こう着状態
山川釈放から一月が経過し、三月も半ばを過ぎようとしていた。
事件解決に繋がったかに見えた糸口もこう着状態となっている。
安間京香殺害について、動機となる縁故関係者の野本秀人は、動く気配もなければ、野本秀人を仇と感じている安間圭介もどこかに雲隠れしたままだ。
山川を嵌める為に安間京香を殺害したのか、縁故なのか決定的な証拠が上がらないまま時間だけが過ぎていく。
時折、捜査一課の捜査記録が他の課でもチェックされる中、佐久間は頃合いを感じ、捜査方針の転換をしようと考え、捜査会議を開くことにした。
「・・・以上が、ここまでの捜査状況だ。今のままでは五年掛けても進展しない。もしかすると、これが本ボシの狙いなのかもしれないな」
「どういうことだ、佐久間警部?」
安藤が佐久間に尋ねる。
「我々が、捜査していくと、嫌でも安間京香の兄である安間圭介に辿りつきます。当の安間圭介はアリバイがあり、安間圭介の影を追っても妹殺害まで辿りつけないからです」
「では、安間圭介はどうする?」
「放置は出来ません。安間京香と裁判している野本秀人を仇と疑っている以上、奴は野本秀人に危害を加える恐れがある以上、悟らせる必要があるからです」
「警部、ではどうしたら?」
「捜査を区切ろう。山さん以下七名は従来通り安間圭介関係者の尾行、張り込み、情報収集を頼む。私と小川はもう一度安間京香の交遊関係と山さんを追っていた人物の特定に力を入れる。日下、必要な場合は捜査二課にも協力を頼め」
「はい、わかりました」
「それから、山さんには後で頼みたいことがある。悪いが課長と打ち合わせするまで残って欲しい」
「・・・?わかりました」
「では、解散!」
捜査会議が終了し、全員が持ち場へ散っていくなか、佐久間は安藤を別室に案内し、耳元で囁く。
「ーーーー!本当か?」
安藤は半信半疑だ。
「私の考えが正しければ、思うよりも早く解決するかもしれません。ですが、かなり強引な手法になるかと。・・・やりますか?」
「・・・許可する。長引かせるなよ」
「・・・承知しました」
五分後、佐久間は山川に自分の考えを伝えて、それを聴いた山川も驚きの表情をするも理解を示す。
「佐久間警部を信じます。しかし、賭けですな?私以上に警部は博打がお好きだ。目星ついていたんですか?」
「・・・なんとなくだよ。こう着状態だからこそ確信に変わったんだ。逆を言えば一気に仕掛けると、おそらく動く」
「やはり、敵いません。では、私はやれることをやりましょう。ドンドンかき乱します」
「ああ、頼むよ。山さん」
(待たせたね、本ボシさん。動かぬならこちらから姿を出させるまでだ。頭脳戦は嫌いじゃないぞ)