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異世界探求者の色探し  作者: 西木 草成
序章 序章の色
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第7話 生き方の色

 俺に母親はいないが父親の性格は大抵その息子に似通ってくるというのを聞いたことがあるが、自分はその典型なのかと思う時がたびたびある。


 生まれも育ちも同じ田舎だった父、今一色 一登は今一色家の長男として生まれその家に代々続く今一色流武術を17歳で皆伝した実力者である、にもかかわらず非常に剽軽な性格で勉強は多少できたものの大学を途中で中退し、挙げ句の果てに、ある女性との付き合いをしたものの親の反対され駆け落ちをし、そして上京、その頃には親からも勘当扱いされたためしがらみはなかったそうだ。


 友人の計らいで住むところには困らなかったが仕事がなかったため小さな居合道場を開いてそこで師範となる、町の人と子供には人気だったそうだ、そんな中駆け落ちした女性との間に子供ができた、それが俺だ、しかし俺が生まれたのと同時にその女性は俺の前から姿を消したと聞いてる。


 そして俺が小学2年生の時初めて親父の道場へと足を運んだ時、普段見ない親父の気迫に圧倒されたがこの技を習いたいと思い入門した、もともと運動神経は良かったせいでそれ以上に刀が俺に合ってたのか他の門下生を出し抜いて一番の実力者になっていた、高校に入ってからも剣道部に入り、大会なんかでも常にトップを走っていた、しかし、そんな矢先だった。


「師範が!君の父さんが倒れた!」


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


「・・・いろいろ思い出すなあ」


 素振りを何十回か行っているうちにすでに1時間くらいは経っただろうか太陽の位置もだんだん真上に近づいている。


「久しぶりにいってみるか・・・」


 剣を鞘に収め右足をかなり下げ体の姿勢ごとぐっと下げ、風に揺れる草むらの奥の木を見据える。


「ス〜・・・・・」


 息を吸うのと同時、吹いていた風はその口に吸い込まれるようにだんだんと弱くなりそして。


 消えた。


「ハッ!」


 低い姿勢のまま左足で思い切り地面を蹴り一気に前に詰め、右手に持った剣を走らせ横一文に切りつける。


 ブオン!


 切れた草が空を舞い、そしてそのまま風に流され消えていく。


「ッッツ!、やっぱり久しぶりにやるにはこの技は体にくるなあ」


 体の体勢を戻し、そう言って右腕をぐるぐると回し深呼吸。


「まあ、久しぶりの割には上出来か・・・」


 ふと空を見上げれば太陽は真上に来ている、約束の時間が近いが。


「ここどこ?」


 今更自分の今いる場所がわからないことに気づいた。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


「師範が!君の父さんが倒れた!」

 

 高校2年の夏だった、その知らせを聞いたのは俺がちょうど大会会場の外で素振りをしているところだった、知らせてくれたのは一緒に5年間やっていた友人で決して実力者ではなかったが努力を惜しまない頑張り屋だった、そんな彼が血相を変えて自分のところへ飛び込んできたのだ、すぐさまその大会を棄権し、その足で親父の搬送された病院へと向かった、しかしそこにはたくさんの機械に繋がれた親父の姿、医者からは突発的な脳溢血と診断された。

 

 その後何日も目が覚めない日が続き、そしてそのまま帰らぬ人になってしまった、葬儀にはたくさんの人が集まりその中には親父の父と母、言うなれば俺の祖父と祖母にあたる人も来ていた、そしてそこで初めて親父の生い立ちを知ることになる。


 そのあとは大変な日々だった、大学の進学を諦めアルバイト日々、祖父母も援助するとは言ってくれたものの父さんの意思を考えた末、結局断ってしまった、アルバイトを傍らに、昔から大好きでやっていていた考古学の勉強を必死にやって早3年、考古学の力を活かし様々な遺跡現場へ行って勉強していた最中に偶然か運命か、異世界へと転移をしてしまうということが起きてしまった。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


「まあ、ようやく街に着いたけどなぁ・・・」


 相変わらずここすげえ。


 猫に、犬に、狐まで、様々な獣人と呼ぶ人々が行き来し、その中には当然人はいて腰に剣を下げた人、手に野菜のカゴをぶら下げる人、井戸から桶を取り出して水を飲む人と石造りの家が並び、石畳の街道はまさにビバ異世界な光景がある。


 日本のオタクの皆様本当にお気の毒です。


「にしてもさっきからジロジロ見られるんだよな・・・」


 そう、この街に入ってからというものの人からの視線が多く、ひそひそ話が絶えない、自分の身の回りを見てみるが腰には剣、上には作業着下はカーゴ色の作業ズボンだ、そして辺りを見渡すとやっぱりべ○バラの庶民のような格好をしており、冒険者らしき人物は革製の鎧を身にまとって剣を腰に下げて、この中では俺は少し浮いた存在であると思う。


「ただ内容がなぁ・・・」


 問題は話の内容である、聞けば女に担がれた、だらしのない男というやつが多かったが、中には頭が気の毒な人という話もあった、仕方ないとは思うがやはりいい気はしない、そうこうしているうちに昨日押しかけたギルドが見えてきた。


(入りづらいなあ)


 とにかく扉に手をかけて中に入る決心をする、そうだ昼時なんだからみんな仕事に行ってそんなに人はいないだろう。


「お、お邪魔します」


「ようこそギルドへ、今日はどのようなご用件d」


 ん、言葉が止まったぞ


「す、少しお待ちくだしゃい!」


「は、はあ」


 そう言うと受付嬢さんはカウンターの奥へと小走りに消えていった、受付嬢さんなんか噛んでたけど大丈夫か?それにあの人猫耳だったなあ。


「・・・イイ・・・」


 中は受付さん以外、人はいないな、とにかく近くの椅子に座って辺りを見渡すが中はカウンターと椅子と掲示板にたくさん貼ってある紙、棚に置いてある数冊の本以外にはあまり目立た物はなくどこかのロッジみたいな雰囲気があると思った。


 そんなことを考えているうちにカウンターに誰かが来る気配を感じそちらに視線を移すとそこには自分の予想通りの人物がいた。


「やっぱりリーフェさんですか」


「やっぱりって何ですか、こうして出てきてもらっただけでもありがたいと思ってくださいよ」


 そこには制服姿に身を包んだ、エルフ族のリーフェの姿があった。


「おそようございます」


「おそようございます、よく眠れましたか?」


「ええ、おかげさまで」


 やはり仕事なんだろうか笑顔は絶やさない、制服はキャビンアテンダントみたいで彼女のスレンダーな体にフィットした感じがよく似合ってる、長い緑色の髪を後ろに束ね、綺麗でぱっちりした翡翠色の目がまっすぐこちらを見ている。


「あのそれで、え〜っと・・・」


「ショウで構わないですよ」


「はい、そのショウさんはこの後どうなさるおつもりですか?」


 そうだ、そこが肝心だ。


「そうですね・・・とにかく今の私は無一文なんでこの先この世界で暮らすとなると仕事が・・・」


「そうですね・・・なんか仕事でできそうなことってありますか?」


 ん〜できそうなのって言ったら・・・裁縫か?いやいやそれはないな。


「ちなみにどんな仕事がありますか?」


「そうですねぇ・・・ここで紹介している職業は鍛冶職人と生産業、商業関係、あとは冒険者ですかね・・・」


「冒険者になります!」


「・・・本気で言ってますか?」


「はい!」


 もうなるしかないっしょ!異世界のハイライトじゃん!あれ?なんで俺そんな目で見られてるんだ?


「主に魔物などが住み着く危険な土地に人々の生活に必要な素材を採取するのが冒険者の主な仕事です、、対魔物戦、また採取した素材を狙う盗賊を相手する対人戦、剣術などの戦闘スキルが必須な職業ですが・・・本気で言ってます?」


「ええ、剣術なら親父に習ってたんで大丈夫です」


「はぁ、でしたら構わないんですが・・・」


 心配そうな顔でこちらを見上げているリーフェだが、あまりそんな目で見て欲しくはないな、やっぱり美人は笑顔が一番!


「大丈夫です、こう見えても剣術と逃げ足は地球一だった自信がありますよ」


「フフッ、そうですかでしたら大丈夫ですね」


 そうだよ、その顔だよ、美人は笑顔に尽きる。


「それで職業は冒険者ということにしたいのですが、申請しなくてはダメなのですか?」


「えぇ、何度も言うように危険な仕事なので管理や安否などは個人で管理できる範疇を超えるので一応ギルドに申請してもらって頂くようになっています、詳しい話はショウさんが決めてからにしますがどうしますか?」


「ん〜〜〜」


 正直迷うところだ、危険と隣り合わせの生活でこの世界でぽっくり死んだらシャレにならない、かといってせっかくの異世界で自分の唯一の技能を生かせないというのもなんか切ないものがある。


「・・・決めました、やっぱり冒険者になってみます」


「わかりました、ではあなたの剣術と逃げ足に期待しますね」


 そう言って微笑むと彼女はカウンターの下に潜り込み一枚の紙を取り出した。


「それではこちらの項目に記入をお願いします」


「はい・・・ウッ!」


「どうかしましたか?」


 そういえば俺はこの世界の文字は読むことができても書くことができないんだった。


「・・・あの・・・え〜と・・」


「はい」


「すいません、字は読めるんですけどその・・・書くことができなくて」


「わかりました、それでは代筆という形でいいですね」


「・・・はい」


 字が書けないというのは結構日本人にとっては恥ずかしい、それをましてや美人の前で告白するのは恥ずかしさも倍増だろう、恥ずかしく思っていることを悟られたのせいか彼女がこちらに向かって微笑んで。


「大丈夫ですよ、字が書けない人は珍しくないのでこのように代筆を承ることもあるので」


「はぁ、そうですか」


 ん〜、でもやっぱ恥ずかしいかな。


「それでは質問しますね、お名前は?」


「今一色 翔です」


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