第96話 ロマンの色
「船の進路を右に5度、敵船からの砲撃があるまで絶対に攻撃をするなっ!」
船の上で緊張が走る。敵船と思われる船との距離はまだ1キロ以上は離れている。この距離から肉眼で見てもわからないが、望遠鏡を見ながらレベリオは船員達に指示を飛ばしている。
「....向こうもやる気満々らしいな」
「え、レギナさん見えるんですか?」
「目に魔力を流しているだけだ。なんだ、知らなかったのか?」
....知らなかった。試しに身体強化術と同じ要領で目に魔力を流してみるが、突如視界が広がり、奥の敵船が目の前に近づいてくるようにして拡大されてゆく。よく目を凝らしてみると船に乗っている相手があの船員達もこちらの船同様に忙しく動き始めている。だが、こちらの船と比べて違うところというのは....あっちの方がずっと海賊らしい格好をしているということか。
そして、身体強化術を解除した瞬間。目に鈍い痛みが広がる、思わず両目を手で押さえてしまうが、これは....友達のメガネを借りて付けた後の痛みと似ている。
「あんまり使わない方がいい。あまり使うと目が疲れる」
「は、はい....痛てて....」
互いの船は徐々に近づきだんだんと相手側の船の全容が見えてくる。それはあまりにも大きく、こちらの船で対抗するというにはあまりにも暴力な相手だった。
「ちっ....相手は大型船か....おい野郎どもっ! 乗り込みの準備をしておけっ! 絶対に死ぬんじゃねぇぞっ!」
レベリオの言葉に船員全員が応える。あまりにも無理難題だ、あの大きさの船ならばおそらくこちらの数の倍は乗っているだろう。そんな数を相手に戦うだなんて....
その時だ。
「敵側からの砲撃っ!」
「焦るなっ! この距離の砲撃は脅しだっ!」
相手側の船から数本の光の矢が飛んでくる。なんの魔法かわからない。しかし、こちらに飛んでくる直前にその光の色は薄くなり、船の結界によって弾かれ消えてしまう。
「こっちも打ち込むぞっ! 敵船の進路を妨害するようにして打ち込んでいけっ! 絶対に当てるんじゃねぇぞっ!」
その言葉を聞き、前方にいた船員がそれぞれ詠唱を行い、相手側に次々と魔法を打ち込んでゆく。しかし、その多くは海に着弾し、水しぶきを上げ、相手側の船の進路を妨害している。
「敵船を妨害して戦況を有利にさせるか、順当な方法だな」
レギナが隣で腕を組み、そう言っているが、確かにレベリオは元海軍出身。戦術的な戦闘は得意分野であるに違いない。問題なのは、この見るからに圧倒的な戦力差であることだが。
「船長。これは....俺も手伝った方が....」
「人も殺せねぇ奴が何言ってんだ。邪魔だからさっさとこの船から出て行ってくれ」
「でも....」
「だったらなんだ? この船にずっと残って料理人でもやることに決めたのか? 違うだろ?」
レベリオから言われた言葉が突き刺さる。そうだ、自分がやりたいことは料理人でもなければ海賊でもない。ただ、生きてイニティウムで待っている人のところへと戻る。そのために精霊石を探さなくてはならないのだ。
「わかってんだったら、俺の言うこと聞いとけ大将。あと嬢ちゃんも、大将が変なことしないようにしっかりと見張ってろ」
「それについては同感だ。それで、私たちを追い出すとプランとやらを聞かせてもらおうじゃないか? 船長」
それにしてもこの二人は終始仲が悪かった。
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「敵船、左につきますっ!」
「総員乗り込み準備っ! いいかっ! 後方にいる奴らは命に代えてでも乗り込む奴らを守れっ!」
船が近づき、互いの横につき始める。相手の船は少し見上げてしまうくらいに大きく、乗り込むには若干不利にも感じた。
「左側の砲門を全部開けっ! 合図があるまで打つなよっ!」
敵船には砲門がない。やはり、魔法で敵の船を砲撃するタイプの海賊船らしい。そして完全に互いの船が横に着いた頃、少し見上げた先で相手の船の船員が汚らしくこちらに煽りあげているように見える。
次の瞬間、船の上から大量の魔法が照射される。かろうじて船に貼られている結界のおかげで魔法を防いではいるものの、いつまで持つかわかったものじゃない。
「まだ打つなよ」
「結界崩壊まで残り10秒っ!」
甲板の周りで結界を維持させている数人の船員のうちの一人が、報告をする。
「まだだ」
「結界崩壊まで残り5秒っ!」
だんだんと緑の膜で覆われた結界にヒビが入り始める。乗り込むために準備をしていた船員たちが身構えている最中、レベリオは腕を組みその様子を冷静に見ている。自分はというと頭上で響く爆音に耳を塞いでその様子を見ていたわけだが。
「結界、崩壊しますっ!」
「総員っ! 打ち方始めっ!」
レベリオの怒号が響き渡ったその瞬間、緑の結界が崩壊するのと同時に船の下の方で爆音が響き渡る。大きな揺れの中、そして目の前の船の外壁が大きな音を立てて、崩れてゆく。
「後方っ! 魔術部隊の人間を先に殲滅させろっ! 乗り込み開始っ!」
後方の人間が突然の攻撃に戸惑っている相手側の魔術部隊の人間をそれぞれ魔法や、弓などで対抗し撃ち落としてゆく。そのおかげで船に追撃が行われることなく前線に乗り込むために向かった人間たちが相手側の船にロープを仕掛けて登ることが難なくできた。
「結界担当っ! 大砲側の支援に当たれっ! 甲板にいる連中は出し惜しみなんかするなっ! 全力をもってして応戦しろっ!」
レベリオが腰から剣を引き抜き、船員たちに指示を飛ばし始める。
なんだろう、めっちゃかっこいい。
「見惚れてる場合じゃねぇ。テメェらもさっさと準備をしろっ!」
目の前で起こっているロマンな光景に感動を覚えて意識が遠くに行ってしまた。しかし、レベリオの声で現実に戻され、自分達がこれから何をしなくてはならないかということを思い出した。
作戦はこうだった。敵船の交戦中、敵船から見たこちらの船の反対側の光景は死角になる。その間に、ボートを使って近くにある岸に向かって漕いで行けとのことだった。実際に岸は遠目で見てもわかるくらいの距離にあり、この程度な場漕いで行っても問題はないと思える距離だと思った。
要は俺たちを追い出すいいタイミングだったのだろう。
すでに俺たちの持ち込んだ荷物である武器と鎧、その他もろもろは返却されている。
しかし、一番安全といえば安全な方法だ。こっちは敵の砲撃を受けずにこの船を離れることができる。
しかし、それで本当にいいのか。
他人を傷つけ、自分だけ生きる。そんなことが許されて本当にいいのだろうか。
だが、選択はそんなことを考えても決まっていた。
レギナはすでにボートに乗り、急げと目で訴えている。次々と乗り込んで行く船員たちの姿を横目にボートへと向かう。
どんなことがあっても、自分は生きる。
ボートに向かった。その時だった。
突然、大砲を放つ爆音の中に悲鳴のようなものが混じっている。
振り向いたその先、次々と乗り込む船員の中に一つ、いや、一人の船員が。
「フランツっ!」
レベリオの声が響く。
自分は生きたい。
だがそれ以上に。
もう、目の前で誰かが死ぬのは....いやだっ!
『今一色流 剣術 翡翠』
船が傾く勢いで思いっきり身体強化術を使って、敵船に突っ込む形で剣が外壁へと突き刺さる。自分右腕には外壁に突き刺さったパレットソード。そして左腕に抱えているのは、先ほどフランツと呼ばれていた船員だ。よくよく見ると俺がこの船に乗った時にぶん殴られた人だ。
見るとフランツは左肩を何かで打たれたらしく、ダラダラと血を流している。
「....お前は?」
「大丈夫です、船には戻しますから」
右手の剣を支えにし、船の外壁を思いっきり蹴っ飛ばして、元の船へと戻る。着地した船の上でフランツを下ろすと、船員たちが周りを囲い始め船の中に運ばれていった。
だが、そんな様子をどこか安心したような表情で、しかし怒りがこもった目で見ている人物がいた。
レベリオだ。
「おい、大将。何をしてるんだ? さっさと出てってくれ」
「5分....いや、3分ください。そしたら出て行きます」
呪文を唱え、パレットソードを手元に戻す。それを鞘に収め、服装を正すと体に魔力を流し始める。
「ふざけんなっ! チャンスは今しかねぇんだよっ! このチャンス逃したら2度とこの船から出さねぇぞっ!」
「それならそれで結構っ! だけどそんなことよりも目の前で人が死ぬのが俺は嫌だっ!」
短い期間ではあった。しかし、そんな中俺の話を聞いたり、料理を食べてくれた。少なからずもそう簡単には切れることのない想いというものがある。人が目の前で死んで自分だけ逃げ出してのうのうと生きているだなんて恥さらしもいいところだ。
「ちっ....おい嬢ちゃんっ! 大将を引きずっていけっ!」
レベリオが後ろを向き、レギナに向けて怒鳴り散らす。だが、当のレギナはボートから降りて呆れたような表情でこちらを見ている。
「悪いが、こうなったこいつを止めるには骨が折れる。まぁ、本人がこう言ってるんだ、終わったら料理人にでもなんでもさせてやればいい」
そう言い終わった後に、レギナはこちらを向き、行くならさっさと行けという感じに顎を前に出しサインを送った。
「行かせてください。お願いします」
「....ダァーっ! もうわかったっ! 行くなら勝手に行けっ!」
二人のやりとりを見ていたレベリオが諦めたかのようにして後ろを向きフランツの様子を見に行った。
「....ありがとうございます」
次の瞬間船の甲板を思いっきり蹴りだし、向かう場所は甲板の上。
敵船のだ。
さて、次回更新は12月20日です。
今年もあとわずか、話は進んでおりませんが今年中に目指せ100話っ!




