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マルメロ。  作者: 深架
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はかない。

 マルメロの葉擦はずれの音。


 かがやく陽光がこもれ少年の上に落ちる。


 光が、樹木を見上げる横顔の線を縁取る。


 紺ブレザーに短髪、背は高め。


 静謐な雰囲気をことばは壊してしまう気がしたけれど。


 私は思わず声をかけた。


「何、見てるの?」


 少年が緩慢な動作で振りむく。


「何だと思う?」


「んー……。さぁ」


「わからない?」


「うん」


「……俺もわかんねぇ」


 ……は?


 や、それ口に出しては言わなかったけど。


「ねぇ……あなたが殺人したって本当?」


「殺人した? 言い方……」


「じゃ人殺し? なの……?」


「どっちでもよくね? てか、俺と話してて怖くないの?」


「うーん。あんまり」


「きみを殺しちゃうかも」


「殺れば?」


「強気だね?」


「うん」


 私はデバイスを作動させる。


 掌サイズの紅い小箱〈キュレッド〉。


 魔法のビッグデータを収める巨大ネットワーク〈マジアック〉システムにアクセスする。


 現代、事象に効果を及ぼすすべての魔法は数式で表される。


 この魔法式をデータとして収集・管理し、世界中の魔法を体系化した。


 あらゆる魔法が白日のもとにさらされ、敵の使う魔法の解明も容易になった。


 ただ、どんな魔法式を自分のデバイスにダウンロードして実際に発動させられるかは生まれつきの能力による。


 つまり偶然。


 〈マジアック〉の誕生と魔法ネットワークへのアクセスデバイスの発明により、世界と魔法の向きあい方は一変した。


 それまで一生かかっても知りえなかったものを一瞬で手持ちのデバイスに落とせる。


 〈マジアック〉は国や軍向けの超高額なパッケージ製品として出現した。


 新製品のリリースは毎二月。


 専用のアクセスデバイスも高額で、メンテナンス料も毎月かかる。


 〈マジアック〉発売元の株式会社〈霊柩車〉は、一躍有名に、金持ちになった。


 代表取締役社長は空切そらぎり次桜じおう


 メルゼシア国軍名誉将軍であり、既に退役したが影響力は衰えない。


 この空切次桜の孫が空切刈亜かるあ


 いま私の目の前にいるのが、刈亜。


 偉大な祖父次桜とは違い、このメルゼシア国軍立魔術科学園高等部において、常に実技・座学とも最下位。


 とうか昔、父、空切行方ゆくえを殺し、その後遺症で魔法が決定的に使えなくなったと噂だ。


 だが真相は不明。


 入学直後、刈亜いびりをした馬鹿アホな上級生が翌日、川辺の遺体となって見つかった。


 刈亜が殺ったと云う証拠はなく犯人もまだ見つかっていない。


 以後、彼はますます学園中から遠巻きにされたのに。


 ーーマルメロのこもれ日にほだされ私、話しかけちゃった馬鹿あほ


 でも刈亜をいびんなきゃ殺られない、だって話しかけたら殺されるなんて、そしたら刈亜がよく行く(かどうかはわからんけど)コンビニの店員さんは、すぐ死んじゃう……!


 とか思いつつ、デバイス〈キュレッド〉を作動させたら。


 瞬間。


「おせーよ」


 紅い小箱は地面に落ちた。


 音を立てて。


 こちらに向けられた、刈亜の右の人差し指。


 ゆっくりと降ろされた。


 刈亜のデバイス……。


 物体じゃなくて。


「爪、なの……?」


「あぁデバイス? そうだよ」


「さすが空切」


 まさか人体にデバイスを付けるなんて正気じゃない。


 そりゃ発動スピードは速くなるだろうよ。


「やめろ。俺は空切じゃない」


「は?」


「空切になんて生まれなきゃよかった」


「複雑っスね」


「複雑っス」


「名門のプレッシャー的な?」


「超名門だよね」


「授業まじめじゃないのはそのため?」


「授業?」


「うん。ほとんど学校来ないじゃん」


「あぁ……」


「たまには来なよ」


「メンドくせー」


「だな」


「だな、って」


「サボるなー」


「関係ねーだろ」


「クラスメート」


「知らねー」


「ありあ。あたしありあ」


「……」


「覚えた?」


「……」


「無視すんな」


「うぜぇ」








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