四十八時間 1
六時三十分、捜査一課。
山川逮捕から、七時間三十分が経過していた。
課内では、山川の検察送致阻止を図るべく夜通し情報収集が行われていた。
先日、山川がとった行動について分かる範囲でホワイトボードに整理される。
○八時三十分 出勤
○九時二十分 捜査二課打合せ
○十一時五分 二課と秋葉原電気街
○十二時 御徒町
○十二時五十分 捜査一課
○十八時 新宿歌舞伎町
○十九時五分 五反田駅周辺
○二十一時 外神田佐久間町
○二十二時 昭和通り路地裏
○二十二時五十八分 逮捕
「山さんは、昨日は私とは別行動だった。誰か山さんと一緒だった者は?」
「私が途中まで、山川さんと一緒でした」
日下刑事が挙手する。
「日下。何時まで一緒だった?」
「えーと、二十一時までです。昨日は二課特別捜査第二係と安間圭介確保のために出没するであろう箇所を聞き込みしながら、店舗や駅、喫茶店、宝石店など足を使った人海戦術を取っていたので」
「二課は誰が一緒だった?」
「吉村さんと谷後さんです」
「日下と別れる時に二人は一緒ではなかったのか?」
「それが・・・」
「山川さんは、二課の二人と潜伏場所で軽い口論となりまして」
「山さんの気性だ。おそらく捜査方針が違うとか言って、二人とそこで別れたんだな?」
「・・・はい。安間圭介が、東京タワー方面に移動した情報と昭和通りから路地裏に入った女の家に潜伏している情報が二課から同時に入り、山川さんは女の家にいる方を選びました」
「なるほど。では、山さんは一人で女の家を張り込みしたんだな?」
「だと思います。山川さんは私に早く帰宅して家族サービスするようにと促してくれたので、お言葉に甘えて早く上がりました。こんなことなら、最後まで一緒にいるべきでした」
下を向く日下に、佐久間は喝を入れる。
「日下、それにみんなも聴いてくれ。落ち込む暇はないぞ。安間圭介の身柄確保に全力を挙げよう。安間圭介の情報を」
日下が安間圭介の情報をホワイトボードに書いていく。
○安間圭介。三十七歳。結婚詐欺師。
○住所不定で無職。
○過去二回、詐欺容疑で検挙歴あり。
○昨年末に被害相談が出ており、
二課で捜査中。
○交遊被害者特定はあり。
「鍵を握るのは安間圭介か。だが、安間圭介が山さんを気絶させて、一般女性を殺す回りくどいことをするだろうか?」
黙って聴いていた安藤も口を挟む。
「佐久間警部の言う通りだ。安間圭介も馬鹿じゃない。自分に詐欺容疑掛けられて人は殺さんだろう。と言うことは、山川は誰かに監視されていて、隙を見せた際に眠らされ、山川の銃が人殺しの手伝いをしたといったところか 。どう思うかね、佐久間警部?」
「同感です。やはり、山さんが眠らされたタイミングがポイントでしょう。誰が何の目的で深夜の路地裏で見張りしている山さんを気絶させ、かつ一般女性を射殺したかです」
佐久間はホワイトボードに張り込み時点の疑問点を列記した。
○山川は誰に眠らされたか
○山川は誰に恨みを買ったのか
○犯人は何故山川を殺さなかったのか
○誰が山川を監視していたのか
○通報者は誰か
○発砲時誰か銃声を聴いたり、目撃情報が
あるか
「ではどうする?」
「山さんが当時捜査した箇所を辿っていき、行き先全てをもう一度聞き込みしようかと思います。同条件下でないと見えない真実も出てくるでしょう。取り調べに同席しようと考えましたが、刻が欲しいので私は捜査に回ります」
「・・・わかった。山川の事は任せておけ」
佐久間は取り調べよりも安間圭介確保に全力を尽くすことにした。