第51話 雨の色
第2章、開幕です。
さて、現在状況の説明から始めるとしよう。
現在状況、絶望。
いきなり、一体、なんなんだ、と思っている読者諸君。詳しくは閑話をすっ飛ばした、『第1章 赤の色』を読んでくれ。特に後半らへん。
冗談はさておき、とにかく絶望的状況であるのには変わりない。ほんのちょっと前、主人公こと俺、今一色 翔は単純に言うと処刑されかけていた。理由は上記にある通りだ。
そしてなんやかんやで、そこの殺されかけた部隊の隊長を拉致。命からがら逃げ出したのはそこから結構離れた森、一人の鎧に包まれたお嬢さんと疲れ果てた体にムチ打っている体を抱えている割には結構頑張ったのではないだろうか。
「お前、さっきから何グチグチ言ってんだ? ウルセェんだけど」
「あぁ、悪いすまん。独り言だ」
さっきから隣で発光しながら雨に打たれて湯気を立たせている男。通称サリー。俺の剣にくっついてきた精霊ということ以外何もわかっていない人物だ。
そんな俺たちは雨降る森の中、洞窟を見つけそこで雨宿りをしている状況だ。
「そんで、その手紙の内容。どう受け取る?」
「はぁ、結局は厄介ごとを余計に受け持ったってことだろ。めんどくさいな」
正直言って逃げるだけでも精一杯だというのに、これ以上厄介ごとを背負おうものなら命が危ない。
目の前にあるのは、炎に照らされた一枚の手紙。差出人はわかっている。
アランだ、あの弓兵隊長の。
おそらくあの時、防具をつけた時に一緒に挟めて入れたのだろう。この世界の文字は読める、目の前に自分の知っている言語があるかのように読むことができる。そこに書かれているのは次の文章だった。
『イマイシキ ショウへ
この手紙を読んでいるということは、無事逃げ出すことができ、隊長こと、レギナ=スペルビアを拉致することができたということだろう。
さて、まずこんな状況になったのには二つ理由がある。一つ目は『啓示を受けし者の会』だ。少なからず名前は知っているであろう、そこでは無色の魔力を持つ人間を研究している、既に気づいているかどうかはわからないがレギナ=スペルビアは無色の持ち主だ。』
ここまでを読んで、後ろで縛られ身動きを取れないでいる彼女を見やる。確かに先の戦闘で俺の目には他の人間の魔力は見えていたのに、彼女だけは何も見えなかった。
すなわち彼女は無色ということなのだろう。
手紙の続きに目を通す。
『ついては、そのことが『啓示を受けし者の会』に知られてしまった。もし彼女が彼らに連れて行かれれば軍は解体、王都騎士団9番隊はなくなってしまう。ここまで書けば、あとはわかるだろう。一応、罪人に隊長がさらわれたとなれば責任問題などはあるにしても軍は隊長行方不明ということで軍の存在は維持される』
罪人てのは俺のことだよな。勝手なことを言ってくれる。
要するにだ、軍が解体すれば多くの兵が路頭に迷うことになる。そうならないためにも、彼女を『啓示受けし者の会』に引き渡すわけには行かず、俺にさらわせるような真似をさせたと。
なんて、手前勝手な話だ。
『二つ目に、王都が我が9番隊の解体を目論んでいる。しかも最悪なことに反逆罪を理由にとのことで解体しようとしているとの噂が入っている。理由は定かではないが、そうなれば隊長はもちろん、部隊の人間は全員処刑。だが、肝心の首謀者に仕立て上げる予定の隊長がいなければ王都も手は出せないだろう。隊長がいない間にこれらの問題を解決するつもりだ。
隊長は必ずお前のところから抜け出し、俺らの部隊に戻ろうとするだろう。そうならないためにも、お前がそばにいて隊長の抑止力になれ。話は以上だ、後の行動は任せる。追って連絡を入れる』
理由はよくわかったが、解せない。よりにもよってやっぱりこの隊長をおんぶ抱っこして逃げろと。冗談じゃない。本当になんて勝手な話だ。
そう思い、手紙を丸めて火に焚べようと思ったその時、手紙の端に書かれている文章に目がいった。
『追伸
君の仲間たちの処遇については任せろ。安全は保障する。ただし、これらの依頼を反故しようものならその安全は保障できないものとする。
くれぐれも隊長にこの手紙を読まれるな』
すなわち、メルトさんたちは人質ということで受け取っていいんだな。しかし、俺がこの後ろにいる隊長を連れて、どっかにでも逃げればその安全は保障される。ということはこれはかなりハイリスクな鬼ごっこということになるわけだ。
「内容はお前の頭ん中から流れてきたが、どうするこれから」
「....とにかく、後ろにいる隊長からここの場所を聞かない限り行動しようにもできないだろう」
俺は立ち上がり、手紙を懐に入れると後ろで縛られている隊長のところへと向かう。
口には猿轡、両手はロープ、当然ながら武器は取り上げてある。
俺は首の後ろで結ばれている猿轡の紐を緩め、喋れるようにする。
「貴様っ! 私をさらって何をする気だっ! 答えろっ!」
「っ....! 洞窟なんですから大声を出さないでください」
大きく反響したその声に思わず耳をふさぐ。どうやら怒鳴れるほどの元気はあるみたいだ。
「それよりもご飯を食べませんか? お腹が空いたでしょう」
「私を誘拐した人間の飯なんか食えるかっ!」
ごもっとも、俺でも同じ反応をするな。
外では雨が降っており、その音が洞窟で反響する。この中で食べれる物を見つけるのはなかなか難しかったが、それでもまともなもの作っておいた。
ウサギみたいな動物のもも肉の串焼き、そこら辺で拾った食べれる草の....なんかのソテー。
以上。
あそこを抜け出して最初に思った後悔は、ちゃんと脅しの内容に調理器具を入れとくべきだった。
まず、串焼きから。
....うん、塩が欲しい。このなんとも言えないもっさり感、決して食べられないわけではないんだがなんとも味気がない。
次にそこらへんの草のなんかのソテー、こいつはそこらへんにあった適当な平たい石を焼いてその上に草を乗せて焼いただけだ。
....やっぱり塩が欲しい。
香りはとても美味しそうなんだけどものすごく素っ気ない味がする。こういうサバイバル料理ってちょっと憧れていたんだけどなぁ....幻滅した。
しかもそれを彼女も食べるかと思って二人分用意してしまったものだからどうしようか、捨てるのは勿体無いし....
そして、それ以上に。
一人で食べる食事がこんなにも寂しいとは思わなかった。
地球にいた頃は一人での食事なんて毎日だったのに、なんでこんなにも寂しいのだろうか。
目の前に自分の作った料理を美味しそうに食べてくれる人がいないだけで、なんでこんなにも寂しいのだろうか。
「リーフェ....さん....っ」
苦しい、辛い、そんな思いが手に持っている串肉に滴る。もう、あの時の日常は戻ってこない。自分のせいだ。あの時、俺には大事な人を守れる力なんかなかった。
自分は強くなんてない。守りたいものを守れない自分なんて、強くもなんでもない。ただの腰抜けだ。
「貴様....泣いてるのか?」
「....え?」
ふと後ろから、声がかかる。
誰かは分かった、後ろで縛られているレギナだ。
「あぁ....すみません、こんな情けない姿を見せてしまって」
「....」
自分は一体何をやってるんだろうか。逃げ出して、ましては人をさらって。自分が生きたいって、自分勝手な理由をつけて、それでも惨めに生きようとする自分が情けなくてしょうがない。
「ショウ....だったか」
「え、えぇ。そうです」
振り向かずにこう答えるのは、自分の泣き顔を見られたくないという思いからだ。だが彼女の声は洞窟に反響してよく聞こえる。
「なぜ、お前はあの処刑の場から逃げ出し私をさらったのか、理由を聞かせてもらおうか?」
「....あなたをさらった理由は....今は言えません」
「そうか」
その声はあまりにも冷淡で、こっちの気持ちがだいぶ鎮まってゆくのがわかった。だが、今なら言えるだろう。なんで自分が逃げ出したかを。
「罪滅ぼしです」
「罪滅ぼし?」
「えぇ....自分はリーフェさんに守られて助かった命です。ならば、生きていることが唯一の罪滅ぼしです。俺は....何があっても生きなきゃいけないんです」
どんな辛いことがあろうとも、どんなに苦しいことがあろうとも、何もかも失って死にたくなっても。
俺は生きなきゃいけない。そう決めたんだ。
だから....っ!
俺は腰からパレットソードを取り出し、身動きの取れない彼女に突きつけて問いただした。
「教えてください、ここがどこなのかを....っ」
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彼女は、予想よりもすんなりと答えた。それは自分に対しての恐怖心か、それとも呆れか、そのどちらでもないのかよくわからなかった。
だが、わかったことはあった。
『アエストゥス』
今、俺たちのいる国の名前だ。
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