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容疑者 山川義郎 〜佐久間警部の策謀〜  作者: 佐久間元三
プロローグ
3/29

面会

 二月十五日、三時二十分。


 佐久間は、留置管理課に赴き管理課長に被留置者となった山川の様子を尋ねた。


 本来であれば、すぐにでも取り調べが開始されるのだが、事が事だけに取り調べ開始は八時半過ぎからと部長命令で捜査一課に入っていたのだ。


 佐久間は、警察庁範疇で解決すべく決められた時間を無駄にしないよう、出来ることを模索していたのである。


「課長が今日当直で助かりました。山川がご迷惑をお掛けし申し訳ありません」


 頭を下げる佐久間に平川は無言で佐久間の肩に手を置いた。


「なあに、逮捕後すぐに安藤課長から連絡をもらってな。聴けば山川と言うじゃないか?山川とは同期だ。少しでも役に立たることがないかと飛んできたんだよ。何せ、我々には四十八時間しか猶予がないからな」


 平川は腕時計で、時間を見ながら悔しそうにしている。


「・・・そうですか。山さんも心強いですよ。・・・山さんの様子はどうですか?」


「・・・タバコでも吸おうか?」


 平川は佐久間と庁舎から出て喫煙コーナーでタバコに火をつけた。


 月明かりに照らされる庁舎を見上げ、煙を嗜むこと三分口を開く。


「憔悴仕切っているよ。自分が逮捕されたことよりも、お前さんに迷惑をかけたことを悔やんでいるようだった」


「そうですか。課長、あと五時間すると公式な取り調べを開始します。捜査一課だけでは身内なので隠蔽がないようにと他の課が出張ってくるのは必至です。それは仕方ありませんが、何とか山さんと少しだけでも話が出来ませんでしょうか?」


 平川は、良いとも悪いとも言わず、佐久間を無言で留置所に連れていき、山川が拘留されている牢前である提案をする。


「佐久間警部。留置管理課として捜査一課に非公式で相談なんだが、どうも牢屋の鉄格子が調子悪くてな。一課の案も聴いて違う種類に変えようかと思うんだ。時間外に申し訳ないが点検してくれないか?」


「ーーーー!平山課長自らの依頼ならば、不肖ですが対応させていただきます。点検は十五分程で終わりますからお任せください」


「頼んだよ。私は課に戻るから終わったら入り口の課員に完了報告を頼む」


 平山は佐久間に敬礼すると、身体を反転させ課に戻っていった。


 佐久間は平山の後ろ姿を、姿が見えなくなるまで敬礼しながら見送る。


(課長、ご恩は無駄にしません)


「カツーン。カツーン、カッ」


 拘留されている牢を振り向くと、既に佐久間達の気配を察したのだろうか?涙を流しながら土下座している山川を見るなり、佐久間も自然に涙がこぼれた。


 佐久間は周囲を見回しながら、土下座する山川に合わせしゃがんで話を始める。


「土下座はもういいよ。山さん。・・・すまない、組織として守ってあげられなく警部失格だ。顔を見せてくれ」


「・・・すみません。すみません」


「いいんだ。私も山さんに謝らなければならないんだ。辛かっただろう?」


 山川は涙で顔をクチャクチャにしながら顔を上げ、佐久間の目を見つめると、また涙をドバッと流す。


「山さん。山さんは間違いなく誰かに嵌められたんだ。先週から山さんは私とは違うヤマを追っていたね。その関係者にやられたのか?答えられる範囲で教えてくれ」


 山川は袖で涙を拭い、しきりに記憶をたどり寄せ思い出そうとしている。


「・・・どうだ?何か思い出せるかな?」


「・・・確か安間圭介を追って秋葉原に向かいました」


「安間圭介?」


「結婚詐欺師です。外神田である神田佐久間町から秋葉原駅、昭和通りと尾行して最後は台東区の社会福祉法人『大有記念病院』脇の路地で張り込みしていました。安間圭介が路地先の女アパートに入ったと二課から連絡を貰ったので」


「二課が?・・・そうか、このヤマは二課と合同捜査だったね」


「・・・はい。この結婚詐欺師は傷害にも絡んでいますから。張り込みしたまでは覚えていますが不覚にもそこから記憶がありません。ガイシャはやはり、私の拳銃で?」


「ああ。山さんのニューナンブ式三十八口径だ。弾は残り一発だった。硝煙反応が出ている。何とかして本ボシを挙げなければ、山さんは被告人となる。検察官から起訴されるまでにケリをつけるよ」


「・・・申し訳ありません。自分の落ち度は自分でとツッパリたいんですが、今回はそれはかないません。警部を信じて待ちます」


「ああ。あと五時間したら、取り調べが始める。私は取り調べ室に入られるかどうか安藤課長にお願いしてみるよ。課長でも無理なら部長にお願いするさ。山さん逮捕が昨夜の二十二時五十八分だったから、送致まで残り四十四時間余りだ。出来れば検察に送検される前に止めたい。張り込みは山さんだけだったのかい?二課はいなかったのか?」


「二課は、秋葉原駅で二手に分かれました。まあ、私が邪険にして単独行動したのがいけないんですが」


「そうか。山さんと気が合う人間は数少ないからね。二課の連中も気の毒だった」


「警部・・・私ごときに無理はしないでください。あなたは将来警視庁を担う逸材です。こんなところでキャリアを潰してはダメです!なあに、検察に送検されても、送検後二十四時間。まだ時間はあります」


「山さん。それは言いっこなしだ。検察に送検されてみろ。検察は無理矢理にでも山さんを裁判所に被告人として起訴するだろう。それにね、私は一生現役警部として前線で生きるつもりだ。・・・時間がないので最後に一つだけ。最近、誰かの恨みをかうことはなかったか覚えてないかな?」


「恥ずかしながら、どこへ行っても評判が悪いので、特定となると難しいのが本音です」


 佐久間はプッと微笑む。


「そうだった。山さんは敵が多すぎだったよ。とりあえず、安間圭介から洗ってみるよ。・・・山さん、どうか耐えてくれ」


 山川はスッキリした表情を佐久間に見せる。


「もう大丈夫です。警部に理解して頂ければ怖いものなどありません。よろしくお願いします」


「・・・わかった。山さん」


 二人は無言で『ぎゅっ』と硬い握手を交わすと、山川は牢獄の後ろへ下がり、佐久間もまた静かに出口へと歩を進めた。


 佐久間は留置管理課の職員に点検結果を報告する。


「平川課長より承った牢屋格子点検が終了したので報告します。一部縦格子から横格子に変更する案を佐久間が話していた旨を課長にお伝えください」


「お疲れさまです。承知しました。課長に報告いたします!」


 佐久間は敬礼すると、留置管理課を後にする。


 取り調べ開始まであと四時間半となっていた。

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