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異世界探求者の色探し  作者: 西木 草成
第2章 青の色
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第55話 歪みの色

二日に1話

 今から15年前。オットー=フックスは王都の重要魔術研究員として、日夜王都のために新魔術の開発を開発していた。


 それが何の研究であるのか、それは世界を進化させる魔法の開発。人々の安定した暮らしを守り、より充実した人生を送るための魔法の開発。そんな夢を持って王都に勤めていた。


 その間に良き妻とも巡り会い、子供をもうけ、家庭を持ち守りたいものが増えた。より一層仕事に精を注いだ。


 それがまずかった。


 自分の行っていた研究が何に使われていたのか、それを知ったのは研究結果の発表先だった。


 人を殺す兵器としての魔術だった。全ては人々の発展のため、そう思って研究していた魔術が人を殺すためのものだったなんて思わなかった。研究内容は本来人々を救うものとしての魔術開発を人を殺すための兵器に移り変わった。


 このままではダメだ。そう思った時自分は妻と別れていた。理由は簡単だ、魔術兵器を開発している人間の側に妻と子供を置きたくない。


 それ以上に怖かった。自分の開発した魔術が何れ妻と子供を殺してしまうのかもしれない。そう思ったオットーは研究資料をすべて持ち出したいっさいがった際すべて、人の目の触れることのない深い森の奥へ、そうやって自分も姿を消したのだ。


 これは守るため、妻と子供を自分の生み出した魔術から守るため。と言い聞かせている。


「まぁ、こんな話さ。俺がここに住んでいるのは」


 そう言って側のコップから煽るようにして水を飲み干す。


「さぁ、こんなしみったれた話は終いだ」


 ....そうだ果物を取るのを忘れてた。目の前のブドウみたいな果物からひとつまみ身をもぎ口に運ぶ。甘酸っぱくて美味い。


 オットーさん、奥さんと子供に15年も会ってないのか....


「すまないね、王都騎士団の人間の前でこんな話をしてしまって」


「....別に構わないのですが....なんでこの話を私たちに?」


「単純な話さ。こんなとこ滅多に誰も来ないし、誰かに話を聞いてもらいたかったのかもな。おかげで少し気持ちが軽くなったよ。ありがとう」


 そう言って頭をさげる彼の姿は、自身の守る道というのを貫いている男の姿というのだろうか。自分には到底できない。愛する人の元から15年離れ、こんな深い森の中でひっそりと未だに研究を続けている。『薬草学』という本当に人を救うための道を。


 本当に、自分には到底できない。


「さて、どうせお前らも追われの身なんだろ? だったら追われの身誼みでなんかくれてやるよ。何がいい」


 それは嬉しい話だ。そうだなぁ....今一番欲しいものと言ったら....


「では、フライパンと調味料を分けてもらえませんか?」


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


「本当にお世話になりました」


「いやいや、今度また来てくれ」


 家の外は昨日の天気とは違い日本晴れだ、とても清々しい。朝食を食べた俺たちは家をすぐに出ることにした。向かうべきは青の精霊のいる場所。ここから結構距離がある、ならば行動を早めにしなくては。


「それではまたな『カケル』」


「あ....すみません」


 そうだ、俺ずっと偽名を名乗っていたのを忘れてた。この際、もう本名を名乗ってもいいか....


「俺、実は『カケル』って名前じゃないんですよ。訳あって偽名を名乗らせていただきました。本当に申し訳有りません」


「なんだ? 誰かに追われでもしてんのか?」


 う....鋭い。確かに今追われの身だが。


「まぁ....聞かないでください。俺は今一色 翔です。今度会った時はこの名前でお願いします」


「....そうか、また会おう。イマイシキ ショウ」


 そう言って互いに握手を交わし、俺は青の精霊を探す道へと進んだ。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


「そういえば....レギナさん?」


「なんだ」


 森の道無き道を進んでいる途中、ぬかるんだ足元に注意しながら前を歩いている俺の後ろにはレギナが付いてきている。


 なんで逃げないんだ?


「あの....俺が言うのもなんですが、逃げないんですか?」


「....まぁ今回の一件で少し考えが改まった。貴様の死刑に変わりがないが、監視官付きの執行猶予をくれてやる」


 不機嫌そうな声が後ろから聞こえてくる。ちなみに彼女の武器は俺が持っているが逃げ出すつもりがなくなったというのならこっちとしては都合がいい。


 ん? 執行猶予、ということは期限付き?


「え....と、執行猶予ということは期限があるんですよね?」


「あぁ、期限は私の部隊に見つかった時点で終了だ」


 これは....確実に見つからないようにしないと....


「それまでに、私の考えを変えるような行動を取ってみるんだな」


「はぁ....」


 考えが変わるような行動....どうやったら考えを変えてくれるか....


「ったく、この森湿気っぽくて本当にクソだろ。なぁ、全部燃やしていいか?」


「ふざけるな、さっさと消えろ」


「へいへい」


 いつの間にかそばを歩いていたサリーが物騒なことを言い出す。本気でやりかねないからやめてほしい。にしても出たり消えたりと、こいつはどっから湧いてくるんだ?


「イマイシキ ショウ。前々から気になっていたんだが貴様一体誰と話をしているんだ?」


「え....あぁ、それですか....」


 さて、実はそばに精霊がいるんですよなんてファンタジーなことを言っていいのだろうか? いや、確かにこの話はファンタジーなのだが地球でも幽霊が見える人だの幽霊が見えない人だのと同じ扱いなんじゃなかろうか? 彼女には見えてないようだし....


「俺....ちょっと精霊ってのが見えて....それでそいつがさっき『湿気ってるからこの森燃やすぞ』って....ハハ、信じませんよね?」


 ちょっと足を止めて後ろにいるレギナを見る。あぁ、やっぱりなんとも言えない顔をしてらっしゃる。やっぱり『幽霊見えるんです、私』って言ってるのと同じことなのだろうか?


「精霊が....見える?」


「あ....はい」


 なんだ、なにやらただならぬ雰囲気が彼女から漂ってくる。そんなとんでもないことを僕は言ってしまったのか?


「それは....その精霊と契約して、ということか?」


「え....と、なんだか仮契約、て聞いてますけど?」


 そうだ、確かにサリーは仮契約だと言っていた。いや、待てよ。となると彼女の中では精霊と契約すると精霊を見ることができるという前提を知っている? ということはかなりメジャーなのか?


「貴様....もしかして精霊術師なのか?」


「え? セイレイジュツシ?」


 なんだそれ、初めて聞いた。でもなんだろうか、ゲームやらラノベやらに出てきそうな単語だとは思う。ふと後ろの方で足音の止まる音がする。振り返るとレギナが怪訝そうな面持ちでこちらを伺っていた。


「精霊術師という名前は貴様でも聞いたことはあるだろう」


「いえ、まったく」


「....」


 いやいや、そんな顔をされても。そんな田舎モノを見るような目で俺を見ないでください。


「本当に知らないのか? 精霊術師の出てくる話なら子供なら暗唱して話せるほど有名だぞ?」


 つまり日本でいう『桃太郎』とか『浦島太郎』とかのようなものか。でもどうしてリーフェさんとかは教えてくれなかったんだろう。


「すみません。本当にわからないんです」


「....『無色精霊術師の聖戦』....本当に知らないのか」


 無色....精霊術師。当然ながら無色とは魔力の色のことだろう。そういえば何千年か前に無色の人間がいたとかいなかったとかをガルシアさんから聞いたようなきがする。もしかたらこれの話だったのか?


「知らないなら....まぁいい。とにかく精霊が見えるということがどういうことなのか、教えてやる」



次回『無色精霊術師の聖戦』


更新は9月22日ですっ!


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