを、くーちゃんと一緒に運んできて、私達は妖精さんに一連の流れを簡単に説明したんだ。

 こんなに小さいのに日本語を話す妖精さんを目の前にしても、2人はぴくりともしない。私もくーちゃんもあんなに驚いたのに、この2人は当然のように妖精さんと話せているんだ。


「おい、さっさと言えっての! 紅ッ、手を話せ!」

「やめなさい、無理矢理訊く事じゃないわ!」

 くーちゃんと妖精さんが戦っている間に、すっと手が入ってきた。

「れ、檸檬」

 その手は檸檬ちゃんのものだった。下を向いたまま、腕だけを前に突き出している。

「もういい。お前みたいな奴に昔の事を話すつもりなんてさらさらないけど、林檎と苺に会った時、私はアイツらを殺したいと思った。絶対殺すって思った。」

 檸檬ちゃんの声だけが部屋の中に響く。

「ただ、それだけ。」

 ……静寂。私も、くーちゃんも、妖精さんも、檸檬ちゃんを凝視して固まってしまった。

 ただ、蜜柑ちゃんだけは、困ったような悲しそうな顔で俯いてしまった。


 長い長い静寂の末に、妖精さんが1番最初に口を開いた。

「何がそれだけだよッ!! てめェは1ッ番やったらマズい事やってんだよッ!!」

 林檎みたいに顔を真っ赤にしながら、妖精さんは檸檬ちゃんに飛び掛った。

「人を恨むなんて1番やっちゃいけねぇ事なんだよ!

 そりゃ光を恨む奴が闇になるんだから、他人を恨んだお前だって――」

「他人を恨んでる人間なんてそこら中に居るだろ。何で私なんだよ。人を恨むってそんなにいけないことなのかよ」

 開いた上唇と下唇の隙間から、弱々しい声が漏れた。

「それはお前が光だからで、アイツらが闇になったのは光を恨んだからで――」

「だから何で私なんだって言ってんだよ!!

 何で私と蜜柑が! 今まで以上にもっともっと苦しめって言うのかよ!」

「あァそうだよ、そういう運命なんだから仕方ないだろ!!」

「何だよ運命って気持ち悪い!!」

 ガタンと音を立てて立ち上がった檸檬ちゃんが、妖精さんの胴体を掴む。

「今すぐ捻り潰してやる……!」

 ぐぐっと手に力を込める檸檬ちゃんの身体は震えていて、その目にも涙がじんわりと滲んでいた。


 妖精さんは何とか脱出しようと、全身を捻ったり伸ばしたりしながら暴れているけど、檸檬ちゃんは1ミリの隙間もなく、妖精さんをしっかりと握っている。

「そろそろ離せ……し、死ぬッ」

 妖精さんが苦しそうにもがく。だけど檸檬ちゃんは離そうとしない。むしろもっと力を込めてる気がする。

「や、やめて檸檬、その子死んじゃうわ!」

 蜜柑ちゃんが慌てて止めに入る。

「知るかよ! コイツ人間じゃねぇだろ。死んだってどうでもいいし、とにかく私はコイツが嫌いなんだよ!!」

 まるで――教室みたいだ。

 檸檬ちゃんは、教室で嘘の喧嘩をしていた時と同じ顔をしている。ぐしゃぐしゃで怖いけど、少しだけ悲しそうな、そんな顔。


「もう嫌だ! 何で私達がこんな目に遭わなきゃいけないんだよ────!!」

 檸檬ちゃんは涙を撒き散らしながら泣き叫んだ。くーちゃんと蜜柑ちゃんが2人がかりで妖精さんを助け出して、羽交い締めにして檸檬ちゃんを止めようとしている。


 私も止めなきゃ。そう思ったけど、何故か身体が動かなかった。

 目の前で、まるで欲しいおもちゃを買ってもらえない子供みたいに泣き叫んで暴れてる檸檬ちゃんが、真っ黒に見えたんだ。

「……檸檬ちゃん」

 その声も、檸檬ちゃんの叫び声に掻き消されてしまった。



「……桃音」

 くーちゃんのあったかい手に、涙が出てきた。

「大丈夫。きっと、大丈夫だから」

 何でそんな事を言ったの、って訊こうと思ったけど、やめた。

 きっと、私が嘘を吐いた事を悔やんでる事が、くーちゃんには分かっちゃったんだ。

「……どうしようもないわ。私だってあんな気分だったもの。」

 くーちゃんは切れ長の目を伏せて、悲しそうに呟いた。

 そっか。くーちゃんも、今まで私じゃ考えられないくらい、苦しかったんだ。それを表に出さないのは、――闇が妹で、くーちゃんがお姉さんだからなのかもしれない。


「あなたも、人の事ばっかりじゃなくて、自分の事も気にかけなさいよ。」

 くーちゃんは優しい声でそう言ってくれた。

 そうだ、私だって人の事ばっかり心配してる場合じゃないんだ。私にだって闇が――あるんだから。



 ✡



「え、精神科?」

 私は思わず素っ頓狂な声を上げてしまった。

「しっ、声が大きいわよ」

 すぐさまくーちゃんに口を塞がれる。

むぐご(ごめん)……」

「もし他のクラスメイトにバレたらどうするのよ!? きっと檸檬を質問攻めにするに違いないわ。」

「そうだよね、もしかしたらそれが原因でいじめとかに……」

 この大変な状況でまた問題が増えるのはごめんだ。

 だけど、どうして精神科に行く事になったんだろう。

「闇って心の問題なんでしょ。だから元に戻すには心のケアが必要だと思ったの。もちろんあなたもよ、桃音」

「わ、分かってるよ……」


 そうだ、私だって檸檬ちゃんと同じだよね。ミラクルキーも向こう側が見えないくらい曇っちゃってる。

 だけど私には精神的な異常はないと思うんだよね。今は特に悩みとかもないし。

 確かに過去には嫌な思いをしたりした事はあったけど、それが今出てくるだなんて考えられない。それに、恨んでるって人も居ないと思う。

「うーん、うーん……」

 頭を抱えて悩み込んだ。

「あんまり深く考え過ぎないようにしましょ。」

 くーちゃんはさらりとそう言って、自分の席に戻っていった。


 あんまり深く考え過ぎないように、か……。

 何か、余計気になっちゃうよ。

 お願いします、神様。

 もうこれ以上の災難は、しばらく来ないようにしてください――


 私はそっと、そう祈った。

 

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