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魔法少女mirai✡7 【⚠修正前】  作者: 千歳もも
✡第3幕 _黄色と橙色の光
23/39

*episode.20 知らない顔

 

 ふと頭に浮かんできた考えを、必死に振り払う。

 まさかね? だって、黄色と橙色の妖精さんは、2つの光はとても仲良しだって言ってたもん。浅黄姉妹はお世辞にも仲良しとは言えないし、このタイミングでここに来たって事は、2人は実は闇で、もうすぐ目覚める光を待ち構える気なんじゃないかな。

 雪帆ちゃん曰く、赤羽さんも東京から引っ越してきたらしいから、光か闇、どちらかの可能性はあると思うんだけだね。

 それに、さっき見た2人組の女の子が本当に浅黄姉妹なら、光なのかもしれないし。すごく仲が良い友達同士に見えたもん。

 でもそう考えると、学校で起こっているあの大喧嘩はどうなるんだ?

 うーん、いくら考えたって答えは出てこないよね。とりあえず浅黄姉妹を探してみよう。


 2階のフロアをうろうろしてみたけど、浅黄姉妹の姿は見付からない。

 やっぱりもう店内には居ないのかな?

「うーん……」

 仕方がない、シャーペンの芯を買って帰ろう。

 そして妖精さんに相談してみようかな。もしかしたら何か手掛かりを知ってるかもしれないしね。



 3階の文房具売り場に行って、シャーペンの芯を買った。

 さて帰ろうと思って、私は2階に降りてから、お財布を学生鞄に入れながら1階に降りるエスカレーターに乗り込んだ。

 ……つもりだった。

 教科書やらノートやらプリントやらでぎゅうぎゅう詰めの鞄にお財布が上手く収まらなくて、そっちに気を取られてて、ちゃんと足元を見ていなかったんだ。

 私は見事に足を踏み外して、エスカレーターに前のめりに倒れ込んだんだ。


「うっ………そぉおおおおおお!!」

 思わず叫んでしまった。

 だけど、これが叫ばずにいられると思う?

「びゃあああああああああああああああああああああああああああ──────!!」

 自分でもびっくりするくらい大きな声で、私は叫んだ。

 視界が二転三転する――って意味は違うけど、とにかくブレた写真みたいに、エスカレーターの黒だったり、天井の白だったりがコロコロと移り変わっていく。

「ひぅっ………ぐ、うぐ、いっ! たっ」

 ゴキゴキと鈍い音を立てながら、私はエスカレーターの角に全身を打ち付けていく。背中に角めり込んで、思わず涙目になる。

 体が止まって、やっと終わった……と思ったら、今度はスカートと髪の毛が隅に巻き込まれてしまっていた。

 しまった……って何冷静に説明してるんだ、このままじゃ死んじゃう。

「いてててて! いって、スカート破けちゃうっ!!」

 みっともない格好で情けない声を上げながら、必死にスカートを引っ張る。

 頭皮が痛い痛いと悲鳴を上げて、エスカレーターはガガガガと音を立てながら動いている。

「だ、誰かっ……」

 必死に助けを求める。

 でも、運悪く周りには誰も居ない……。

 何この状況、最悪なんだけど──!!

 

「うーん、う────ん!」

 頑張ってスカートを引っ張ってみるも、全然抜けない。むしろどんどん巻き込まれていってかなり危険な状態。

 このままじゃ大怪我に繋がり兼ねないよ……どうしよ~!


「……っちょっと、大丈夫か、あんた!!」

「えっ」

 私は思わず声を上げてしまった。

 気が付いたら、目の前に人が立っていたんだ。一瞬意識が飛んでいたみたいで、さっきより体がエスカレーターの脇に寄っていた。

「えっと、挟まれてて取れなくて……」

 涙目で頭皮を抑える。今は何より頭が痛いんだ。

「んなの見りゃ分かるだろ!

 良いから歯食い縛りな。」

「……え?」

 歯を食い縛る隙も与えられなかった。

 体に手が掛かったと思うと、ビリビリと音を立てながら制服が破れたんだ。

 あぁ、さらば私の初制服――


 数十本の髪の毛と制服を犠牲にしたものの、私は何とかエスカレーターから開放された。

 2階から私が落ちる姿を目撃した買い物客が、店員さんを呼んできてくれたみたいで、私は処置室に運ばれた。

 エスカレーターも使えなくなってしまって、私のドジのせいで人に迷惑を掛けてしまう結果になってしまった。

 あーっ、何て情けないんだ私!

 頭皮から少し血が出てたのと、制服が破れてたから、お薬と適当なスカートを買って、処置室から出た。


「……何とか助かったみてぇだな。」

 処置室の前に、私を助けてくれた人が立っていた。

 恥ずかしくて顔を上げられなかった。

「これからは気を付けろよな。もしあのエスカレーターに人が乗ってたらそいつも巻き添えになってたかもしれねぇんだからな。」

 その人は溜め息混じりにそう言った。

「はい、ありがとうございました」

 私は頭を下げてから、その人の顔を見た。


「……あ。」

「……え」

 私は目の前に立っている人を見た途端、目を見開いて飛び退いてしまった。……おっとっと、後ろは処置室なんだ、ぶつかったりしたら二の舞になってしまう。

 でも、リアクションの大きさは相手も同じで、思いっきり後方に飛んでいた。

「あっ……あっ……あ、浅黄さ――むぐ!」

 私は彼女の名前を叫びそうになったけど、何とか本人が口を塞いでくれた。……でも何で塞ぐんだろう、迷惑を考えたのかな。あの教室を荒らしまくった彼女が、そんな気遣いを?

 なんて失礼なことを思っちゃったけど、まさかねえ。

「ちょっと黙ってろよ、お前以外にクラスの奴はいるのか?」

 私の鼻先に、浅黄檸檬さんの鼻先がごつんと乱暴に当たる。

「ひいいいい、赤羽しゃんがぁああ」

 恐怖のあまり呂律が回らず、噛みまくりながら答える。

 目の前にある浅黄檸檬さんの目には、明らかな殺意が見えた。マスクをしているせいか、表情が読み取れなくてとにかく怖い。

 こ、殺されてしまうっ!


「赤羽紅って誰だよ」

「あ、赤羽さんは眼鏡で茶髪のボブカットの……」

「ちっ、あいつかよ……」

 舌打ちをしながら、私から顔を話す浅黄檸檬さん。

 ひいい、やっぱり怖い。

「あんた、よくあんなひねくれたやつと仲良く出来るよな。私には到底無理だよ」

 浅黄檸檬さんは肩を竦めて嘲笑った。

「何それ、どういうこと?」

 赤羽さんを侮辱されて、カチンときた。

「お前も災難だよなぁ、馴れ合いしてるんなら止めとけよ」

「何それ、浅黄さんに赤羽さんの何が分かるの!?」

 私は思わず叫んでしまった。

「赤羽さんは浅黄さんが思ってるような人じゃないよ。本当は優しくて思いやりもある人なんだよ。

 そうやって第一印象だけで人を決めつけないでよっ!」

 一生懸命説明したけど、浅黄檸檬さんは鼻で笑うだけだった。

「……居るよなぁ、こういう奴」

 浅黄檸檬さんは、また私に顔をずいっと押し付けてきた。

「私、お前みたいな奴、大────っ嫌いなんだよ」

 浅黄檸檬さんは、目を細めてそう叫んだ。

 私、本当の事を言っただけなのに。この子は、それでも平然としているんだ。

 本当に人の気持ちが分からないの、この子。


「赤羽さんのせいで恥かいたからって、浅黄さんの勝手な偏見を押し付けないでよ!

 お姉さんと上手くいかないのもその性格のせいだよ!!」

 怒りのあまり、浅黄檸檬さんのおでこを押し返す。

「……よく言うな、決め付けてんのはどっちだよ」

 強気で言い返されるかと思ったら、浅黄檸檬さんはわなわなと震えながら顔を上げた。

 その瞳には涙が溜まっていた。顔もぐしゃぐしゃで、唇を硬く噛み締めているのが、マスクの下からでも分かった。

「お前に私達の何が分かるんだよ!

 私と蜜柑がどれだけ大変な思いしたか………お前に何が分かるんだよ!!」

 浅黄檸檬さんはぐしぐしと洋服の袖で目を擦って、私の襟首を掴み上げた。

「私達は好きであんなことしてるわけじゃないんだよ」

 そう吐き捨てて、浅黄檸檬さんは私を放して、そのままスーパーを飛び出してしまった。


「……ど、どういうことなの……?」

 浅黄檸檬さんと、浅黄蜜柑さん。

 好きであんなことしてるわけじゃないって、どういうことなの?

 2人の本当の気持ちって、本当の仲って、……どんなものなんだろう。


 びっくりしたんだ。あの浅黄檸檬さんが泣いたんだもん。強気で、荒れてて、いかにも不良! って感じの浅黄檸檬さんが……。

 確かに、つい最近出会ったばっかりの何も知らない私にあんな事言われたら、誰だって腹立つよね。そうだよ、何か悩みや事情があるなら尚更。

「明日、謝ろう……」

 悩みがある事前提に話を進めちゃうけど、実際に何か問題があるみたいだったから、きっと彼女を変えてしまった過去があるに違いない。

 わざと教室で大喧嘩する理由なんて思い付かないけど……。


 とにかく、浅黄姉妹が黄色と橙色の光か闇かもしれないんだ。妖精さんに相談して、これからはなるべく観察しないといけなくなるかもしれないし。

 赤羽さんの時みたいに、最初は鬱陶しがられるかもしれないし、本当に闇だったら私達が危険になるかもしれないけど、このまま放っておくのはどっちにしろ危険だもんね。

 もしかしたらこんな風になってしまった理由も、分かってくるかもしれない。

 その時は全力で助けてあげよう。例え彼女達が、闇でも。



 勝手に張り切って、階段を上っていった。エスカレーターから落ちる時に、学生鞄は一緒に落ちてこなかったんだ。だからきっと2階のエスカレーターの乗り口に落ちてるよね。

 エスカレーターを上がれば良い話なんだけど、あんなことがあったんだもん、当分エスカレーターには乗れないよね……。

 1階と2階の間の踊り場に着くと、何やら小さな嗚咽が聞こえてきた。

 何だろう、迷子かな?

 私は嗚咽が聞こえてくる自販機の方向へ足を進めた。

 案の定、故障中の札が貼られた自販機の影に、小さく丸まった人が蹲っていた。ふるふると震えていて、まるで生まれたての小鹿って感じ。


「あの、大丈夫ですか……?」

 私は躊躇わずも恐る恐る声を掛けた。その人はびくっと肩を跳ねらせて、泣き顔で私に訴えてきたんだ。

「あの、妹とはぐれちゃって――あっ!?」

 その人は言い終わるや否や、驚きの声を上げた。

 そしてそれは私も同じで……って、この展開、さっきもなかったっけ。

「あ、あなたは確か、同じクラスに居たっけ……えっと」

「桜澤です、桜澤桃音!」

「ああ、桜澤さん…………」

 なんと、彼女は浅黄蜜柑さんだったんだ。普段は掛けてない黒縁の眼鏡を掛けているけど、すぐに分かった。浅黄蜜柑さんはほっとした様子で溜め息を吐いた。

「どうしてこんな場所に?」

 いくらなんでも、こんな段ボールやら壊れた機械やらが積まれた場所に居たら危ないし、何より見付けてもらえないよ。

「えっと、私、その……人混みとか苦手で」

「人混み? 今全然人居ないよ?」

 1階には誰も居なかったしさぁ。自分の運の悪さを恨んだくらいだよ。

「こういう場所自体が無理なの。明るくて物が多くて、何だか心臓がドキドキして……物凄い不安にならない?」

 浅黄蜜柑さんは眉を八の字にして、私にぐいっと顔を近付けてきた。

「うーんと、うーん……分からなくもない、かな」

 本当は全然分からないんだけど……。

 でも、浅黄蜜柑さんは本当に怯えてるみたいなんだ。確かこういうパニック障害とかがあったよね。

「だからお願い、一緒に檸檬を探して!

 もしかしたら檸檬も独りで泣いてるかもしれないわ……」

 涙を流しながら懇願されたら、誰も嫌だなんて言えないよ。

「うん、わかった」

 私はもちろん頷いた。

「ありがとう、ありがとう……」

 浅黄蜜柑さんは泣きながら何度もお礼を言った。


「さっき檸檬さんと会ったよ。私がエスカレーターで転んだ時に助けてくれたんだ。本物助かっちゃった」

 私はたははと笑いながら言った。

「檸檬が?」

 浅黄蜜柑さんは目を見開いて聞き返してきた。

「学校ではいつも怖くて荒れてる檸檬さんだけどさ、私だって気が付くまではすごく優しかったんだ。」

「そ、そうなんだね……」

 私が浅黄檸檬さんを褒め称えていると、浅黄蜜柑さんの表情はどんどん曇っていく。

「何で私だって分かった途端、また怖い檸檬さんに戻っちゃったのかな。」

 わざと意地悪く言ってみる。


 私はずっと引っ掛かってたんだ。

 教室ではあんなに仲が悪かった浅黄姉妹が、仲良く手を繋いで歩いたり、楽しそうに笑い合ってたんだもん。

 浅黄檸檬さんも浅黄蜜柑さんも、今は青空学園の制服じゃなくて、別の学校の制服を着ている。髪型も、普段は強いくせっ毛の浅黄檸檬さんはストレートにしてお下げにしてたし、普段はストレートの浅黄蜜柑さんは三つ編みにしてるし。

 2人ともマスクと眼鏡をしていて、完全に変装スタイルだし。


 それに、今は浅黄蜜柑さんは、こんなに妹を心配しているんだもん。

 どうしてわざわざ、学校では喧嘩ばっかりするんだろう。どうして、皆から嫌われようとしてるんだろう。

 きっと、何か事情があるのかも知れないけど、他のクラスメイトに迷惑を掛けているのも事実だもん。

 人には言いたくないことも、もちろんあるだろうし。

 でもね、自分達だけで解決しようなんてきっと不可能だよ。誰かの力が必要になるんだよ。

 だから、きっと……2人は誰にも言えなくて、この方法しかなかったのかもしれない。

 誰にも言えないで、自分の中にだけ溜め込んで。

 それがどれだけ辛いことなのか、私には分かる。


「どうしてそんな事言うの?」

 浅黄蜜柑さんは、不審そうな目で私を見ていた。明らかに警戒してるのが分かった。

 私はそんな浅黄蜜柑さんの目をじっと見詰め返した。

「何であんなふうに、喧嘩ばっかりするの?」

「桜澤さん、今日のことは誰にも言わないで。私達の事、何か気が付いたみたいだけど、絶対にばらさないで。

 本当に困るの。お願いします。」

 浅黄蜜柑さんは、教室の時みたいに怖い顔で怒鳴った。

 即答だった。

 どうして、どうしてそこまで……。


「桜澤さん、助けてくれてありがとう。でも、もういいの。私達は学校では大人しくするから、お願いだからもう関わらないで。近付かないで。」

 浅黄蜜柑さんは俯きながらそう言った。その声が震えていて涙声だったから、私は何も言えなかった。

「……分かった。ごめんね、無理に訊いちゃって。」

 誰にでも話したくない事くらいあるのに。私にだってあるのに。

 何も分かってあげられない私に、誰かの悩みを知る資格なんてないかもしれない。少なくとも、浅黄姉妹のことを救うなんて不可能だよ。どうせ綺麗事しか言えないもん。余計に2人を傷付けちゃうかもしれない。


「……でも、1つだけ訊いてもいい?」

「うん、答えられることなら答えるよ」

 浅黄檸檬さんは優しい表情に戻って、頷いてくれた。

「浅黄さん達は、本当はあんなに仲が悪いわけじゃないんだよね?」

 私の問いに、浅黄蜜柑さんは動揺したみたいで、視線を泳がせた。きっと予想外の質問だったんだ。

「……うん。」

 泣きながらだけど、しっかりと頷いてくれた。

「それなら、良かった」

 私は心の底からほっとした。それと同時に、やっぱり助けてあげたいって気持ちも大きくなった。

「うん、……それじゃ」

 浅黄蜜柑さんは立ち上がって、階段をゆっくりと降りて行った。

「そうだ、檸檬さんなら、さっきスーパー出ていったよー!」

 慌ててその弱々しい背中に教えてあげた。まあ、私のせいなんだけどね、浅黄檸檬さんが帰っちゃったのは……。悪いことしちゃったなぁ。


 でも、これではっきり分かった。

 浅黄檸檬さんと浅黄蜜柑さんは、きっと、光だ。

 

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