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異世界探求者の色探し  作者: 西木 草成
第2章 青の色
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第84話 証明の色

一周年おめでとうっ!

 足止めしてはいるが、いつまで持つかわからない。とにかくレギナと合流できたのだから今すぐにでもこの場から離れたい。もしこのまま二人とも捕まるようであれば、メルトさんの身柄も、そして当然ながら俺だってどうなるかわかったものじゃない。


 とりあえず、今はここを....っ


「断る」


「....え」


 冷たい視線で、向き合ったレギナがそう言い放った。


「そんな....なんで....」


「なんで? 貴様こそ、どうして私が逃亡犯の人質と逃げなくてはいけない。見当違いも甚だしい」


 そうだ、彼女には俺についてきてもらっているのではない。俺に無理やりついてこさせているのだった。犯罪者と人質。そんな関係であるはずなのに彼女がついてきてくれたのは、単純に彼女の好意なのだろう。


 しかしだ。


「えぇ、確かに見当違いも甚だしいです。ですが、あなたにはついてきてもらわなくては困ります」


「なぜ、誘拐犯にとって時間が経つほどに人質は邪魔だと思うぞ。安心しろ、私が軍に戻った時は私が貴様を処刑してやる」


「それは....」


 アランからの依頼で、と言いかけて喉から出かかった言葉を飲み込む。あの時渡された手紙はすでに処分しているが、今彼女で今回の件を話したところで逆効果だろう。


 絶対彼女は俺を殺してでも軍に戻ろうとするに違いない。


「ともかくだ、逃げるのなら貴様だけ逃げろ。私はここで軍の迎えを待つ」


「....そうですか、わかりました」


 なら、方法は一つだ。


 パレットソードに手をかけ、鞘とつながっているベルトの留め金を外す。その様子に気づいたレギナが腰に差している剣に手を伸ばす。


「なぜそこまで私を連れて行こうとする。理由を答えろ」


「....言えません」


「....そうか....っ!」


 返事をするよりも早く、レギナが先に剣に手をかけ向かってくる。彼女との模擬戦での勝率は0%。当然ながら何度も戦っているうちに彼女の手の内もある程度わかるようにはなった、しかし裏を返せば彼女にも俺の手の内がわかるということである。


 一度彼女に使った技は二度と彼女には通用しない。今一色流で彼女に見られている技は『時雨』『氷雨』『風滑り』『雷閃』『打ち石』『円月斬』『翡翠』である。自分が得意としている技のほとんどは彼女に見られているため通用するわけがない。


 そして、双剣に分解する彼女の剣は脅威だ。ならば、戦法的に分解させる前に決着に持ち込ませる短期決戦の技が必要になる


 彼女との現在の距離はちょうど間合いからだいたい3メートルほど。


 この距離ならいける。


 『今一色流 剣術 長竹ちょうちく


 剣を鞘に収めたまま、レギナに向けて剣を振るう。その瞬間、遠心力で抜けた沙耶がレギナに向かって飛んで行く。


「く....っ」


 レギナはとっさに剣を抜き、飛んできた鞘を振り払う。あの剣の特性として、守りに入った時にしか分解することができない。騙し打ちではあるが、この技が一番有効だろう。


 ひるんでいるレギナに向かって一気に間合いを詰める。


 そして


「か....はっ....」


「すみません」


 彼女の鳩尾に剣の柄を思いっきり叩き込む。そういえば、以前もこんなことがあったような気がする。剣を持った方の右腕の中に倒れこむレギナ、それを支えている。さて、どうやって彼女を連れて密航をしようか....


 ふと、家の方で物音がする。


「レナさん? 大きな音がしたけど、だいじょ....ぶ」


 家から出てきたのはエリだった。現在、この状況を見て声を失って固まっているのがよくわかる。


「え....カケルさん....」


「すみません。お世話になりました」


 ただ、一言だけ礼をして。レギナを抱え、後ろを振り返らず、再び町の方へと戻っていった。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


 街は俺たちがここに来たばっかの時よりもずっと騒々しくなっていた。しかし、賑やかとは違う。あくまで騒々しい。


 憲兵が道を動き回り、完全に見つかったらアウトの鬼ごっこ状態だ。しかし、道がダメだったら道を通らなければいい。


 現在、俺はレギナを抱えて屋根の上を走っている。


 にしても身体強化術様様だ、垂直に飛んでも軽く3メートルはあるだろう建物を超えることができる。建物の途切れている部分なんかも軽々と飛び越えていけるし、よって下で巡回をしている憲兵に見つかることなく港へと行くことができる。


 しかし色々と失敗した。まず、財布をあの家に置いてきてしまった、全財産なのに。そしてカイやキニアにちゃんとお礼が言えなかった。最後に、思ったよりレギナを抱えながらの移動がつらい。


 俗に言うお姫様抱っこというやつなのだが、やはりあれは少女漫画だけの世界だ、これをしながら走るなどバランスが悪くて仕方がない。


 走り続けてしばらく。ようやく先ほどの港へとたどり着く。曇り空であるのに変わりはないが、高いところから眺める海も悪くないなどと考えてしまった。


「ねぇ、これからどうするの? 下に怖い顔した人いっぱいいるんだけど」


「....えっと....随分と小さいですね」


「うるさい、それより何か言うことないの」


 ふと声のした方向へと顔を向けると、そこにはちょこんと俺の右肩に座れるくらいにミニマムなサイズになったウィーネがいた。


「ありがとうございました」


「絶対に私の精霊石を見つけなさいよ。それでどうすんのこれから?」


 そうだ、いつレギナが起きだすかわからない。もし起きたら問答無用で俺に斬りかかるだろう。そうなったらおしまいだ、そうなる前にまずは船に乗り込まないと。


 肝心のリュイの船を探すと、大通りを挟んで向こう側に見える港の方で、帆を張ってすでに出航準備が整っている状態だ。すなわち、大通りを飛んで渡らないと船にはたどり着けないわけだが、どう考えても道の幅は30メートルを軽く超えていそうだったし身体強化術を使っても反対側の屋根には届かないだろう。


「一旦降りるしかないか....」


 屋根の上から、なるべく人が通らなそうな裏道に飛び降りる。普通に飛び降りていたら両足複雑骨折だろうと思った、身体強化術を使っても両足からビリビリとくる。


 降りた道にも何人か人はいたが、ホームレスらしい彼らは屋根から人が飛び降りてきたのに特に気にする様子はない。


 レギナをお姫様抱っこからおぶさるように持ち替え、なるべく憲兵達と鉢合わせないようにルートを選びながら進んで行く。大通りを監視スレスレのところで抜け、港のそばまでたどり着く。


「....くそ....っ」


 しかし、たどり着いた港にも、当然ながら憲兵がウヨウヨしていた。全体的に見て30人ほど。どうやら船員一人一人に尋問を行っているらしい。おかげで船の出発時間は遅れているが、問題はどうやって目的のリュイの船に乗り込むかだ。


 その時だ。


「そこのっ! ゆっくりこっちを向けっ!」


「....っ」


 裏道で港の方を眺めていた、その背後から急に鋭い声がかかる。恐る恐る振り返るが、この声にどうも身に覚えがあった。


「....カイさん」


 目の前で槍の先端を、突きつける憲兵。それは1日ではあったが、共に時間を過ごしたカイ=ユーラスだった。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


「貴様、名前はっ!」


「....イマイシキ ショウ」


 カケルの方ではなく、しっかりと本名を名乗る。


「その背負っている人の名前はっ」


「....レギナ=スペルビアです」


 目の前には1日とはいえ世話になった人物。そして1日とはいえ、同じ飯を食べ風呂に入って語った人物。そんな人間に裏切られた、裏切った気持ちとはこんなにも重いのだと知った。


 おそらく、向こうも同じ気持ちなのだろう。


「言いたいことはわかるな」


「....はい、ですが。僕はここで彼女を連れて逃げます」


「言わなければわからないのか? 誘拐、放火、脱獄。それらの容疑で指名手配犯、イマイシキ ショウをここで捕らえると言っているのだっ!」


 実際に言われてみれば、自分がとんでもないことをやらかしているのが自覚できた。誘拐や脱獄はともかく、放火は知らないが。だが、今自分が捕まるわけにいかない。


「もし僕が今あなたに捕まったら、僕は再び処刑台に登ることになるでしょう」


「あぁ、それが貴様の犯した罪の重さだ。イニティウム、知っているぞ。あそこには俺の友人もいた。そこに火を放ったそうだな」


「それは....僕はやっていません」


 事実だ、そもそもといえばイニティウムに魔物の襲撃さえなかったら、俺はこうやって多くの人間に追われることなく今頃は....


 しかし、そんなことばかり考えてもそれは夢物語だということは十分に分かっている。そして、他人にこうも言われるとこんなにも悲しいのだと思った


「カイさん、僕がそんな人間に見えますか? 街一つを火の海にしてしまうような人間に見えますか?」


「....わからん」


 そして、自分がそんなことをするような人間でないということをわかってもらいたい。自分が街に火を放つような、そんな冷酷な人間ではないというのを知ってもらいたい。


「僕は、そんなことをする人間ではありません」


「もういい、わかった。何も喋るな」


 カイが首に下げている筒状のものに手をかける。そしてそれを自然な動作で口元に持ってくる。


 あれは、呼び笛か。


 とっさにレギナを下ろし、パレットソードに手をかける。そして横一閃。


 ちょうど口に加えようとしていた笛を一刀両断する。


「な....」


「僕の話を聞いてください」


 突然手元で笛を一刀両断したのだ。警戒心を持たれても仕方がない、しかしここで他の憲兵を呼ばれるわけにはいかない。


「....貴様、何故そこまで....こんな状況になっても逃げるつもりか」


「はい、僕は死ねないんです。あのイニティウムで自分が救えなかった人のために、自分に生きて欲しいと願っている人のために」


「もし俺がここを退かなかったらどうする。貴様は俺を殺すか」


 そう、俺はリーフェさんの墓に行くまで死ぬことはできない。そしてもし俺を邪魔する存在がいるのなら、どんな障害だろうと押しのけて進む。


 しかしだ。


「いいえ、僕はあなたを殺せません」


「....そうか、わかった」


 どんなことでも俺は人殺しはしない。自分の助けてもらった命を血で汚すわけにはいかない、リーフェさんが助けてくれた俺の命が正しかったことを証明するために。


 そして、その答えを聞いたカイは槍をそっと下ろす。


「息子の一件、ありがとう。だが、これで貸し借りはなしだ」


「....ありがとうございます」


 ゆっくりと、背中を向け、一度も振り返らずカイ目の前からいなくなった。


 そして、そのあと俺たちは謎の情報で憲兵たちが見当違いなところを集中して探したために、船員もろともザルになったリュイの船へと乗り込むことに成功した。


なんやかんやで一周年です。


読んでくれたみなさんありがとうございます。


感想もらえたら嬉しいです。


それでは、次回更新は11月26日になります。


感想と評価は大大大歓迎ですっ!

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