坂田美雪
杉並区荻窪四丁目。
佐久間は幼稚園が閉園するのを待ってから坂田美雪に面会を試みた。
先日、警視庁での任意聴取に嫌気を感じていた坂田は始めは面会を拒否したが山川でないことを知ると、面会に応じたのである。
佐久間は、近所のファミレスに坂田を案内し話を聴くことにした。
佐久間は、ショートケーキと紅茶を坂田に振る舞い頭を下げる。
「昨日は部下が大変失礼しました。この通り、お詫びいたします」
昨日とは全く違う扱いに、坂田は戸惑いを隠せない。
警察手帳を提示し丁寧に経緯を確認しようとした瞬間、坂田は指を差しながら逆に佐久間に尋ねた。
「佐久間って、もしかして、うちの元旦那に会いに来た佐久間警部?」
「・・・野本秀人さんには話を伺いましたが、知っておられるのですか?」
坂田の表情が変わる。
「野本から、珍しく電話があったんです。俺の冤罪を信じてくれた刑事がいたと。・・・とても興奮した様子で佐久間警部は信じられると言っていましたから」
「そうですか。失礼ですが野本さんと復縁することは出来ませんか?」
「・・・・・・?」
「実は、あなたが安間圭介とあれしている話をランチマーケットでたまたま聴いていたんです」
「あっ、そういえば。あの時テーブル席に居たような。山川っていう刑事も居た気がしますわ」
「・・・はい。偶然ですが」
坂田は表情を曇らせながら尋ねる。
「あの、この事野本には?」
「勿論、話していません。みだりに人の人生に介入出来ませんから」
坂田はホッとしながら紅茶を飲んだ。
「坂田さん、実は坂田さんに会う前に井上香織さんにも面会してきました。安間圭介と野本秀人さんを会わせないようにです」
「ーーーーーー!」
「坂田さんもご存知の通り、安間圭介の妹である安間京香さんが、何者かに殺され、安間圭介は裁判で争っていた野本秀人さんを犯人と疑っている。坂田さんは両人の中間で身動きが取りにくいと思い、井上香織さんから中川智子さんにコンタクトを取ってもらい、会わせない方策をお願いしたんです」
「・・・なるほど。野本が認めるはずだわ。あの人ね、元行員だけあって頭の回転が半端なく早くて切れるの。あの人が人を褒めるなんてなかったから。・・・本当の理由は他にもありそうですね?」
坂田はにやりと見つめる。
「・・・はい。野本秀人さんをランチマーケットに当面顔を出させないようにして欲しいことと、斉藤啓二には深く関わらないで頂きたい」
「マスターに?どうして、良い方よ?」
「少しだけ気になりましたね。安間圭介の事で妙に関心を持っている。彼には何か裏がある気がして捜査対象とするかもしれません。深入りされると、あなたにも迷惑が掛かるし、何より野本秀人さんの冤罪についても捜査しています。彼が無実なら戻ってあげて欲しいんです」
「・・・・・・」
「何と無くですが、お二人はお似合いの夫婦ですよ。彼は必ず立ち直ることが出来る。・・・あなたが居ればです」
「・・・本当に野本を助けてくれるんですか?あの人、また立ち直れますか?」
「はい。捜査一課で責任を持って捜査し直します」
「・・・信じます。あの人が信じたように、あなたを。捜査一課を」
「はい。お互い頑張りましょう」
佐久間は、坂田の手を熱く握り励ましてから、ファミレスを後にした。
(これで二人目。山さん頼んだよ)
佐久間は、杉並区荻窪から代官山方面の夕焼けを見つめ、駅へと向かう。