新たな動き
佐久間が坂田美雪と面会すると、一度捜査一課に戻り、捜査記録を整理した。
「日下、悪いがこの捜査記録をパソコンにアップロードしておいてくれ」
「わかりました」
安藤がコーヒーを佐久間に差し出す。
「首尾はどうだ?行けそうか」
「はい。まずは二人の行動を制限しながら監視することが可能になりそうです」
「そうか、良かった」
二人が今後の捜査展開について打ち合わせしている頃、代官山。
山川は、ランチマーケットでカウンターに座り、黙って酒を飲んでいたが、接客が少なくなったタイミングを見計らいながら、斉藤啓二に声を掛ける。
「今日は、あのお姉さん達はまだ来てないんだね?」
「・・・?あのお姉さん達・・ですか?」
「とぼけないでくれよ?井上香織と坂田美雪だよ?」
斉藤啓二は、少し怪訝な表情で山川に答える。
「お知り合いですか?彼女達が何か?」
山川はバーボンをカポっと飲むと手で口を拭う。
「随分とあんたに熱を上げていたようだからな?不倫はマズイんじゃないかなと思ってね。まぁ、あんたが結婚してなければ自由恋愛だから口を挟まんがね?」
「・・・私は独身ですよ」
「そうかい?・・・そいつは済まなかったな。俺は生まれつき、モテたことないんでね?モテるあんたに嫉妬しているんだよ」
「・・・それはどうも」
「・・・ところで、あんた安間京香は知っているか?安間圭介の妹だ」
「ーーーー!・・・さぁ?誰ですか?知りませんが?」
「・・・そうかい。なら良い。独り言なんだが、安間京香は誰かに、そう最低二人組に拉致され射殺されたようだ。暴行の後はなかったから、多分拉致されて薬を盛られ、意識を断たれた状態で射殺されたんだろうよ」
黙って聴いていた斉藤も、これにはカチンときたのか山川に反論する。
「何なんですか?お客様。先ほどから訳が分かりません。おふざけにも度を超えているかと。お客様は刑事なんですか?それとも探偵ですか?」
「・・・おいおい?俺を眠らせた奴が俺の顔を覚えていない?」
「ーーーーーー!な、何を根拠に?私はあなたなど見たこともありませんよ。」
「・・・見たこともないか。まあ良い。その内真実が出てくるだろう。俺がお前を見ていたらどうする?」
「・・・何を言われても知らないものは知らない。私はずっとお店を切り盛りしてるんだ。それ以上、理不尽な事を話せば通報しますよ!」
「・・・通報はマズイな。ご馳走さん。また来るよ」
山川は、ポケットから千円札をカウンターに置き、ジロッと無言で斉藤を見つめるとそのまま、帰って行った。
斉藤啓二は、険しい表情で山川の背中を見つめ、姿が見えなくなるとバイトの店員に声を掛けた。
「千葉くん、少しだけ店番頼んだよ。・・・ちょっと買い出しに出て来る」
斉藤啓二は、買い出しに出た。
・・・右手に携帯電話を握りしめて。
警視庁から退庁しようと帰り支度をしているところに、山川から連絡が入る。
「警部、言われたとおり斉藤啓二に宣戦布告してやりましたよ」
「山さん、無茶しないでくれよ。で、どうだった?」
「奴はおそらく私を知っています。カマかけてみましたが、アリバイっぽいことを口にしましたよ。私は犯行時刻は話していないのに、あたかも夜を連想させるかの如く、店を切り盛りしていたと・・・ね」
「お手柄だ、山さん。これで少しだけ斉藤啓二は動くかもしれないね」
「私もそんな気がします。・・・今夜はそのまま直帰しても?」
「ああ、 勿論構わんよ」
「では、警部。また明日。お疲れ様です」
「お疲れ様、山さん」
(これで、何かしら動き始めるぞ)
佐久間は、この先に起こるだろう予見を頭の中でイメージしながら、帰宅の途につくことにした。