*episode.11 魔法の使い方
その時、急に赤羽さんが心臓を抑えて唸り出したんだ。
「う、うぅっ」
「あ、赤羽さんっ!?」
私はびっくりして赤羽さんに駆け寄る。赤羽さんはぴくぴくと小さく痙攣しながら、ゆっくりと身体が傾いていく。
ベッドの柵に頭をぶつけても、赤羽さんは頭を上げようとしない。
「どうしよう、どうしよう!」
保健の先生は居ないし、職員室は今会議中だろうし――そもそも赤羽さんから離れたら、赤羽さんが本当に死んじゃいそうな気がして、どうしても動けなかった。
私が慌てふためいていると、赤羽さんの身体がどくんと脈打ったんだ。
「あ、赤羽さん……?」
赤羽さんの体が一瞬だけ点滅したような気がした。
次の瞬間、周りの色が桃色になったんだ。
妖精さんが、結界を張ったんだ……!
結界の中だからか、赤羽さんの身体は眩しいほど光っていた。この間なんかより、ずっとずっと深い赤。
それにしても、今日の結界は異常に赤みが強い気がする。お世辞にも桃色とは言えないくらい、濃く強い桃色。
まるで血液みたいに、濃い赤――
……真紅。
「妖精さぁああああん!」
私は保健室の窓を開けて、校庭に向かって声の限り叫んだ。でも妖精さんもこの事態に気が付いたのか、保健室の入口から入ってきた。
「どこに向かって叫んでんだよ、桃音ッ!」
妖精さんの緊迫とした言い方に、一大事なのは本当だということが分かった。そしてこの結界は、妖精さんが張ったものじゃないってことも。
「これは一体どういうことなんだよ……」
イライラしながら私の背中を蹴る妖精さん。……何か酷くないかな。
「とにかく、今は出来ることをするしかない。ワタシは赤色の妖精を探してくるから、お前は変身して、もし闇が襲って来たら対抗しろ」
「待って待って、対抗ってどうやって!?」
私、まだ魔法使ったことないんだけど!?
「変身する時みたいに、ミラクルキーを握ってみろ。そうしたらミラクルキーの石の中にあるハートの宝石が1メートル大のステッキになる。それで大きな円を描いて、その中に星を描け、――あァ、星って言っても六芒星な。三角形と逆三角形を組み合わせるんだ。それから、その六芒星の中に、更にハートを描いて、その中に更に十字架を描け。
きっとケーンがお前を導いてくれるから、それに従え」
妖精さんは早口で説明してくれた。
「わ、分かった、円の中に六芒星、その中にハート、その中に十字架ね……」
頭の中で、ファンシーな魔法陣を想像する。聞いてる限りでは難しそうだけど、きっとあんな感じだよね、それにステッキが導いてくれるなら、案外簡単かもしれない。
案ずるより産むが易し、かな。
「それじゃ、な。くれぐれも闇に赤羽を奪われないようにな」
妖精さんは、さっき私が開けた窓から、物凄いスピードで出ていった。
よし、今日こそ魔法を使うかもしれないんだ。妖精さんからは光のことや闇のことは説明してもらえてないけど、きっと大丈夫。
「赤羽さん、私が守るからね」
私は完全にここにある赤羽さんの身体を、きゅっと抱き締めた。
結界の中でも透けてないってことは、きっともうすぐ覚醒するってことだよね。こんなに強く光ってるんだもん、きっとさっきの痙攣も光の力のせいかもしれない。
こうしてられない、いつ闇が襲って来てもいいように、先に変身しておこう。
襲われたって、私は絶対に挫けない。
絶対に死なない。生きて、赤羽さんを絶対に守る。
私は大きく、大きく息を吸った。
「トランスフォーム・フューチャー!」
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「これは、どういうこと?」
少女は鈴の音のようなよく通る声で、そう呟いた。
寂しげな表情は、今にも枯れてしまいそうなカスミソウのような儚さがあった。
まだ幼さの残る小さな両手で、1枚の紙切れを握る。
「ねぇ、もう目が醒めちゃうの……」
少女の両の瞳が、銀色に光る。
「待っててね、お姉ちゃん」