第62話 世界の色
遅刻〜っ
「隊長は現在、処刑される予定だった冒険者イマイシキ ショウと行動を共にしています」
「それは報告書にも書いてあった。それ以外の言葉が聞きたいのだよ。私は」
椅子から立ち上がり、こちらへと近づく白い法衣の男。ユリウス=ペンドラゴン、人間とエルフの血を持つハーフエルフと呼ばれる存在。世界にも数人しか存在しないと呼ばれ、エルフの長命と魔力の高さを持つ人間であり、その出生率の低さから『奇跡の子』とも呼ばれている。
そして600年続く王都騎士団の創設者でもある。
「イマイシキ ショウと言ったか? その冒険者は」
「はい、ランクBの新人冒険者だそうです」
新人という言葉に、ペンドラゴンの人よりもいくらか長い耳がピクリと動く。
「私は冒険者というものをやったことがないのだが、ランクBで新人というのはどういうことなのかな?」
「調べでは、ギルド長の推薦でランクEからではなくランクCからのスタートだったらしいです」
ペンドラゴンの表情は硬い。右手を自分の顎に寄せしばらくさすり考え事をしている。
「その者の詳細については」
「ギルド本部は我々王都騎士団への個人情報の開示はしないとのことで、詳細は取れていません」
ますます表情が硬くなる。ギルドは国家権力の干渉がない、独立した機関だ。故にギルドにも国家と法のようなものがあり、その一つにギルドの所有する冒険者の個人情報はどんな理由であるにせよ、その個人の承諾がなければ開示することは許されない、というものがある。
「色落ちの隊長と、名前と職業以外わからない冒険者の逃避行か....なかなか物語になりそうな話ではないか? 我が旧友よ」
「サー・ペンドラゴン。事は一刻を争います。ただでさえ『啓示を受けし者の会』が狙っているのです。このままでは....私たちの隊長は殺されてしまう」
啓示を受けし者の会。その組織は王都騎士団が創設するよりも以前に存在する。その目的は魔術開発、歴史調査、聖典の解読となっているが、王都公認の研究機関であるにもかかわらず実態ははっきりしていない。
「我が旧友よ、君にとって世界の基本とは何かね?」
「世界の基本....ですか?」
世界の基本、それは基盤となっていることだろう。それは人間がいて、文明があって、国があって....
「この世界は魔術、すなわち魔力ありきの世界なのだよ」
「魔術....」
すると、ゆっくりと窓から入る光を眺めながら、ペンドラゴンは遠い目をし始める。
「もしもこの世界に炎がなかったらどうなるだろうか? 我々は未だに夜に恐れ、魔獣の襲撃に怯えながら洞窟などに身を潜めていただろう。もしもこの世界に魔術で作る水がなかったら、我々は日々飲める水を得るのに苦労し、喉の渇きに苦しんでいただろう」
つまりだ。
「我々の文明は、すべて魔術が作ったと言っても過言ではない」
魔術、それはこの世界のすべてに与えられた恩恵であり、この世界に光を与えたものだ。暖炉の火を灯すのも魔術、日々の飲み水を得るのも魔術、農業の発展、建物を作るのも魔術だ。
この世界は魔術によって成り立っている。
「すべてに魔力という名の『色」が与えられ、人々はその色で生きる道を選んだ。あるものは鍛冶職人、あるものは農家、あるものは治癒師」
すべて、『色』がこの世界に住む居場所を与えてくれた。
「だが、果たして無色はどうだろうか? 『無色』という色を与えられながれも、火を起こすことも、水を得る術をも持たない魔力。すべての人間に与えられるべき恩恵がない者たち」
「....」
「だが、そうだろうか。たとえ火は起こせなくとも、水を得ることはなくとも、『無色』の人々は自ら生きる術を手に入れようとしている」
我が旧友よ、私はこう思うのだ。
「無色の人間こそが、今ある我々の未来を変える大きなカギなのではないかと」
「それは....隊長が、ということですか?」
窓の外を眺めていたペンドラゴンがこちらに振り向き微笑む。
「『啓示を受けし者の会』はおそらく私の言うことに耳を貸さないだろう。むしろ彼らは無色の人間を排除しようとする。だからこそだ、我が旧友よ」
どうか、彼らの旅路に災いのあらんことを。
「イマイシキ ショウの件についても報告しなさい。話は以上だ、我が旧友よ」
「ありがとうございました」
手に持っていた資料を執務室の机の上に置き、扉をくぐって外へと出る。
「そうだ、我が旧友よ。少し待ちなさい」
「はい」
扉を開けようとしたところで呼び止められその足を止める。ペンドラゴンは扉のそばまで近づき、耳打ちした
「了解です、サー・ペンドラゴン」
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「レギナさん....これでどうでしょうか?」
「ダメだ、動きやすそうだが露出が多い」
温泉街に来た時には、温泉饅頭とか食みながらいろんなところを見て回ったりするものだと思っていた自分が間違っていた。
現在、金属臭い防具屋でレギナに合う防具を選別中である。
「いっその事、もうオーダーメイドで作ってしまうとか....」
「金に余裕がない。これから先、貴様の予定を考えると足りなくなる」
現在、レギナは浴衣と洋服の混ざったようなものを着ているがどう考えても戦闘用の服装ではない。下はショートのパンツにするということは決定したのだが、王都騎士団の防具に慣れてしまっている彼女にとってはどれも粗悪品二位しか見えないらしい。
「おい兄ちゃんっ! これで在庫は全部だっ!」
「す、すみませんっ!」
後ろに置かれた木箱、どうやらこれで最後の在庫らしい。これでダメだったら....どうしよ。
「....う〜ん、結構バラバラなんですね」
「あぁ、まぁ中古の品だからな。だが部分的でも全然使えるからな」
何かあっても呼ぶなよ、と言い残して店主は店の奥へと姿を消した。木箱の中には、どこかの甲冑の一部、もしくは手のみだったり、足だけだったり、あとは頭だけのヘルメットだったり。見る分には使えそうなものは多いが....果たして彼女が満足するか....
「左手のはあるか」
「左手ですか?」
そういえばこの人は左利きだったけ、木箱の中をあさると左手だけの青く塗装された防具が出てきた。
「これだけですね....」
「見せてみろ」
左手の防具を渡すと、それを装着し、肘の動きや、手首の動作などを確認する。
「悪くないな、これにしよう。あとその胸当ても見せろ」
今度は赤く塗装された胸当てを手渡す。それを自分の胸に当て体を折り曲げたりときつい部分がないかを探す。
「少し胸周りがきついが、戦えないわけではないか」
どうやら、決まったらしい。胸周りがきついとは言っていたが、男性用の防具なのだからしょうがない。でも彼女は男性用の防具をつけても大丈夫そうな体つきはしていると、個人的に思う。
「さっさと買うぞ。そして明日には出発する」
「わかりました」
あれ、レギナさん。なんか怒っている?
防具店を後にし、すっかり陽の落ちた街を歩く。魔術光の漏れでる家と、ランプに割光石を入れて道を歩く人たちがいるため、あまり光源には困らない。
さて、宿を探すがどうしようか....
だがこの時は、思っていなかった。『啓示を受けし者の会』という昔に聞いた話が、この街で思い返されることになるとは。




