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魔法少女mirai✡7 【⚠修正前】  作者: 千歳もも
✡第3幕 _黄色と橙色の光
24/39

*episode.21 本当の意思で

 


 ✡



 昨日の夜、妖精さんに黄色と橙色の妖精さんの声の事、浅黄姉妹が光の戦士なんじゃないかって事を話した。

 妖精さんは光の戦士だとは限らないけど、2人が光か闇である事は確かだろうって言ってた。

 もし闇だったら、仕方ないけど戦うしかない。

 でも、私には2人は光だって、何となく分かった。



 今日も早めに学校に行くと、教室には赤羽さんが居た。

 他のクラスメイトはまだ来ていない。

「おはよう、桜澤さん。昨日の夜、夢に黄色と橙色の妖精が出てきたわ。

 やっぱりあの2人が光なんじゃないかしら。」

 赤羽さんもそう言ってた。

 そうだよね。きっと、2人は闇なんかじゃないよね。



 ✡



 午前の授業の終業を告げるチャイムが鳴り、鳳先生が教室から出ていった。

 それを合図に、今まで静まり返っていた生徒達は、一斉に動き出すんだ。一気に騒然とする教室。やっぱりイマドキの中学生ってスゴいよね、全身からパワーが溢れてるって言うか。私も同い年だけど、どうしたらこんなに差が出るんだろうね。

 まぁ、それはもう分かり切った事なんだけどねっ。


「さーて、おっべんとおっべんとーっと」

 とか言いつつも、私もこの時間が1番大好きなんだけどね!

「ふふ、鼻唄なんて歌って……相当お腹空いてたのね。授業ちゃんと聞いてたの?」

 私と対面するように座った赤羽さんが、呆れたように溜め息を吐いた。

「いいじゃんいいじゃん!」

 授業よりお弁当。授業より睡眠!

 つまりは、まあ……寝てました。

「もうさ、日頃の疲れが溜まっててね……。何時間寝ても、次の疲れがどんどん襲来してきてさぁ」

 同じ光の戦士である赤羽さんには、こんな愚痴も気軽に言えるんだ。説教されるのを除いては最高の相談相手なんだよね。


「夜はちゃんと寝てるの?」

「うん、昨日は8時半には寝たよ」

「それで何時に起きたのよ?」

「んーとね、6時くらいかな」

「たっぷり10時間も寝てるんじゃない……逆にそれでよく眠れるわね」

 なんて赤羽さんは目を真ん丸にして言うけど、

「10時間じゃ全然足りないよ!? だってそれくらい疲れてるんだからね!?

 それにさ、こんな春のぽかぽか陽気に、先生の子守唄みたいな声聞いてるとさ、睡魔がふわってこう、ね……」

 とか言ってるうちに、再び睡魔が襲ってきた。

 眠い。とても眠い。

「最早何を言ってるのか分からないんだけど……」

 赤羽さんは呆れながらお弁当箱の風呂敷を畳んでいた。

「ひっどいなぁ、赤羽さんって結構毒舌だよね!?」

「桜澤さんの能天気には着いていけないわ」

「私が馬鹿だって言いたいの? まあいいや、誉め言葉として受け取っておくね。」

 何か、赤羽さんとこうやって気軽に喋れるのって、やっぱり楽しいな。友達以上に秘密を共有した仲なんだもん。

 だけど、ただ仲良くするだけじゃ駄目だ。また闇が襲ってきた時には、協力していかないとマズい。


 光の戦士だって共通点がなかったら、私達には何の接点もなかったから、一緒の教室で過ごしてたとしても、話す機会なんて全くなかったんだろうなぁ。

 そう考えると、私の中に堕ちたこの力にも、ちょっとは好感持てるかな。


 ま、今はそんな事よりお弁当だよね。

「いっただっきまーす!」

 私はお母さんの力作の、お花畑みたいにカラフルなお弁当に箸を運んだ。

「そういえば、いつも一緒に食べてるあの子……城田さんはいいの?」

 風呂敷を畳み終わった赤羽さんが、気まずそうに訊いてきた。

 あれ、そう言われてみれば、雪帆ちゃんはどこに行ったんだろう? いつもなら真っ先に私の所に来るのに。

 ……そう言えば雪帆ちゃん、1時間目は授業に出てたよね。でも、4時間目には居なかったような――

 あれ、いつの間に居なくなったんだろう?


 私がうんうん唸っている一方。

「今日のお昼は力作だったわ」

 赤羽さんが、ふふふと笑いながらお弁当箱を開けた。力作と聞いて、私もそのお弁当箱の中身を覗き込んだ。

「赤羽さんのお弁当……なに?」

 とても変――いやいや、個性的なお弁当。

 何て言うのかな、言葉じゃちょっと表現しにくい感じ。

 決して食べ物に見えないとか、美味しくなさそうとかじゃないんだけど、詰め方とかおかずの組み合わせがユニークなんだ。

「何って、私が作ったのよ。」

「赤羽さんが……へ、へぇ」

 思わずそのお弁当箱をまじまじと見詰める。

「何かおかしい?」

「う、ううううん、全然変じゃないよう」

 慌てて手を振り回す。

 あぁ、なんて幸せな時なんだろう。これでここのところの疲れも一気に吹き飛ぶよ――


「ぷふっ、桃音ってば明らかな棒読み止めなって〜」

「それよりそれより、いつの間に赤羽さんと仲良くなったの?」

「そうだよ、最近まであんなに頑固で根暗だった赤羽さんがこんなに楽しそうに笑うなんてびっくりだよね!」

 近くでお弁当を食べていた3人組が、私と赤羽さんの会話に割り込んできた。

 割り込むなんて言い方は良くないと思うけど、それ以外に当てはまる言葉が見付からないほど強引だったんだ。

 この3人組は、常日頃から誰かの悪口と悪い噂ばっかり言っている。クラスの中でもこの子達に逆らえる子は居なくて、既に結構ボスっぽい立ち位置に居るんだよね。

 所謂「権力者」ってやつ。

 だからって、赤羽さんを根暗だなんて言うのは駄目だよ。その事で赤羽さんはずっと悩んでたんだから。


「ね、ねぇちょっ――」

「ねえ、そういう言い方もう止めれば?」

 私が口を開くと同時に、背後から別の声が聞こえた。呆れ返って、やれやれって感じの、怠そうな声だった。

「は?」

「あんたには関係ないでしょ? 何割り込んできてんだよ」

「正義のヒロイン気取り? だっさ」

「関係無いのはあんたらも一緒でしょ? 何で桜澤さんと赤羽さんの会話に、そうやって嫌味ったらしく口出ししてんの?」

 すぐに分かった。

 振り返って見ると、案の定、浅黄檸檬さんだった。

 腕を組んで、3人組と睨み合っている。

「転校生のあんたに偉そうに言われる筋合いはないんだけど。」

「何偉そうに説教してんの、ムカつく」

「はっきり言うけどさ、このクラスみんなあんたらの事嫌いだからね? 嫌われてるって言う自覚持ちなよ」

 3人はきゃはははははと甲高い笑い声を上げながら、浅黄檸檬さんの悪口をつらつらと並べる。ところどころ浅黄蜜柑さんを侮辱する声も聞こえてきた。

 クラスメイト達も、彼女達が怖いのか、何も言わずに黙って座っている。

 教室の空気は、凍り付いてしまった。

 あぁああ、せっかく浅黄姉妹が大人しくしてくれてたって言うのに!!


「だからさ、もう大人しくしてな――」

 3人組の1人が言葉を止め、呆然と立ち尽くしてしまった。

「な、なっ……」

 それもそのはず。浅黄檸檬さんと3人組の間に、浅黄檸檬さんと仲が悪かった(演技だけど)はずの浅黄蜜柑さんが割り込んだんだから。

 私や赤羽さんや他のクラスメイトも、その光景に目を疑った。

「なっ、……あんたは引っ込んでなよ!」

「邪魔なんだけど。妹と仲悪いくせに。こんな時だけ庇うん?」

「大体あんたにもイラついてたんだよね。教室で喧嘩とか下らなすぎて笑えないから。」

 3人は浅黄蜜柑さんに近付いて腕を組んだ。

 昨日の弱々しい浅黄蜜柑さんのイメージがこびり付いていた私は、思わず声を上げそうになった。

 そうになっただけで、実際に声は出なかった。


「そうやって群がらないと何も出来ないくせに。1人じゃ何も出来ないくせに、下らないのはどっち?」

 浅黄蜜柑さんは静かに吐き捨てた。3人組を強く睨んだその瞳には、明らかに敵意があった。3人を見据える目は、普段の穏やかな彼女の目からは想像もつかないくらいに釣り上がっている。

 ど、どうしよう……。

 この状況、かなりヤバくない?

「っ……!!

 自分がぼっちだからって八つ当たりしないでくれない!?」

 3人組の1人が、右手を振り上げて浅黄蜜柑さんに殴り掛かった。

 かろうじて避けるも、浅黄檸檬さんは尻もちををついてしまう。


 教室内は騒然とし、ほとんどの生徒は教師を呼びにか、その場から離れたいだけか、教室から出ていった。

「止めなよ、先生に怒られるって……」

「教師なんてどうでもいいじゃん! 何ビビってんの!?」

 その子は他の2人に止められるも、全く止める気はなさそうだ。

「1発殴らねぇと気が済まないんだよっ!」

「や、やめっ――」

 私が止めに入ろうと立ち上がったその時だった。

 私より早く、私の目の前を何かが通りすぎて、その後にごつんと鈍い音が聞こえたんだ。


「え……」

 殴った子が、驚いたように飛び退いた。

 驚いたのは彼女だけじゃなくて、その場に居合わせた全員が驚愕して固まってしまった。もちろん私も。

 浅黄蜜柑さんが殴られる寸前に割り込んで、彼女を庇って殴られた浅黄檸檬さんは、真っ赤に腫れた頬を押さえながら、殴りかかってきた子を見据えた。

 真顔――怒りのあまり無表情になってるって言うより、何が起こったか分からないって感じの、きょとんとした表情で、3人組を見ている。

 いや、違う。本当に本当に、怒ってるんだ。

 殴った子はただならぬ様子の浅黄檸檬さんに怯えているみたいで、浅黄檸檬さんから視線を逸らしている。流石にこれは激怒するよね……。

「な、何だよあんたっ!」

「何だよって、あんたが自分で勝手に殴ったんでしょ」

 平然と答える浅黄檸檬さんは、不気味以外の何でもなかった。

 ひぃい、今から教室が爆発するかもしれない……。

「だから何であんたが割り込んでくるの――」

「蜜柑が殴られたら、私が何するか分かんないから。

 流石に人を殺すのは気が引けるの。お前みたいな奴に私の人生滅茶苦茶にされたくない、それだけ。」

 浅黄檸檬さんはけろりとしていた。特に痛みは感じないみたいだけど、真っ赤に腫れ上がった頬はかなり痛そう。

 それに今、殺すって……!?


「檸檬、ごめんね……大丈夫?」

 床に倒れ込んでいた浅黄蜜柑さんが慌てて立ち上がり、浅黄檸檬さんの手を握った。その手は震えていて、今にも3人を殴ってしまいそうだった。

「大丈夫大丈夫、あんな奴ら殴る価値もないから。」

 強烈な一言に、3人組は何も言えずに呆然としてしまった。

「……あんた達も怪我してない?」

 浅黄檸檬さんは私や赤羽さんの事も心配してくれていたみたいで、声を掛けてくれた。……昨日の事で気付いてたけど、やっぱり本当は2人は仲が悪くなんかなくて、本当は人に迷惑を掛けるような事はしたくないんだと思う。3人組に注意してくれたのだって、きっとみんなを遠ざけるための演技なんかじゃない。私達を助けようとしてくれてたんだ。

「えっ……ええ、平気よ。おかげさまで」

 赤羽さんは戸惑いつつも、優しく微笑んだ。

「お前も。」

 ぼーっとしながら、そんな浅黄檸檬さんを見詰めていると、ばしっと腰を叩かれる。……軽めに叩いたつもりなんだろうけど、すごく痛かった。

「う、うん、大丈夫。

 注意してくれてありがとね。浅黄さんって強いんだね。」

「強くなんかない。私が見てて不快だったから言っただけ。私はお節介が出来るほど器用でもないし、優しくもないから。」

「でも嬉しかった、ありがとう」

 私が笑いかけると、浅黄檸檬さんは殴られてない方の頬をちょっとだけ赤くした。



「何やってんのあんた達!」

 その時、教室の扉が蹴破られ、鳳先生と数人の生徒が駆け込んできた。

「あんな小さな事で喧嘩なんて……お前達はもう小学生じゃないんだよ、いつまでも甘えるんじゃないよ!」

 入るなり早々お説教されて、3人組は不満そうに溜め息を吐いた。

 せっかくひと段落ついてたところを……って思ってしまった。

「話は聞いてる。浅黄、そうやって何でもかんでも他人事に口を出すからトラブルになるんだよ――」

「浅黄さん達は悪くないですよ」

 私の声に遮られた鳳先生が、不快そうに私を見下ろしてきた。

 はっ、いけない。思わず口が勝手に……。

「桜澤は黙って――」

「桜澤さんの言う事は正しいですよ、先生」

 赤羽さんも口を開いた。

「あの子達がどういうふうに説明したのかは知りませんが、現場を見てもいないのに、そうやって浅黄さんだけが悪いみたいに辛く当たるのはおかしいんじゃないですか?」

 ちらっと傍観しているクラスメイトを見ながら淡々とそう言った。鳳先生を呼びに行った生徒達は、気まずそうに下を向いてしまった。

 何か気に触ったのか、浅黄檸檬さんは赤羽さんに向かって叫んだ。

「余計な事――」

「余計って何? 悪い事をしたわけじゃないのに怒られて腹立たないの?

 あなたは何も悪くないでしょ。むしろ普通の人なら出来ない事を、あなたは躊躇わずにやったのよ。どうしてそれで理不尽な事を言われなくちゃいけないのかしら?」

 赤羽さんはさらりと言った。

「お前……」

 浅黄檸檬さんは反論するのを止めて立ち尽くした。

 やっぱりかっこいいよ、赤羽さん。

「鳳先生、大事にしてしまってすみませんでした。これからは普段も大人しくしますから、檸檬を責めないで。」

 浅黄蜜柑さんも涙目で懇願していた。

「……分かった。でもそれでいいのか? お前達は……」


「あなた達はその場を盛り上げようとしただけなんでしょ?」

 赤羽さんが項垂れる3人組を見た。

「うん……」

「何でいきなり仲良くなってるのか気になって……」

「……だって。

 でも、あんな風に言われたら誰だって腹が立つし、何より傷付くわ。

 あなた達が、自分の事情を何も知らないような他人に、そういうふうになった原因も知らずに根暗だなんて言われたら、きっとキレて相手を殴ると思うわ。」

 赤羽さんは冷たい視線を浴びせながら、低い声でそう言ったんだ。

「赤羽……」

 鳳先生も浅黄姉妹から赤羽さんに視線を移した。

 先生も、赤羽さんが昔いじめられてた事、知ってるのかな。


 そうだよ、だって赤羽さんは、好きで1人で居たわけじゃないんだ。好きで友達作らなかったわけじゃない。

 本当は辛い思いいっぱいしてた。私もそれのほんの一部しか知らないけど、もっと早く気付いてあげられてたら。

 でもきっと、赤羽さんなら、

「何言ってるの、まだ出会って1ヶ月も経ってないんだから、むしろ早い方だと思うわ。解ろうとしてくれただけで本当に嬉しかったんだから。」

 って言うと思う。きっとそう言えるだけ、赤羽さんは強がるのが上手だ。


 その時、チャイムが鳴った。

「あれ、何のチャイム?」

 今ってお昼休み真っ只中だよね? 何で?

「何って、寝ぼけてるのか、桜澤」

「桜澤さん……お昼休みは終わりみたいよ……」

 赤羽さんが哀れみの目で私を見た。

「お昼休みお終わりって、私何も食べてないんだけと!」

「仕方ないじゃない、このクラス誰も食べられてないわよ」

 そんな~。

「先生、お昼休み延長してください……」

「だーめ、時間は時間なんだから」

「そんな~……」

 私はガクッと膝をついた。お昼ご飯が食べられなかったら、午後の授業はどうやって受ければいいのさ。集中力なんて湧かないだろうし、空腹で死んじゃうかも。

「今日は設備点検だから午後の授業はないわよ、桜澤さん」

 ……え?

「昨日言っただろ、桜澤……」

 え、何それ、知らないんだけど…。

「全く、お前は昨日爆睡してたからな。」

 うっ、バレてたのか……。

「とにかくお前達も片付けな。」

 鳳先生は、教室の入口で固まっていた生徒達や、教室の中で一部始終を傍観していた生徒達に声を掛けていった。



「なにあのおばさん。クラス全員の前で説教するとか有り得ないんだけど。」

「赤羽さんも浅黄さんも、何なの。かっこいい事言ってるつもりなのかな。私達だけ恥じかかせてさ」

「あ、私、赤羽さんが不良とつるんでる場所、知ってるんだけど――」

 3人組が、私達に聞こえないように声を潜めて、何かを企むように笑った。

 

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