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魔法少女mirai✡7 【⚠修正前】  作者: 千歳もも
✡第1幕 _桃色の光
3/39

*episode.2 光の戦士

 

「驚くのも仕方ないな。お前は昨日までは普通の人間だったんだからな。」

 妖精さんは腕を組みながらちょこんと座る。

「それなら、産まれたときから人間じゃなかったわけじゃないよね?」

「いや、違うんだよ。お前は産まれた瞬間から、人並み外れた能力を秘めてたんだ。分かりやすく言うとな、お前の中でずっと眠り続けていた力が今日目覚めたってことだ」

「うーん、分かったような、よく分からないような……」

 実際のところかなり分かんない。どうして私の中に変な力があったんだろう。

「それはお前に光が堕ちたからだ。光の説明は後でするが……。」

「う、うん。とりあえず、私は今までと同じ風には生きていけないってことかな?」

「まあ……そうだな。命を落とす可能性もある」

 え、うそ?

 命を?

「嘘を吐いて何になる。とにかく、お前が頑張らなきゃ地球はいずれ破滅する。今もじわじわと蝕まれている状態だ。」

「そんな、私1人で地球の運命を背負えって言うの?」

 そんなの無理だよ、もし地球を守れなかったら罪悪感で死んじゃうよ。あ、その前に私もろとも消えちゃうか……。


「馬鹿かお前は。お前1人で何が出来ると思ってる。

 お前の他にもあと6つの光が存在するんだ」

「光……?」

「そうだ。光は地球を守る能力のことで、その力が宿った戦士がお前なんだ。光は全部で7つある。その光の1つがお前に墜ちたんだ。他の光達もどこかしらにいる人間に墜ちただろうな」

「『だろうな』って、何か曖昧じゃない?

 とりあえず私がヤバいってことだけは分かったよ。でも他にも仲間が居るなら良かった♪」

 協力して一緒に戦えば、きっと勝てるよね!

「甘えるな。他の光達がお前のようにすぐ受け入れるとは限らない」

「能力は嫌でも受け入れなきゃ駄目でしょ?」

「そうじゃない、お前を仲間として受け入れないってことだ。

 何より、まだ目覚めていない光が5つもある」

「じゃあ、既に1人は目覚めてるってこと? それならその人と会ってみたいな!」

「……あぁ、そうだな」

 妖精さんは俯きながら言った。何だか元気がないように見える。

「どうかした?」

「あ、あぁ。気にするな。

 そうだな、仲間になれるといいな」

「うん。」


 妖精さんも光も何なのかよく分からないし、私はこれからどうしたらいいんだろう。どうするべきなのか、誰かが知ってるのなら訊きたいよ。

 不安が募る胸をぎゅうっと握り締めた。


「ねぇ、とりあえず元の姿に戻った方が良くない?」

 ワンピースを触りながら訊ねてみる。着慣れないパニエが擽ったくて、初めて履いたブーツも違和感があるんだ。何だか重たいんだよね……。

「そうだな。ミラクルキーはどこへやった?

「みくらるりー?」

「ミラクルキーだッ!全く、耳遠すぎだよ年寄りかッ」

「何よ、馬鹿にしてるでしょ~」

 失礼だなぁ、全く。

「それより、ミラクルキー……? って何?」

「変身と変身解除、魔法を使うときに必要な鍵のことだ」

「鍵……」

 あ、変身した時に握っていた小さな金属の鍵のことかな。

 確か女の子から逃げた時に、ワンピースのポケットに入れたはずだよね。

「これのこと?」

 ポケットから小さな金属の鍵を取り出す。相変わらずかなりの重さがあった。


「ミラクルキーはお前の光の結晶なんだ。光が落ちて身体の中で眠り続けていたお前にとって、光は生命いのちと同化している。言わば命そのものだ。もしミラクルキーが壊れたりしたら、お前は死ぬ」

「えっ……」

 衝撃の事実に、私の体は一気に硬直した。だってだって、こんなちっちゃい鍵が命なんだよ!? 普通に雑貨屋さんで売ってそうな魔女っ子アイテムが……!

 あ、でも、命そのものだってことには少しだけ納得かなぁ。小さくて壊れやすいのに、重くて大切なもの。それって命も同じだよね。


「もしミラクルキーが闇に染まったりしたら、お前も平常心を失い地球を破壊するために暴走する。さっきのあいつのようにな」

「嫌だよそんなの!」

 大切な家族や友達を殺しちゃうかもしれないのに。

「嫌だっつってもな。これがなければ魔法も使えないし、変身も出来ない」

「魔法……?」

「ああ。光は魔法を使って敵を怯ませるんだ。攻撃も防御も出来る」

「防御って必要あるの?避ければいいんじゃ……」

「甘く見るな。アイツら――闇も光と同様魔法が使えるんだ。しかもお前より遥かに力も強い。

 もし諸に当たったりしたらただでは済まされない」

やっぱり死ぬ確率急上昇……?

「ミラクルキーは生命が形になってしまったものだ。とにかく無くしたり傷付けたりしないようにな。

 あとは肌身離さず持ち歩くこと。」

「えぇ、それじゃ落としたりしちゃいそうだよ……。

 それにやっぱり、私1人じゃ無理だよ」


 思わず弱音を吐いてしまう。まだ中学生になったばっかりの私が、地球を守るために命を懸けるなんて。私にはとても受け入れられないよ。

  

「やっぱりまだ不安もあるだろうな。いきなりあんな恐ろしい相手と戦えって言われたんだからな。」

 妖精さんは腕を組みながら呟いた。私の気持ち、ちょっとは分かってくれてるんだね。

「せめて他の光達が目覚めていれば、援助してもらうことも出来たんだがな」

 妖精さんはうんうん唸りながらそう言ったけど、もう既に1人は目覚めてるんじゃ……?


「アイツは無理だッ!!」

 妖精さんは顔を上げてキッと私を睨み付けた。

「急に大声出さないでよ!? びっくりしたぁ……」

「あいつは無理だ。他の光が見付かるまで辛抱しろ」

 妖精さんは表情を暗くして、私に背を向けた。

 何だかその背中がとても悲しそうに見えた。

 何でそんなに怒るの? 何があったの?

「別に……何も無いよ」

 低い声で返されて、答える気がないことが分かった。

 だけど、何もないようには見えないよ。

 話したくないことくらい妖精さんにもあるのかな。誰にだってあるか、それくらい。

 自分の心境と重ねて納得する。

 脳裏に焼き付く、一生忘れることのない感情が蘇ってくる。それを必死にかき消して、妖精さんに問い掛ける。


「もし私が死んじゃったらどうなるの?」

「存在と共に消える。誰の記憶にも残らない」

 予想外の答えが突き付けられた。お母さんや友達の記憶からも抹消されてしまうってこと?

 悲しすぎるよ、そんなの!

「アニメみたいに変身解いたら怪我が無くなってるってシステムは無いの?

「そんなのない。あれは作り話、これは現実。そんな都合良いことあったら苦労しないよ」

 魔法少女って、予想以上に大変なんだ……!


 小さな希望もあえなく断ち切られ、がっくりと肩を落とした。現実は相当厳しいみたいだね。

「命を掛けてでもこの地球を守りたいって意思がないと戦えないんだ。」

 ……それって、私に少しでもそういう気持ちがあったから、私に光が落ちたのかな?

「そうかも知れないな」

 妖精さんが呟いたその時、溶け込むようにゆっくりと世界に色が戻っていった。



 ✡



 すっかり夜が更けた午後8時。

 私は魂が抜けたように静かになってしまった。

 お母さんは憧れだった青空学園の話をたくさん聞かされると思っていたみたいだけど、今の私にはそんな気力ないよ。


 だって私、人間じゃないんだもん。

 お母さんが一生懸命苦労して産んでくれて、ここまで育ててくれたのに、人間じゃなくなっちゃったんだもん。

 今でも信じたくないもん。私が魔法少女だなんてさ。

 お母さんとはほとんど口をきかず、夕飯の半分も食べないまま、自室に戻った。


 部屋の電気を点ける。窓の外は真っ暗で、何だか少し寂しい気持ちになった。

 とりあえず日記は書いておこうかな。

 8年間毎日欠かさず書いていた日記帳を、鍵付きの引き出しから取り出す。


「……憧れの青空学園に無事入学出来たのは嬉しかったけど、今日は驚くことがたくさんありました。私は人間ではなくて、実は地球の危機を救う正義の味方だったらしくて――って」

 慌てて日記帳を放り投げる。

「こんなのもしお母さんに見られたら頭おかしいと思われるよ! 後で読んだら黒歴史になりそうだし……」

 いや、私が正義の味方なのは本当のことなんだけど。

 とりあえず、光に関する部分だけ消して、青空学園に入学出来て良かったってところだけ書いておこうかな。


 日記帳を引き出しに戻してしっかり鍵を閉める。

 椅子に凭れて伸びをする。凝り固まった体がぽきぽきと音を立てる。

 こりゃ重症だよ。

「お疲れさん。それにしても、いつもは意地でも全部食べるお前が飯を残すなんて珍しいな」

 妖精さんが皮肉っぽく笑いながら言った。

「んー。うるさいなぁ、今日は入学式とか色々あってへとへとなの――ってえええええ!?」

 私はズザザザッと凄まじい音を立てながら床に転がり落ちた。

「何してんだよ」

「いいいいま、いつもって……」

「本当のことだろ」

「そうじゃなくてっ、どうして今までのこと知ってるの!?」

 怖いよ、今日会ったばっかりじゃない!

「妖精の能力じゃないか?私にもよく分からないが、多分同じ光には分かるんだろ」

「同じ光?」


 光って、さっき言ってた光だよね?

 妖精さんも光ってことなのかな?

「お前のことなら何でも知ってるぞ」

 妖精さんがにやりと笑う。

「うっそ、もしかして今までずっと……!?」

 ストーカーのように物陰で私を見詰める妖精さんの姿が目に浮かぶ。

「何かシュールだね」

「んなわけないだろ、見てなくても伝わってくるんだから」

 あっさり否定されちゃった。

「そ、そっか」

 納得した素振りを見せつつ、なかなか理解出来ない。私の頭の中で何かが引っ掛かっているんだ。

 あれ、そうだ。

「……ねえ、どうして私には妖精さんの考えてることが分からないの?」

 妖精さんにだけ私のことが分かるって、何かズルいよ。


「それは妖精にしかない能力だからな。仕方ないよ」

「難しいね、光って。」

 今日の朝までは普通の人間として普通に生きてきたのに、一瞬で生きる世界が変わってしまったみたいだ。

 これからどうなっちゃうんだろう、私。


 不安に駆られながらも、酷く窶れて弛み切った精神と体を何とか奮い立たせて、タンスから寝間着を取り出す。

「ん、風呂か」

「……言っとくけど、覗かないでよね」

 同じ光とは言え、やっぱり他人に私のでぶぷよなお腹を見られるのには抵抗があるからね。

「馬鹿かよ。わざわざそんな面倒なことしねぇよ。

 ミラクルキーはちゃんと持っていけよ。もし何かあったらワタシが結界を張るから、辺りが桃色になったらすぐに変身して外へ出ろ。いいな」

「分かったよ。じゃあね」

 机の上に置いておいたミラクルキーを取って、部屋のドアを閉めて浴室に向かった。



「ぷはぁ、気持ちぃ~」

 沁みるほど熱い浴槽に浸かり、ついつい溜め息が出ちゃう。

 ……妖精さんに伝わっちゃうかもしれないけど、弱音くらい吐いてもいいよね?


 何だか、いきなり過ぎて疲れちゃったよ。

 魔法少女なら、怪我が治ったり仲間がすぐに出来たりしないのかなぁ。そんなシステムがあれば、少しは心の負担も減ったような気がするなぁ。

 疲れちゃった、誰か代わってくれないかな。

 私になんて無理だよ、どうして私なの?



「ただいま。」

 少し憂鬱な気分で部屋に戻る。

 タオルで長い髪を擦ってから、棚の上にあるドライヤーを手に取る。

 すると、ベッドの上で妖精さんが不機嫌そうに座っていた。

「どうしたの?」

「お前、誰かに代わって欲しいとかほざいてただろ」

 林檎みたいに顔を真っ赤にしながら、妖精さんが私の頭の周りを飛び回る。

「仕方ないじゃん、私まだ子供だし!」

「光が関係ない奴を危険に晒すようなこと言うなよ!?」

 何さ、私の弱音も許してくれないわけ? 無理にでも辛い気持ちをなかったことにして強くなれってことなの?

 何それ、何それ。えーい、わざと反抗的な態度取ってやれ!


「私だっていつでもポジティブなわけじゃないんだよーだ。

 私と同じ光なら、私の気持ちも少しくらい解ってよね」

「……充分解ってんだよ」

 妖精さんは低い声で答える。

 ……あれ、「なんだとーっ」って反撃してくると思った。


「充分伝わってんだよ。お前今すごい辛いんだろ。ワタシだってどうにか出来るならお前を普通の人間にしてやりたいよ。」

 妖精さんはわなわなと震えながら、ゆっくりとベッドに着地する。

 あぁ、そっか。きっと痛いほど私の気持ちが伝わってきてしまうんだ。

 知りたくなくても。私の心の声も全部。

「ごめんなさい。私のこと何でも知ってるって、ちょっと嫌だよね」

「何でもなんてことはないよ。お前の記憶に、一部だけ見えない部分があるしな…」

「見えない部分? そんなところあるの?」

「あぁ。小学6年生――去年の記憶が全く見えない」


 え?

 去年の……?

 妖精さんの言葉に、心臓が大きく飛び跳ねた。

「き、去年……」

 思わず口に出てしまう。

「何か心当たりでもあるのか?」

「そっ、そんなの全然ないよ、勉強たくさんしてただけだし、もしかしたら勉強に必死で何も覚えてないのかもっ」

 妖精さんに察されないように、必死に取り繕いながら、私はわざとドライヤーのスイッチを入れた。

 ゴォオオ、と低い音が、何かを言っている妖精さんの声をかき消す。


 いいんだよ、これで。何も言うつもりなんかないから。

 髪なんて濡れたままでもいいや、今日はもう寝よう。

「桃――」

「おやすみ、疲れたから寝るね。妖精さんも休んでね」

 私はにっこりと笑顔を顔に貼り付けて、ベッドに潜り込んだ。

 頭まで布団を被って、冴えた目を無理矢理閉じる。妖精さんに何かを言わせる隙も与えずに。


 まさか、あのことを知らないなんて。

 忘れるわけないよ、人生で最悪の1年だったんだもん。

 それを知らないなんて、そんなの私と同じなんて言えないよ。

 それとも、妖精さんは気付かないふりを?

 ううん、私には分からないよ。だって記憶や感情は、――私から妖精さんに伝わるだけで、私には妖精さんの記憶も思考も分からない――一方通行なんだもん。

 

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