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魔法少女mirai✡7 【⚠修正前】  作者: 千歳もも
✡第2幕 _赤色の光
17/39

*episode.15 気持ちの揺らぎ

 

 私と赤羽さん、そして妖精さんと赤色の妖精さんは、何も言わずに街を歩いた。

 もう5時になるのかな、4月とはいえこの時間になると結構暗くなるんだよね。校門閉まってないと良いけど。

 ちらっと横目で赤羽さんを見る。乱れた茶髪でよく見えないけど、俯きながら唇を噛み締めているのは分かった。

 せっかく妹と再会出来たのに、こんな形になってしまうなんて。大切な妹が自分のことを恨んでいたなんて、信じたくないんだと思う。それに、あんなにいきなり変身したんだ。そりゃびっくりして何も言えないよね。

 そうだよね、初めて変身したんだもん。我ながら私が初めて変身した時は、よくあそこまで冷静で居られたなって思う。

「……赤羽さん」

 名前を呼んでみたけど、返事はない。


 そしていつの間にか、学校の前まで来ていた。

 幸い校門の鍵は閉められていなかったから、校舎に入れた。

「あ、赤羽さん!」

 保健室に入ると、保健の先生が駆け寄ってきた。

「心配したのよ、荷物置きっぱなしでどこか言っちゃうんだもの……」

 先生が心配しても、赤羽さんは何も言わないで俯いたまま。

「桜澤さん、何かあったの?」

 先生は何かを悟ったのか、今度は私に目を向けてきた。

 な、何て誤魔化せばいいんだろう……。

「えっとですね、その、色々――赤羽さん?」

 何か言い訳を言おうとしてたら、赤羽さんが学生鞄を抱えて、こっちを見ていた。

 そして、私に向かって激しく首を横に振ったんだ。

 今日のことは誰も言わないで、ってことなのかな。

 どっちにしろ先生には言えないことなんだけどね。

「……さようなら」

 赤羽さんは、そのまま保健室から出ていってしまった。少しだけ肩がぶつかったけど、そんなの気になも止めないいくらい、赤羽さんは必死に走っていた。

 まるで何かから逃げるように。


「ちょっと、赤羽さん!?」

 先生が追い掛けようとしてたけど、

「先生、赤羽さんは私が追い掛けます! さようなら!!」

 行かせまい、と私も自分の学生鞄を掴んで、保健室から飛び出した。下駄箱に上履きとローファーを履き替える赤羽さんの姿が見えた。焦ってるのか、上履きがロッカーに引っ掛かったり、ローファーに踵がつっかえたりしている。

 こんな状態じゃ、今問い詰められても何も話せないよね。今日あった光と闇の事は、赤羽さん自身もよく分かってないんだから、余計傷付けることになっちゃうもん。

 今日は、放っておいた方がいいのかもしれない。

「……赤色の妖精さん、赤羽さんをよろしくね」

 私は着いてきていた赤色の妖精さんに言った。

「パートナーだもん、当たり前だよ。任せてッ」

 赤色の妖精さんは小さく頷いて、赤羽さんの後を追うように校舎から出ていった。


 妖精さんが、心配そうに呟いた。

「赤羽には、あいつがちゃんと説明してくれるから安心しろ。

 桃音もこれからは1人で戦う時もあるかもしれないんだ、今日の魔法を使う時の感覚、ちゃんと腕に焼き付けておけよ」

「……分かった。」

 1人で、か。妖精さんが居ない時に戦わなくちゃいけないって考えると、やっぱり心細いかな。

 でも、いつまでも妖精さんに甘えてられない。

 強くならなきゃ。



 ✡



 夜、私はベッドに倒れ込んだ。

 ありとあらゆる部位が悲鳴を上げて、軽い痙攣を起こし始めたんだ。

「あああああああああ、筋肉があああああああ」

 超絶痛い。これが筋肉痛の末期症状なのか……ぐふっ。

「何死にそうな声出してんだよ、あんなくらいでへばってちゃ何も出来ないじゃないか」

 なんて妖精さんは言うけど、魔法を使うってすごく疲れるんだよ。

「はー、もう今日はダメだ。お風呂もご飯も宿題もやる気出ないや」

 もうこのまま寝ちゃおうかな。このまま起きてても何も出来る気しないし、それなら早く寝て疲れを取った方がいいよね。

 とは言え、現時刻はまだ7時14分。こんな時間に寝たら、3時とかの微妙な時間に目が覚めちゃいそうだからなぁ。

 でもとにかく、今は寝転びたい。

「そんなに疲れてるなら飯食った方がいいし、風呂入った方が疲れも取れるんじゃないか?」

「うー、確かにそうだけどさ。ご飯はいいけど、お風呂は洗うのもドライヤーするのも大変だからさ。」

 お風呂はドライヤーも含めて、2時間くらい掛かりそうなんだよね。

「そんなに疲れるなら髪切ればいいんじゃないのか?」

 妖精さんはかなりイタいところを突いてきた。分かって言ってるのか何も知らないのかは分からないけど、答えにくい質問ばっかりしてくるなぁ。

「いいのいいの、長い方が可愛いもん」

 そうだよ。長い方が、可愛いんだよ。

 だから切らなくていいや。もう少し経ったら考えなくもないけどね。


 とりあえず妖精さんの言う通り、ご飯だけは食べちゃおうかな。とにかくエネルギーを摂取しないと、栄養不足で倒れてしまうよね。魔法を使うとあんなに疲れるんだもん、きっと物凄くカロリー消費してるんだよね。

 好きなだけお菓子食べても太らないかな……ふふっ。

 なんて考えながら階段を降りていくと、リビングに電気はついてなかった。

「……あれ?」

 お母さん、この時間なら帰ってきてるはずなのに。

 そういえば「ご飯食べないの?」って訊かれてなかったっけ。

「あ、そうだった。お母さん今日は遅くなるって言ってたんだったっけ」

 本当に言ってたか言ってなかったか忘れちゃったけど、そういうことにしておこう。

 どっちにしろお母さんが居ないんじゃ、ご飯も1人で食べなくちゃいけないもんね。冷蔵庫の中のものを適当にあっためて食べよう。


 冷蔵庫を開けてみると、昨日のおかずだった肉じゃがとサラダが入っていた。

 炊飯器の中には少しだけだけどお米があった。見たところいつも食べてる量より少ないけど、そこまでお腹空いてないからいっか。

 肉じゃがもご飯もあっためるのめんどくさいから、このままでもいいや。

「いただきます」

 ちゃんと両手を合わせてから、お箸を手に取った。

 誰も見てないからって、お行儀悪くしてたら気持ちまでグレちゃうんだって、お父さんはよく言ってたなぁ。私がお箸の持ち方を覚えられなかった時は、毎食毎食注意してきたんだっけ。その時はただただお父さんが怖くて、必死になってお箸を持つ練習してたなぁ。

 あの時はお父さんの大切さなんて、全然知らなかった。知ったような気になってただけで、実際はこれっぽっちも分かってなかった。

 大切なものは、失ってから初めて気が付くんだよ。だからせめて、まだ手が届くうちに、もっともっと一緒に過ごせば良かったって、今でも悔やんでる。

 お父さんの声も、お父さんの匂いも、お父さんの体温も、今では思い出の中からは出てこなくなっちゃった。

 ……会いたいなぁ。


 やだ、何しんみりしてるんだろ。ただお箸を持っただけで、お父さんのことを思い出すなんて今までなかったのに。久しぶりに1人の夕ご飯なもんだから、ちょっと寂しくなっちゃったのかな。

 どっちにしろ早く食べちゃおう。そして早く寝よう。

 小さいじゃがいもを口に運ぶ。

「……冷たっ」

 当たり前だよね、あっためてないんだし。

 でも、温度が低いっていう冷たさじゃないような気がしたんだ。

 何て言うんだろう、こう――温度を認知出来ないみたいな感じ。何だか気持ち悪い。

「……お父さんに、会いたいな」

 不意に零れたその言葉は、私の本心からの願いで、だけど、もうこの先ずっと叶うことのない願いだった。


 人って、どうして死んじゃうんだろう。



 ✡



 私が密かに泣きながらご飯を食べている間、私の部屋着のポケットの中で、ミラクルキーに何かが起こっていた。

 ミラクルキーは強く不規則に点滅して、最後にはフッと濁ってしまった。

 その濁りは、さっきまでよりもずっとくすんだ色だったんだ。

 

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