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容疑者 山川義郎 〜佐久間警部の策謀〜  作者: 佐久間元三
送致を防げ
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四十八時間 2

 佐久間は、課長の安藤と指揮を二つに分けて山川が前日回ったルートを再度検証することにした。


 まず二課で話を聴こうと出向いたが、バタついている一課と違い、七時前のため当直課員しかおらず話が聴けない。


 仕方なく日下に細かく聴きながら秋葉原へ移動を開始することにした。


 地下鉄に乗り込んだ二人は小声で話をする。


「日下、二課と山さんがどのレベルまで細かく調整しながら捜査していたか話してくれ。聴きながら頭に入れるよ」


「はい。まず、安間圭介ですが昨年末に一般女性から警視庁に結婚詐欺かもしれないと相談がありました。なんでも、安間圭介のために事業の運転資金に三百万円ほど金融機関から借金して貸したのに結婚してくれないといった内容です」


「その内容なら二課特別捜査第二係の範疇だな。何故山さんが?」


「安間圭介は被害女性が借金をすることにはじめは抵抗したようです」


「・・・女性を殴って借金させたということか」


「はい。詐欺に傷害が加わり合同捜査に切り替わりました」


 佐久間たちの会話に座席の客が思わず反応して、ジロっと目が合ってしまった。


「日下、後にしよう」


「そうですね」



 〜 秋葉原 〜


 電気街口から出た佐久間は、日下の案内で山川が安間圭介を追って歩いたルートを検証した。


「久しぶりに歩いたが、ジャンク品店が少なくなって、仮想空間を嗜好する店が増えているな。早朝だから歩きやすいかと思ったが、こんな早くから客がいるとは驚きだ」


「私もビックリしました。山さんは半分ジャンク品店を楽しそうに物色してましたが」


「仕方ないよ。山さんは、鉄道とジャンク品マニアだからな。捜査の手は緩めなかっただろうな?」


 日下は表情をかたくしながら、頷く。


「山さんのことだ。犯人はセンスが良いだの捜査と趣味を兼ねられる秋葉原は最高だのと日下に言ったんだろう?」


「・・・よく、わかりますね。何でもお見通しで怖いくらいです」


 佐久間は、ジャンク品店で無線パーツを横目に見ながら、改めて尋ねる。


「安間圭介は盗聴などもやる男なのか?」


「はい。詐欺のためなら盗聴だけでなく盗撮も行うようです。また、この付近は地下アイドルも豊富ですからターゲットも多いんだと思います。二課でも、この一帯は要チェックポイントです」


「・・・地下アイドルか。昔から詐欺師は通常よりも情報網が命だからな。その点は我々も負けてはいけないぞ」


「はい」


「ここで、山さんは何か安間圭介の消息を掴んだのか?」


「はい。安間圭介は毎週火曜日と木曜日に、あそこのジャンク品店に立ち寄り、その後近くの漫画喫茶に入り、買った商品を組み合わせ、何処かに移動することがわかりました」


「店員情報か?」


「いえ、一般客からの情報です。安間圭介は結構有名らしいですから」


「それなら、確保も容易いのではないか?」


「はい。山川さんも同じ意見でした」


 時計で曜日を確認する。


(今日は水曜日、明日勝負になるか?)


「警部、次はどちらへ?昭和通りか御徒町か距離はさほど変わりません」


「このまま直線ルートで御徒町に行こう」


 山手線沿いに御徒町に向かって歩くこと七分、御徒町メイン通りに差し掛かる。


(安間圭介はアメ横に?)


 アメ横を歩くと途中で小さな路地が交差しており、薄暗いが怪しい気配の商店も並ぶため玄人には堪らないスポットであることは、素人の佐久間にもわかる。


 宝石店や金を取り扱う店、質屋も多く、また買い物客の主婦もターゲットにしているのであろうか?安間圭介の行動範囲は広そうである。


「安間圭介が出没する時間帯は十四時から十五時くらいか?」


「ーーーー!何故それを?」


「何と無くな。私が奴なら、その時間帯に現れてターゲットを物色するからね。つまらなそうに買い物している客に優しく声を掛け、近くの喫茶店で美味しいコーヒーをご馳走して、友達になり、少しずつ距離を縮めるのだろう」


「その通りです。さすがは警部脱帽します」


「世辞はいい。安間圭介はやはり火曜日と木曜日にここへ?」


「はい。火曜日と木曜日が多く確認されているようです」


「把握した。では、昨夜の場所へ行こう。昼間でしかわからないこともあるかもしれない。近くの潜伏先も確認しておきたい。案内してくれ」


「はい。わかりました」



 〜十五分後、大有記念病院近くの路地〜


 昨夜の雰囲気とは一転し、完全にオフィス街の雰囲気である。


 昭和通りから、この一帯は近年、都市再開発が進み、高層ビルや大有記念病院などの近代建築と昭和初期に建てられた民家の差が顕著化している空間である。


「昨夜はあまりわからなかったが、右手に病院の塀、左手に民家の石塀、そしてこの路地。薄暗いと死角となり得る場所だな。犯人は、この路地が死角となることを知っていた可能性が高い」


「言われてみれば、そうですね。警部、他の路地も同じ条件か走って確認してきます」


「ああ、すまない。私はもう少し検証する」


(今、昭和通りからここまで見た路地は少なからず民家がすぐだったはずだ。土地的にここは犯行に優れている。・・・山さんをここに来るように誘導するのは至難のわざだ。すると山さんは違う場所で張り込みをしたかもしれない。暗いから路地を覚えてない可能性もある。本ボシは山さんが起訴され裁判において山さんが犯行場所を間違えて証言することまで視野に入れて計画したのか?)


 日下が肩で息をしながら戻って来る。


「警部、やはり似たような路地ばかりで迷いますが、両側が塀となる場所はここだけです」


「そうか。お疲れ様。このジュース飲んで少しだけ休め」


 携帯で安藤に確認する。


「プルルルルル」


「はい、安藤。・・・どうした?」


「取調べ中申し訳ありません。急ぎ山さんに確認して頂きたいんですが、山さんが張り込みを行なった路地を明確に覚えていたかを聴いてください」


「わかった。折り返す」


 二分後。


「安藤だ。薄暗いから路地であったことしか覚えてないようだ」


「やはり、そうですか」


「何かわかったのか?」


「本ボシは、この辺りの土地を熟知しています。昨夜は月は出ていません。この辺りの路地は歩道用の照明がほとんど無く、暗闇が占めている。つまり、山さんは違う路地で本ボシに眠らされ、殺害場所まで運ばれた可能性があります。同じようにガイシャ女性も別の場所、例えば車内で射殺されてこの路地に遺棄され、すぐに山さんに拳銃を持たせ硝煙反応を付けさせたことも予想出来ます」


「何だって?その仮説が正しければ、山川を救えるのか?」


「いえ。まだ証拠不十分です。ガイシャの身元はわかりましたか?」


「ああ。安間京香、三十歳。三鷹市井の頭公園付近のブティックに勤めている店員だそうだ」


「ーーーーーー!」


「どうした?」


「課長!安間京香と安間圭介は肉親では?至急確認を。もし、肉親ならば安間圭介が殺す線は低くなり、安間圭介捜査を利用した山さんをおとしめるために策を施された線が濃くなります」


「ーーーーーー!」


「我々身内に本ボシが?」


「それはわかりません。身内かもしれないし、山さんに過去逮捕された者かもしれません」


「至急確認作業をさせよう。肉親ならばどうする?」


「マスコミを通じ、安間圭介に呼びかけます。捜査対象者でなく、肉親として連絡を取りたがっていると」


「わかった。他には?」


「あとは、今手を打っています。私の推測通りならば、逮捕から四十八時間以内にとりあえず検察庁への移送は阻止出来るかもしれません」


「・・・佐久間警部を信じよう。その秘策とやら期待している」


(あと三十六時間か。急がないと)


 少しずつではあるが、捜査が進展していることを肌で感じていたが、長く刑事をやっているせいか、最後に何らかの妨害が起こるであろうことも感じざるを得ない佐久間であった。

 

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