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容疑者 山川義郎 〜佐久間警部の策謀〜  作者: 佐久間元三
それぞれの事情
16/29

観察

 二月二十日、捜査一課。


 佐久間たちは、これまでの捜査で浮き彫りとなった人間関係を整理していた。


 偶然、ランチマーケットで事件関係者に遭遇したことは佐久間たちにとって幸運である。


「みんな、尾行が成功して彼女たちの住居や職場を押さえることが出来た。彼女たちを張れば、安間圭介に辿りつけるかもしれない。では、いつものように整理を始める」


 佐久間は、ホワイトボードに新事実を書き込んでいく。


 ○井上香織(三十歳)独身

  世田谷区若林四丁目在住

  世田谷区松陰神社付近の花屋勤務


 ○坂田美雪(三十三歳)バツイチ

  杉並区荻窪四丁目在住

  同地区幼稚園勤務、保母

  野本秀人の元妻で、夫逮捕により

  離婚した


 ○斉藤啓二(四十一歳)

  渋谷区猿楽町ショットバー経営

  野本秀人の相談相手

  井上香織、坂田美雪と接点あり


「現在、斉藤啓二は単なる相談役だが、野本秀人や井上香織たちと繋がっているため安間圭介とも繋がる可能性が高い。数週間、彼女たちや斉藤の動向を探ることとする」


「あの、佐久間警部。宜しいでしょうか?」


「日下か。何だ?」


「はい。科捜研でわかった薬の成分はこの三人から何か見つかるでしょうか?」


「まだ、わからんよ。この間、飲みに行った時に中川なる女性がいなかった。彼女たちの話から推測するに、三人でつるんでいるようだ。科捜研の氏原談では山さんに盛られた薬の成分はトルエンやエタノール成分があったことから薬剤や酒類を扱う人間か薬の知識が豊富な人材が絡んでいると考えられる。尾行、張り込みなどで接点が出るのを期待したい」


「わかりました」


 続けて、小川大樹が尋ねた。


「私も宜しいでしょうか?」


「お前はダメだ!」


「ーーーーーー!」


「・・・冗談だよ。どうした?」


 小川は、大量の汗をドッとかきながらハンカチで汗を拭う。


「捜査二課とは連携をされないのですか?」


「・・・勿論、必要に応じて連携はするさ。ただ、今のところ強行犯捜査をしているため、我々一課のヤマとして扱うつもりだ」


「もう一つ、教えてください」


「何だ?」


「安間圭介は二課に任せてはどうでしょうか?」


 山川が、小川の頭を軽くこついた。


「バカヤロウ。安間は妹仇を野本秀人だと勘違いしてるかもしれないんだぞ?結婚詐欺じゃなくて、殺人計画を立てているかもしれん。知能犯を追いかける二課のヤマじゃないんだよ」


「ですが、二課に振れば我々の仕事は減ります。世の中、残業抑制のカラー出してますから我々も少し余裕を持ってもよいのかと?」


 佐久間は苦笑した。


「まあ、小川の言うことも一理あるかもな。だが、本ボシが誰かわからない以上、捜査情報は我々だけで当面管理した方が良い気がするよ」


「・・・わかりました」


「よし、これで会議は終了する。手分けして情報をもっと集めてくれ」



 〜 一方、その頃 〜


 安間圭介と中川智子は、渋谷区猿楽町に来ていた。


 無論、妹の仇かもしれない斉藤啓二を確認するためである。


 代官山駅を降り、商店街路地に差し掛かると安間圭介はサングラスをかけ、帽子を被る。


「ねえ、圭介?来たのは良いけれど、入店するの?」


「いや、出来れば姿を確認出来れば有難いかな?・・・出来るかい?」


 中川智子は、人差し指を下唇に当てると、少し考え込んだ。


「シャーない。愛する旦那さまのために一芝居打ちますか。五分くらい、店の外に呼び出して話するから、近くのコンビニ前でタバコでも吸う振りをしながら観察して。早くしないと、井上香織たちが来店するかもしれないわ」


「・・・任せるよ。よろしく」


 安間がコンビニで待機する中、中川は思い切ってビルの近くに降りて行き、やがて斉藤啓二をコンビニ前の喫煙スペースに連れて来た。


「・・・あの、中川さん。話しと言うのは?」


「最近、井上さんや坂田さんは来店してますか?」


「よく、来てくれてますよ」


「あの、お店の中ではあまり話せないんですけれど、どちらかとお付き合いされますか?」


「ーーーー?まさか、お客さまですよ」


「そうですか」


「わざわざ、それを聴くために?」


「それもあるけれど」


 斉藤啓二は、不思議そうな面持ちだ。


「あと、野本秀人さんは来店されたんですか?」


「・・・野本さん?先週から来店されませんね。・・・野本さんが何か?」


 中川は、しまったと思い話を逸らす。


「いえ、坂田さんの元旦那さまでしょ?鉢合わせでもしたら、あれかなー?・・なんて」


「野本さんは大丈夫ですよ、きっと。まあ、坂田さんの方は鉢合わせしたくない感じでしたね」


「そうなんだ。ごめんなさい、お仕事の邪魔しちゃって。私、もう帰ります。今度、彼女たちと一緒に来ますね」


「わかりました。ご来店お待ちしています」


 斉藤啓二は、軽く会釈すると早足で店に戻って行った。


 斉藤啓二の後ろ姿が見えなくなったところで、安間圭介が詰め寄る。


「かなりの不審者だったよ?あれじゃあ、警戒されたかもね」


「ううう〜」


 渋い顔をする中川の頭を軽く撫でながら優しく耳元で囁く。


「でも、大体性格は掴めたし野本秀人の情報も仕入れた。店を張るか、坂田を利用するかじっくり考えることにするよ。さすがは我が妻、ありがとう」


 中川の表情がパアッと明るくなる。


「本当?私、役に立った?」


「ああ、とっても」


 中川は、安間の腕にしがみつき二人で中川の自宅へと歩を進める。


「あなた、今夜もウチ来るでしょ?」


「うん、勿論」


 安間は、途中何度もランチマーケットの方を振り返りながら代官山を後にする。


(今に正体暴いてやるぞ)


 すっかり日は落ち、あたりは暗いが身体に当たる風は冷気が和らぎ、少しだけ春に近づきつつあることを感じた一日であった。



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